Share

第164話

Author: つき酔
莉奈は起き上がると、頭が鉛のように重く、足元がふらつくのを感じた。

適当に朝食を済ませて、すぐにベッドへ戻る。妙な悪夢を見たせいでよく眠れなかっただけかもしれない。少し寝直せばよくなるはずだ。

けれど、身体が異常に寒い。骨の芯から冷気がしみ出してくるような悪寒に、莉奈は思わず身体を丸めた。

部屋には暖房が効いているのに、寒くてたまらない。とうとう耐えきれず、莉奈は直哉の部屋から掛け布団を引っ張り出してきて、それも一緒に被り込んだ。

莉奈はベッドの中でガタガタと震え続け、そのまま深い昏睡に沈んでいった。

どれくらい眠ったのか分からない。

尾てい骨のひどい痛みに何度も意識を揺さぶられ、莉奈はようやく目を覚ました。

全身が燃えるように熱い。喉には剃刀の刃でも仕込まれているようだった。唾を飲み込まなくてもヒリヒリと乾いて痛み、飲み込めば飲み込んだで、激痛に顔が歪む。

どう考えても重い風邪の症状だ。

壇将の言った通りだった。

尚南の手には、本当に厄介な流行り風邪のウイルスがついていたのだ。

莉奈は尚南を呪い殺してやりたい気分になった。だが今の彼女には、目を開けている気力さえ
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • 婚姻生活にさようなら、椎名さん   第438話

    省之介はソファに座っていた。看護師が採血をしている。その時、病室の扉が開き、浩平が外から入ってきた。目の前の光景を見て、彼の手が一瞬止まる。すぐに後ろ手で扉を閉めたその顔には、隠しきれない高揚と安堵が浮かんでいた。浩平は興奮したまま省之介のそばへ歩き、承也をちらりと見た。それから、重く長い息を吐き出す。――小槌は、ようやく助かる。病室の中では、誰も口を開かなかった。採血が終わると、看護師は綿球を省之介の肘の内側に押し当て、止血した。「自分でやる」省之介はそう言って、綿球を押さえた。看護師は道具を持ち、病室を出ていった。「痛いか?ふーってしてやろうか?」浩平が省之介の腕へ顔を近づけた。省之介はもう片方の手で浩平の顔を押し返し、その動きを止めた。淡々と言う。「いらない。息を吹きかけると雑菌がつく」浩平は口を尖らせた。「俺をそんなにばっちいもの扱いするかよ」浩平も、本気で息を吹きかけるつもりはなかった。ただ病室があまりにも静かで、場の空気が張りつめていて、そこに立っている自分が少し気まずかった。要するに、場を持たせるための冗談だった。省之介に押し返されると、浩平は病床のほうへ歩いた。血の気のない承也の顔を見て、黙ってため息をつく。――やれやれ。小槌の件は、ようやく少し希望が見えた。となれば、今度はこの大将の心配をしなければならない。浩平は尋ねた。「さっき採った血は、そのまま子供を救うのに使えるのか」小槌の治療の仕組みを、浩平はあまり詳しく知らない。「違う」省之介は、いちばん簡単な言葉でこれから必要な検査のプロセスを説明した。浩平は理解した。「分かった。なら、まだ喜ぶのは早いな。何も問題が起きないよう祈るよ」省之介は、ベッドの背にもたれて目を閉じ、黙り込んでいる承也を見た。本来なら、椎名越に適合する骨髄提供者が見つかったのだ。承也は少しでも肩の荷が下りたような顔をしていいはずだった。もともと感情を表に出さない男ではあるが、今のように重いものを抱え込んだ顔でいるのはおかしい。そうなっている理由は、莉奈しかなかった。省之介が口を開いた。「奈奈には、いつ話すつもりだ」病床の男がゆっくり目を開けた。眉がわずかに寄る。「君はもう婚約した身だ。彼女への呼び方を変え

  • 婚姻生活にさようなら、椎名さん   第437話

    病室の外から、ノックの音がした。承也は目を上げた。深く暗い黒い瞳が、わずかに細められる。――来た。承也の合図を受け、悠斗が歩いていって扉を開けた。病室の入口には、黒いスーツを着た神崎省之介が立っていた。穏やかな目元には、朝露のような静かな冷たさがにじんでいる。体つきは相変わらず線の細い印象を与えた。省之介は数歩中へ入り、病床にもたれている承也を見た。病衣を着ているだけでは、承也がどれほど重傷を負っているのかは分からない。顔にいくつか擦り傷があり、顔色が蒼白であることを除けば、普段と大きく変わらなかった。だが、病床にもたれかかっている。それだけで、十分に胸をざわつかせる光景だった。椎名承也という男は、命に関わるところまで追い込まれなければ決して弱みを見せない。病床に力なくもたれる姿など、省之介が知る限り、彼にとって最大級の弱みだった。――そこまで傷が重いのか。省之介の整った眉が、かすかに寄った。悠斗は省之介を案内し、承也の前まで歩いた。かつて親友だった二人が、一人の女をめぐって反目し、今は互いに言葉もなく向き合っている。その場面を見ても、悠斗に特別な感慨はなかった。ただ、浩平は今のこの状況に向き合いたがらず、集中治療室に残って小槌を見守る道を選んだ。省之介が沈黙を破った。「一昨日の僕の婚約パーティー、君は来なかったね」承也側の情報は、あまりにも厳重に封じられていた。省之介の婚約者である洛条寧々が、所属するエージェント組織から極秘報告を受けていなければ、省之介は今も何も知らされないままだったはずだ。彼の婚約の日、莉奈は風牙の手の者に拉致された。あの日、莉奈のために用意していた婚約指輪を川へ投げ捨ててから、省之介は意識的に莉奈の動向を追わないようにしていた。婚約は自分の選択だ。すでにその一歩を踏み出した以上、これ以上彼女に面倒をかけるべきではない。それでも今日の早朝、承也から電話が来るとは思っていなかった。電話の中で、承也は一言だけ告げた。――怪我をした。だから省之介は来た。承也の薄い唇が、かすかに動いた。「招待状をもらっていないからな」省之介の声はいつも通りだった。まるで二人が昔のままのように。「君に招待状なんて必要かい。それに……」そこで一度、言葉を切る

  • 婚姻生活にさようなら、椎名さん   第436話

    浩平の呼吸が一瞬止まった。「どれも取り返しがつかないことじゃないか!本当に……彼女の記憶まで消させたのか!」承也は目を伏せた。漆黒の瞳には、何の波も立っていない。「ほかに方法がなかった」浩平は即座に否定した。「違う。方法はあったはずだ。記憶を消すしかなかったわけじゃない。君が事実を認めたくなくて、彼女を手放せなかっただけだ。彼女を自由にしてやることだって、できたはずじゃないか」「あり得ない」浩平が言い終える前に、承也はすかさず否定した。浩平にも、それは分かっていた。そうでなければ、承也が莉奈の記憶を消すなどという極端な手段を考えるはずがない。それは承也に限った話ではない。浩平自身も、過去にそんな方法で特定の誰かの記憶を消してしまえたらと、狂ったように願ったことがあるからだ。先ほど莉奈の病室で起きた惨劇を思い出すと、今でも胸が冷えた。「その前から、莉奈は東安市を離れようとしていたんだぞ。君の両親、あいつの両親……その両家の深い恨みが重なったら、あいつがこの先も君のそばに残るなんて、絶対にあり得ない。君はまた、彼女の記憶を消すつもりなのか」承也はうつむき、自分の手の甲に残る生々しい傷痕を見た。莉奈の手を強引に放さなかったせいで、彼女が力任せに掻きむしった跡だった。「彼女が、もう二度目には耐えられない」浩平は一瞬、呆然とした。ちょうどその時、エレベーターが最上階の集中治療エリアに着いた。浩平が承也の車椅子を押して外へ出た瞬間、見覚えのある看護師が集中治療室から飛び出してくるのが見えた。慌ただしい足取りで、医師の詰め所へ向かって走っていく。続いて、当直の医師が詰め所から駆け出してきた。承也の声が低く落ちる。「どうした」医師は承也を見るなり、険しい顔で告げた。「小槌くんが眠っている最中に、突然心拍が上がり、血圧が急低下しました。ショック症状です」隔離室の外。承也はガラス越しに、小槌が必死の救命処置を受けているのをただ見守ることしかできなかった。小さな体が病床に横たわっている。手の指にも足の指にも、いくつものモニターのセンサーがつながれていた。夜が完全に明けた頃、小槌の心拍と血圧はようやく正常値へ戻った。防護服を着た承也は車椅子に座ったまま、ゆっくりと隔離室のベッドへ近づ

  • 婚姻生活にさようなら、椎名さん   第435話

    真夜中、浩平は承也の病床のそばについていた。この一家三人には、本当に頭がおかしくなるほど振り回されている。こっちの心配が済んだと思えば、今度はあっちの心配だ。気を揉む種が、いくらでも湧いてくる。夕方、救急処置室から出てきた時、意識が朦朧としていた莉奈が「痛い」と一言こぼした。その瞬間、承也がようやく手を離し、医師がその隙を突いて二人を引き離したのだ。そうでなければ、浩平は二人まとめて見張る羽目になっていたところだ。――まったく、こっちが片付いたと思えばあっちだ。浩平が抱える心配事は尽きる気配がない。「おい、動くな!」浩平は、視界の端で目を覚ました承也を捉えるなり、両手を伸ばし、承也の肩を押さえつけた。なぜ両手なのか。承也は馬鹿みたいに力が強いからだ。怪我をしていても、片手で押さえ込める保証はない。承也の目はまだ真っ赤だった。白目には血の筋がびっしり走っている。乾いて蒼白な唇が、わずかに動いた。「奈奈は……」声はひどく掠れていた。「大丈夫だ。あれから一度目を覚ました。水を半分飲んで、少し食べた。体温は正常、血圧も正常、心拍も正常。いちばん大事なことを言うぞ。まだ病院にいる。どこにも行っていない」浩平は莉奈の状態を一息に告げ、さらに最重要事項を繰り返した。「逃げてない。あいつはちゃんと病室にいる」もちろん、これは真央が浩平に教えてくれたものだった。承也が目を覚ました時、少しでも安心できるように、ということらしい。なんだかんだで、真央もなかなかいい人だ。莉奈のことを伝え終えると、浩平はようやく肩の荷を下ろすように息をついた。「だから君も、俺のために少しは大人しくしてくれ。これ以上びびらせるな。最近、心臓突然死なんて話をよく聞くんだ。俺はストレスで死にたくない」承也が尋ねた。「悠斗はどこだ」浩平が答えた。「君の代わりに莉奈を見張ってるよ」浩平は世話焼きの母親のように、承也の掛け布団を直した。「だからちゃんと休め。少し眠れ」だが承也に眠る気配はなかった。「車椅子を持ってきてくれ」浩平は爆発寸前だった。「今度は何をする気だ」承也の声はひどく低く、掠れていた。「息子を見に行く」――息子の存在を、今更思い出したのかよ。小槌のことを思うと、浩平は両手を腰に当

  • 婚姻生活にさようなら、椎名さん   第434話

    病室の扉が乱暴に押し開けられ、直哉と浩平の声が飛び込んできた。浩平は息を呑んだ。果物ナイフは、すでに承也の胸に突き刺さっていた。血が病衣へ滲み、承也の胸元一面が赤く染まっている。莉奈に、どれほどの力があるというのか。これは明らかに、承也が彼女の手を強引に握り、自分から力任せに突き立てさせたものだった。――狂っている。白崎執事は足を止め、病床の二人を呆然と見つめた。「お嬢様……」後ろから続いてきた真央でさえ、その光景に衝撃を受けて動けなくなった。咄嗟に、そばでいちばん頼れそうな人の背後へ隠れようとする。だが真央が一歩動いた瞬間、目の前で人影が揺れた。悠斗が長い脚を踏み出していたのだ。「待て」浩平が声を上げて止めた。「よく見ろ。ナイフを握っているのは誰だ。君に奪えると思うか?」悠斗の眉間には鋭い険しさが沈んでいた。果物ナイフを握っているのが承也だということは、もちろん見えている。さっきは反射的に駆け寄って社長を守ろうとしたが、浩平の声が飛んだ瞬間、悠斗も足を止めていた。承也が手を離さない限り、あのナイフは誰にも奪えない。承也は死神の手から戻り、最後の一息だけをつないで莉奈の前まで来た。すでに限界を越えている。それでも骨の奥に染み込んだ執着と狂気は、自分の血肉を裂かれても莉奈を放そうとはしない。この世で彼を救える者は、莉奈しかいなかった。直哉だけが、その場に立ち尽くしていた。複雑な目で、病床の二人を見つめている。これほど多くの人間が病室へ駆け込んできたというのに、承也はまるで気づいていないようだった。顔を白く強張らせた莉奈を瞬きもせず見つめ、彼女の手を握る力をさらに強めていく。莉奈の指は、必死に手を引き抜こうとしたせいで痙攣し、震えていた。それでも承也は手を離さなかった。「あなた、こんなことをすれば私が……」承也がその言葉を遮った。「分かっている」承也の唇がわずかに動いた。血が流れ出すにつれ、その顔色はぞっとするほど白くなっていた。口元に、自嘲の笑みがかすかに浮かぶ。「君が俺を許さないことくらい分かっている。俺も、許してもらおうなんて思っていない。こうして自分を刺したのは、ただ君を引き留めるためだ」狂っている。完全に狂っている。浩平は聞いているだけで背筋が寒くなる思

  • 婚姻生活にさようなら、椎名さん   第433話

    承也は病床へ近づき、テーブルに残っていた半分ほどのお粥を手に取った。「……あなたの体は大丈夫なの?」莉奈が口を開いた瞬間、器を持つ承也の手が一瞬こわばった。承也は何事もなかったようにスプーンを握り、一口分を彼女の口元へ運ぶ。「問題ない」莉奈は小さくつぶやいた。「なら、よかった」それが承也に向けた言葉なのか、自分に言い聞かせた言葉なのかは分からない。莉奈は、承也が差し出したお粥を食べなかった。ただ目を上げ、承也を見つめる。赤く腫れた瞳の中に心配の影はなく、以前よりもさらに濃い憎しみが宿っていた。莉奈はふいに歯を食いしばった。赤くなった目から涙が転がり落ちる。押し殺した声は掠れ、苦く渇いていた。「心配してるんじゃないわ。あなたに借りを作りたくないだけ。ほんの少しだって、作りたくないの」承也はスプーンを椀へ戻し、手を伸ばして莉奈の頬の涙を拭った。「俺が何をしようと、君が俺に借りがあるなんて思う必要はない」指先が莉奈の頬に触れた瞬間、彼女は何かに刺激されたように、激しくその手を払いのけた。「当たり前でしょう。私はあなたに借りなんかないわ!」まるで二人のあいだに張りつめていた弦が、突然ぷつりと切れたようだった。承也の手は払われた。だが彼はその流れのまま、莉奈の手を自分の掌に握り込む。彼女の指の間に自分の指を滑り込ませ、逃がさないように固く絡め合わせた。承也の視線が莉奈の瞳を捉える。深い黒い目は冷たく鋭く、探るようだった。掠れた声が落ちる。「……どういう意味だ」莉奈は喉の奥を強張らせた。赤くなった目元が小刻みに震えている。「私たちが婚姻届を出していないのは、私が5年前のことを思い出して、本当に死のうとするのが怖かったからでしょう?」……5年前。承也の黒い瞳が激しく縮み、莉奈の手を握る力が一瞬で強まった。脳裏に、島での光景が次々と閃く。莉奈がクルーザーを操り、雨の海へ突っ込んでいく。クルーザーが横転し、莉奈が海へ落ちた。承也の瞳の奥に、細いひびが走ったようだった。呼吸が詰まるたび、そのひび割れがゆっくりと広がっていく。張りつめた声が問い返す。「何を言っている」莉奈は顔を上げ、承也を見た。苦痛と絶望に麻痺したような表情だった。涙でぼやけた瞳のまま、唇の端に苦い笑みを浮かべ

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status