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趣味の話

Auteur: 木山楽斗
last update Dernière mise à jour: 2025-09-01 18:07:09

「さてと、まずは何からお話しましょうかね……」

 私の正面には、イルルグ様とウルーナ嬢が座っている。

 二対一となってしまったのは、想定外のことだ。とはいえ、ウルーナ嬢は私のことを見極めに来たみたいだし、他の誰かに相手をしてもらう訳にもいかない。先程から私に見極めるような視線を向けているし、ここはとりあえずイルルグ様と話をすれば良いのだろうか。

「お互いのことを知ることから始めませんか? 月並みではありますが、趣味の話などはどうでしょうか? ラナーシャ嬢は、何かご趣味などはありますか?」

「趣味ですか。そう言われると、これというものを出せないのが、私の欠点と言えますね。しかし強いて言うなら、乗馬などでしょうか。昔から動物が好きでして……」

「おや、それでは何か飼われたりしているのですか?」

「ええ、犬や猫を飼っています」

 とりあえず私は、イルルグ様の提案に従って趣味について述べてみた。

 それに対する彼の反応は、悪くないような気がする。ただ私は気になっていた。イルルグ様の隣で、ウルーナ嬢が目を細めているということが。

 今の話は、彼女にとっては恐らく快いものではなかったのだろう。それを理解して、私は少々億劫になっていた。

「ウルーナ? どうかしたのかい?」

 ウルーナ嬢の不機嫌そうな様子は、当然隣のイルルグ様にも伝わったようだった。

 彼は、心配そうに妹に話しかけている。結構過保護なのだろうか。その表情からは、そんな少々嫌な情報が伝わってきた。

「私は動物はあまり好きではありません」

「うん? ああ、そうだったかな?」

「ええ、まあ、嫌いなことを口にしたりはしませんからね。お兄様が知らないのも無理はないことです。ですが、動物なんてものは臭いも気になりますし、好きになる気持ちはよくわかりません」

 ウルーナ嬢は、明らかに私を煽るような表情で言葉を発していた。

 その言い分には、はっきりと言って不愉快なものだ。例え動物が嫌いだとしても、そこまで言う意味がよくわからない。

 自分は苦手などと言って、適当に流しておけば良いことではないだろうか。彼女の好きな人を馬鹿にする発言には、流石に私の表情も引きつってしまう。

「ああ、気を悪くしたならすみません。私、つい思ったことを口にしてしまう質でして」

「ラナーシャ嬢、申し訳ありませんね」

「い、いえ……」

 私に対して、ウルーナ嬢は謝罪の言葉を口にした。

 ただそれが本当に心からの謝罪かどうかは、微妙な所だ。いや、微妙なんて濁す必要はないかもしれない。彼女に謝罪の意思なんて、絶対にないのだから。

 もしかしたら、動物が嫌いというのもこの場で適当についた嘘なのではないだろうか。ウルーナ嬢の表情に、私はそんなことを思った。

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