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第8話 魔獣番の国⑥

مؤلف: 一十一
last update تاريخ النشر: 2026-07-17 15:04:41

 五日後。

 劇的に治った魔獣は、まだ一頭もいなかった。

 迎撃部隊の白いペガサスは、まだ長く飛べない。

 伝令部隊のリューネも、まだ任務復帰には遠い。

 輸送用のヒッポグリフたちも、脚や翼の疲労を完全に抜けたわけではない。

 それでも、王立魔獣医療・保護施設の朝は、五日前とは確かに違っていた。

 檻を叩く音が減った。

 水桶の前で迷う時間が短くなった。

 夜間の記録に、「浅い眠り」ではなく「短時間だが深く眠った」という文字が増えた。

 奇跡ではない。

 快癒でもない。

 けれど、悪化の速度は確かに落ち始めていた。

「今の状態を言うわ」

 記録室の中央で、マグダレナが紙束を机に置いた。

「治ってはいない。でも、崩れ続ける流れは止まりかけている」

 ノーマンが横から記録板を掲げる。

「水分摂取量、重症三頭のうち二頭で微増。睡眠記録、伝令部隊の軽症個体五頭中三頭で改善傾向。食欲は……

 まあ、まだ渋いです。魔獣も人間も胃が痛い時は機嫌が悪い」

「余計な一言は?」

「反省中です」

「よろしい」

 淡々としたやり取りに、会議室の空気が少しだけ緩んだ。

 ルシアは記録を一枚ずつ見比べていた。

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     五日後。 劇的に治った魔獣は、まだ一頭もいなかった。 迎撃部隊の白いペガサスは、まだ長く飛べない。 伝令部隊のリューネも、まだ任務復帰には遠い。 輸送用のヒッポグリフたちも、脚や翼の疲労を完全に抜けたわけではない。 それでも、王立魔獣医療・保護施設の朝は、五日前とは確かに違っていた。 檻を叩く音が減った。 水桶の前で迷う時間が短くなった。 夜間の記録に、「浅い眠り」ではなく「短時間だが深く眠った」という文字が増えた。 奇跡ではない。 快癒でもない。 けれど、悪化の速度は確かに落ち始めていた。「今の状態を言うわ」 記録室の中央で、マグダレナが紙束を机に置いた。「治ってはいない。でも、崩れ続ける流れは止まりかけている」 ノーマンが横から記録板を掲げる。「水分摂取量、重症三頭のうち二頭で微増。睡眠記録、伝令部隊の軽症個体五頭中三頭で改善傾向。食欲は…… まあ、まだ渋いです。魔獣も人間も胃が痛い時は機嫌が悪い」「余計な一言は?」「反省中です」「よろしい」 淡々としたやり取りに、会議室の空気が少しだけ緩んだ。 ルシアは記録を一枚ずつ見比べていた。 水を飲んだ量。 餌に口をつけた回数。 翼の震えが出た時間。 装具を見た時の反応。 夜に体を横たえられたかどうか。 どれも小さな数字だ。 テレジアの宮廷なら、たぶん笑われていた。 そんなものを数えて何になる、と。 けれど今、この小さな数字の積み重ねが、命を処分から一歩遠ざけている。「白いペガサスは?」 マグダレナが尋ねる。 ルシアは該当する記録を引き寄せた。「まだ胃の痛みは残っています。ですが、水を飲んだあとに首を振る回数が減りました。餌も、昨日はようやく口をつけました。一口だけですが」「一口」 ノーマンが小さく拳を握る。「地味に嬉しいですね」「地味ですが、大きいです」 ルシアは真面目に頷いた。「この子にとっては、食べてもすぐ痛くならないという経験を積み直している段階です。急に量を増やすと、また食べることが痛みと結びついてしまいます」「なら、一口で勝ちか」「昨日のところは。今朝はこれから診ます」「記録します。一口、勝ち」「ノーマン」「正式記録には書きません」 マグダレナに睨まれ、ノーマンは素早く言い直した。 その時、マグダレナが紙束をめ

  • 婚約破棄され売られた欠陥聖女は、隣の大国で『魔獣の聖女』と呼ばれることになった   第7話 魔獣番の国⑤

    「この国のやり方そのものが、魔獣たちを少しずつ追い詰めています」 ルシアの言葉が落ちたあと、記録室にはしばらく誰の声もなかった。 責めるつもりで言ったわけではない。 けれど、言葉にした瞬間、その重さが部屋の中へ広がっていくのが分かった。 ベルンは固い顔で配合表を見つめていた。 ノーマンは記録板を抱えたまま、珍しく何も言わない。 マグダレナは腕を組み、地図と報告書を交互に見下ろしている。 最初に口を開いたのは、アルベルトだった。「ルシア殿。確認したい」 その声は穏やかだった。 けれど、王族として何かを決めようとしている声でもあった。「飛翔用標準配合を止めれば、すぐに魔獣たちは回復するのか」「いいえ」 ルシアは首を振った。「すぐには難しいと思います。胃を痛めている子には、まず負担を減らす必要があります。眠れていない子には、休ませ方を変える必要があります。食べ物を変えるだけでは足りません」「なら、何から変えるべきだ」 問われて、ルシアは一度だけ目を閉じた。 昨日見たペガサスの苦しみが、胸の奥によみがえる。 焼けつく胃の痛み。 空腹のまま張りつめていた待機時間。 装具の音と結びついた恐怖。 水を飲むことすらためらうほどの不快感。「まず、重症の子には飛翔用標準配合を止めてください。少なくとも、今のまま与え続けるのは危険です」 ルシアは配合表の横に、白紙を引き寄せた。「胃を守る薬草を混ぜた柔らかい餌に切り替えます。量は少しずつ。水には薄い整腸薬を。香りが強いものは避けてください。興奮を高める香草も、今は抜いた方がいいです」「飛行任務は?」 アルベルトが問う。「飛行前の長い絶食は見直すべきです。空腹のまま待機させる時間を減らしてください。任務後はすぐに装具を外し、水分と補助薬を入れて、静かな場所で休ませる必要があります」 ベルンが低く唸った。「だが、飛行前に腹を満たせば、体が重くなる。事故につながる。昔からそう教えられてきた」「満たす必要はありません」 ルシアは静かに答えた。「腹を空にしすぎないだけです。飛ぶために軽くすることと、痛むほど空腹にすることは違います」 ベルンは、返す言葉を探すように唇を結んだ。 マグダレナが机を指で軽く叩いた。その手が、報告書の束の上で止まる。「施設内の重症個体で試験する」「施

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