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第4話

Author: レモンのパクチー和え
その後、陸也は二日間入院することになった。

けれど、その間に私が再び病室を訪れることはなかった。 もちろん、彼のそばには誰かさんが付き添っていた。

陸也は会社で私を見かけた途端、手をグイっと掴んできた。必死に振りほどこうと力を込めたが振りほどけなかった。

「なんで俺の見舞いにこなかったんだ?」

二日間、彼は病室の入り口とスマホを何度も見つめた。けれど、そこに私の姿が現れることも、私からの連絡が届くこともなかった。

彼は気になって仕方がないというようにじっと私をみつめていた。私は無表情のまま口を開いた。

「会社でやることが多くて。陸也がいない間いろいろとあなたの分を補う必要があったから」

この言葉を聞くと、陸也はやっと私の手を離した。表情が和らぎ、うんうんと頷いた。

「そうだ。会社は俺たちの血と汗の結晶であり、まるで我が子のような存在だ。お前にとって、決して手放すことのできないものだ」

ドアが開き、田中麻鈴が犬を抱えて社長室に飛び込んできた。

彼女は白いブーツを履いていた。膝には包帯が巻かれている。

包帯が巻かれている脚を伸ばすと陸也の脚にくっつけた。そして写真を撮ったり、冗談をいったりした。

「ころちゃん見て。今パパとママの足はおそろいだよ。パパはね、ヒーローなんだよ!パパがママを助けてくれたの!」

私はドアの取手をギュッと握りしめていた。

やっぱり心は痛むものだ。

ドアを閉めて社長室を出ようとしたとき、陸也が唐突に言った。

「叶音、二日間本当にお疲れさま。近いうちに水族館へ連れて行ってあげようか」

私は振り返らなかった。

「うん」

田中麻鈴は私達の関係をかき乱す機会を逃さない。彼女は陸也の腕に絡みつき、寄りかかって駄々をこねた。

「陸也さん、私も一緒に連れて行ってもらえませんか」

陸也がどう答えたのかに興味はなかった。

断ったとしても、きっと田中麻鈴はついてくる。

それにそもそも陸也は断らないかもしれない。

この前の記念日の時みたいに。

/

レストランは心地よい雰囲気に包まれ、人々は賑やかに酒を酌み交わしていた。だが突然、あの場違いな着信音が鳴り響き、空気は一瞬にして壊されてしまった。

「陸也さん、どうしましょう……。叶音さんとの食事が終わったら、一緒に外を散歩をしていただけませんか。実は、陸也さんに会いにレストランへ向かう途中、道端で一匹のかわいそうな子犬に出会ったんです」

レストランのすぐそばにいるそうだから、すぐに戻ってくると陸也は申し訳なさそうに詫びた。

なんと彼は食事の途中で席を立って行ってしまったのだ。

しかもこの"すぐに"は、まるまる8時間後だった。

陸也が帰って来たとき、私はソファで丸まっていた。

彼は私を抱き抱えてベッドまで運んだ。彼にもたれてかかると、胸元から強烈な香水の匂いがした。

田中麻鈴がいつも使っているあの香水の匂いだった。

陸也は私をおんぶすると、耳元でささやいた。

「叶音、怒ってるか?俺が間違っていたと分かってる。明日埋め合わせするからな」

/

私たちの記念日をお祝いしようとした2度目の夜、レストランに着くとまたもや田中麻鈴が現れた。

私を馬鹿にするように彼女は犬の脚を振り回しながらかわい子ぶって話した。

「美しくて優しい叶音さんこんにちは。僕はころっていいます。昨日は僕の誕生日でした。この機会に一緒にお祝いしてもらえませんか。僕、祝っていただけたら大喜びしちゃいます」

言い終えるとあざとく陸也に目配せをした。

どおりでこのレストランは秘書に代わって予約してもらったというわけだ。田中麻鈴は自分のお気に入りのレストランを選んだのだ。

私たちの記念日の埋め合わせだったはずが、気づけば犬が主役の帽子をかぶっていて、レストランのスタッフがプラカードを掲げながら犬のためにバースデーソングを歌うのを見て過ごすはめになった。

しまいには田中麻鈴は写ルンですで陸也とのツーショットを何枚も撮る始末。

私は立ち上がり、鞄を持ち上げてその場を去った。

「あなたたち…2人と1匹で楽しんで」

/

陸也が言っていた水族館には、金曜日の午後に行くことになっていた。

もともと陸也と私は会社から一緒に行くことになっていたが、急用の仕事が入ったから遅れていくと言い訳をした。

「わかった。なるべく早く来るんだぞ。先にショーのスケジュールを見に行っておくから」

私たちはイルカショーを観る約束をしていたので、陸也は先にスケジュールを確認することができてちょうどよかったのだ。

大学時代から一緒に観に行こうと約束していたが、ずっと行けていないままだった。

陸也は頻繁に時計を見ていた。約束した時間からもう2時間も過ぎている。

叶音はまだ来ていない。

しかし、田中麻鈴がやってきた。

「陸也さん!」

陸也は自分に飛びついてきた田中麻鈴を見た。このシチュエーションはまるでデートをしているカップルだ。

「叶音はどうした?一緒に来なかったのか?」

「知りません。自分でタクシーを呼んで来ました」

陸也はいつまで待っても叶音は来ないと悟り、彼女に電話をかけ続けた。

【叶音、俺はわざとらしい女は苦手だ。君は麻鈴が来ると知って来るのをやめただろ】

【電話をくれ。ずっとここで君を待っていたら脚が痛くなった】

ついに陸也は会社の受付に電話をかけた。

「上に行って高橋部長を呼んできてくれ。彼女にすぐに俺のもとに来るように伝えてほしい」

「高橋部長ですか?社長、高橋部長はちょっと前に迎えに来た人とスーツケースを持って会社を出ましたよ」
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