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先生の確認したいこと

作者: 影畑凛星
last update 公開日: 2026-08-02 18:07:14

 病室を出ると、廊下は静まり返っていた。

 遥臣は何も言わずに歩き出す。

 綾香も黙って後を追った。

 人気のない廊下まで来ると、遥臣が足を止める。

「話って?」

 綾香が尋ねる。

 遥臣は白衣のポケットから薬袋を取り出した。

「猫の薬じゃなかったな」

 綾香は思わず目を伏せる。

「……ごめんなさい」

「薬を見れば分かる」

 それだけ言うと、遥臣は薬袋へ視線を落とした。

「確認したいことがある」

「何?」

「グレープフルーツは食べているか」

 綾香は目を見開いた。

「グレープフルーツ?」

「ああ」

「食べてるわ」

「お父様、昔から好きだったの」

 遥臣は小さく頷く。

「今日からやめてくれ」

「え……?」

「こ

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  • 婚約者に売られ、親友に顔を奪われた私は、二度目の人生で全てを取り戻す   見送りはいらない

    『見送り行こうか?』 綾香はしばらくその文字を見つめていた。 もちろん、来てほしくない。 父が何時の便に乗るのかも、どの空港を使うのかも教えたくなかった。 けれど、露骨に拒絶すれば、それはそれで不自然だ。 少し考えてから返信する。『大丈夫よ。朝早いし、私が送るから』 これだけでいい。 出発日も時間も書かない。 すぐに既読がついた。『そっか』 続けて、『御影さんによろしく言っといて』『分かった』 それで会話を終わらせる。 綾香はスマートフォンを伏せた。(これ以上、聞いてこないで) 北海道へ行くことまで知られてしまったのは仕方がない。 けれど、ホテルも出発日も便も知られていない。 あと三日。 その三日を何事もなく過ごせればいい。◇◆◇ 翌日から、綾香は父の荷物を準備し始めた。「そんなに持っていかなくても、向こうで買えるよ」「一か月いるかもしれないのよ?」「だからこそ、全部持っていく必要はないだろう」「薬は?」「あるよ」「見せて」「綾香……」「確認するだけ」 父が苦笑しながら薬を取り出す。 綾香は薬の名前と数を確認した。 以前、遥臣に確認してもらったものと同じだ。「これは手荷物に入れてね」「分かってる」「預ける荷物に入れちゃ駄目よ」「はいはい」「あと、向こうでなくなりそうになったら、勝手に何か買ったりしないで連絡して」「薬局で薬を買うくらい――」「駄目」 強い声が出た。 父が目を瞬く。 綾香は慌てて声を和らげた。「……この前のことがあるでしょう。飲み合わせだってあるんだから」「ああ、そういうことか」「だから、何か飲むならお医者様か薬剤師さんに確認して」「分かったよ」 父は素直に頷いた。 綾香は薬をケースへ戻す。(これで大丈夫) 少なくとも、今持っている薬は確認できた。 向こうで何かあれば、自分に連絡が来る。 それでも不安は消えない。 薬だけとは限らないからだ。「お嬢様」 声に振り返る。 橘が部屋の入口に立っていた。「旦那様のお荷物でしたら、私が――」「大丈夫。もうほとんど終わったから」「そうですか」「今回は私がお父様を行かせるんだもの。最後までやらせて」 橘は穏やかに笑った。「承知いたしました」 その反応を見ると、胸が痛む。 橘が何かしたとい

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    「旦那様の静養について、確認しておきたいことがございます」 綾香は一瞬だけ迷ってから、ノートパソコンを閉じたまま立ち上がった。「入って」「失礼いたします」 橘が部屋へ入ってくる。「旦那様から、しばらく静養なさる予定だと伺いました」「ええ」「北海道とのことですが、日程はもうお決まりですか?」「だいたいはね」「でしたら、航空券や宿泊先の手配を――」「もう私がやってるわ」 橘が少し意外そうな顔をした。「お嬢様が?」「私がお父様に勧めたんだもの。今回は私がやる」「そうでしたか」 橘は穏やかに頷いた。「では、旦那様のお荷物はこちらで準備いたしましょう」「それも大丈夫」「しかし、長期になるのでしょう?」「だからこそよ。何を持っていくか、お父様と一緒に決めるわ」 あまり拒みすぎても不自然になる。 綾香は少し考えてから続けた。「その代わり、お父様がいない間のことはお願いしていい?」「もちろんです」「一か月くらいになるかもしれないから、屋敷のこともあるでしょう?」「そうですね」「お父様も、橘が残ってくれた方が安心だと思う」 橘は特に疑う様子もなく頷いた。「承知いたしました。こちらのことはお任せください」「ありがとう」「何か必要なことがございましたら、いつでもお申しつけください」 橘はそれだけ言って部屋を出ていった。 扉が閉まる。 綾香はようやく息を吐いた。(よかった……) 少なくとも、同行するつもりではなさそうだ。 これなら父だけを屋敷から離せる。◇◆◇ 数日後。「本当に全部お前がやったのか?」 父はダイニングのテーブルに並べられた書類を見て、感心したように言った。「そうよ」「飛行機も?」「取った」「向こうの車は?」「予約した」「ホテルは?」「もちろん」「ずいぶん頼もしくなったな」「そのくらいできるわよ」 綾香は少し得意になって答えた。「出発は三日後。朝の便だから、寝坊しないでね」「子供じゃないんだから」「お父様、仕事してたら時間忘れるでしょう」「そこまでひどくないよ」「信用できない」 父が苦笑する。「それで、どこのホテルなんだ?」 綾香の手が止まった。 当然、父には教えなければならない。「これ」 予約内容を表示したスマートフォンを父へ差し出す。「ずいぶん立派

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