Masukエヴァレット夫人も頷いた。 「これなら、試せます」 ニナが横から言った。 「前よりは」 リーナが小さく笑う。 「その言葉、今日二度目です」 「大事です。前よりは、です」 ミレーヌも笑った。 「前よりは、を積み重ねます」 その日の帰り際、ニナがミレーヌに小さな端布を一枚差し出した。 前回と同じように、練習布の余りだ。 「これは?」 「今日の“要確認”です」 ニナは言った。 「使えるか使えないか、すぐには迷うやつ。こういうのを入れる場所、作ったんですよね」 「はい」 「じゃあ、見本にしてください」 ミレーヌは両手で受け取った。 小さな布片。
その言葉に、ミレーヌは少しだけ息を吐いた。 だが、まだ終わりではない。 「分類項目も減らします」 ミレーヌは表を見ながら言った。 「作業後の最初の分類は三つだけにします。使える、要確認、使えない」 ニナが目を瞬かせる。 「三つ?」 「はい。最初から用途まで決めるのではなく、まず生かせるかどうかを分けます。その後、使えるものだけ用途候補を記録します」 ニナは、手元の端布を見た。 「それなら早いです」 「要確認は?」 「迷うもの。後で仕立て場長か記録係と見る」 エヴァレット夫人が口を開いた。 「悪くありません。針子がその場で細かい用途まで決めずに済みます」
ミレーヌは答えようとして、止まった。 分からない。 表では分類できると思っていた。 でも、現物を前にすると迷う。 「……中判、でしょうか」 「じゃあ、これは?」 ニナは別の布を出した。 小さいが、厚みがある。 「小さいけど、補強布には使える。大きさなら小片。でも用途なら修繕用。どっち?」 ミレーヌは、言葉を失った。 ニナは怒っている。 ただ、意地悪で言っているのではない。 本当に困っているのだ。 「こんな細かい表、縫いながら書けません」 ニナの声が少し強くなった。 「袋に分けるだけって言いますけど、その袋に入れる判断が細かいんです。私たちは布を
ミレーヌ・フォン・エルディアは、仕立て場へ向かう馬車の中で、余り布記録表を何度も見直していた。 前回よりは、よくなっている。 そう思う。 思いたい。 大判、中判、小片。 用途候補は、小型膝掛け、子ども用肩掛け、包帯布裏当て、寝台補助、修繕用端布。 肌当たりと毛羽立ちは、針子たちの助言で「肌当たり」にまとめた。 作業中は細かく書かず、作業台ごとの端布袋に入れるだけ。 作業後、記録係が聞き取り、針子は印を押す。 以前のものより、ずっと現場寄りになったはずだった。 それでも、ミレーヌの胸は落ち着かなかった。 膝の上の紙を押さえる指先に、少し力が入る。 「
善意を数字に閉じ込めるためではなく、善意が数字の外で消えないようにするための言葉だった。 顧問室に戻ると、イリスが出迎えた。 「余り布に値段はつきましたか」 「一部だけ」 「一部」 「大判は個別記録。小片は袋単位。修繕用端布枠を試験的に認める方向です」 「では、全部に値札はつかなかったのですね」 「はい」 イリスは満足そうに頷いた。 「よろしいかと。小さな布にまで値札をつけられると、布も落ち着きません」 「布の気持ち?」 「たぶん」 クラリスは少し笑った。 オスカーは報告書を書き始めている。 表題。 余り布記録基準および財務院協議報告 内容は、いつ
グレゴールは、しばらく黙っていた。 やがて、低く言う。 「理屈は分かります」 「ありがとうございます」 「ですが、甘いと言われますよ」 「誰にでしょうか」 「財務院内に」 グレゴールは隠さなかった。 「余り布にも価値がある。なのに顧問室は現場裁量を認めた。財産管理を甘くしている。そう言う者は出ます」 「出るでしょうね」 クラリスは答えた。 「対策は?」 「基準を公開します」 「公開」 「はい。どこまで個別記録し、どこから袋単位にするのか。修繕用端布枠の上限。月末報告。異常値の照会条件。すべて文書化します」 「それで批判が止まると?」 「止まりません」







