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20話

Author: 籘裏美馬
last update Huling Na-update: 2025-10-11 17:14:54

ギリギリ、と拳を握りしめたせいで、手のひらに爪が食い込み、薄っすらと血が滲む。

「──ッ」

その痛みにようやく血が滲むまで拳を握っていた事に気づいた瞬は、はっとして手のひらを開く。

じわ、と広がる滲んだ赤。

それが視界に入った瞬は、手のひらをぼうっと見つめたあと、去っていく心と滝川の後ろ姿に視線を移した。

青白い顔で、痛みに俯く心と。

心配そうに心を見つめる滝川。

瞬の胸に、じりじりとした何とも言えない感情が渦巻いていた。

2人の背を見つめていた瞬の耳に、ふとこの病院に入院している入院患者と、その付き添いの会話が聞こえてきた。

「──あら。とても素敵なカップルね」

「カップル?夫婦じゃない?奥さん、足を骨折しているのね…大変そう」

「確かあの旦那さん、毎日奥さんのお見舞いに来ているわよね?」

「そうそう、個室の所よね?」

「いいなぁ、あんなに心配してくれる旦那さん。それに顔も格好いいし!」

「まさに美男美女って感じの夫婦よね」

きゃっきゃ、と楽しげに会話しながら遠ざかる2人を見て、瞬は恨めしげにその背中を睨みつけた。

「…夫婦?美男美女…?」

ハッ、と嘲るような笑い声が漏れる。

「心は…俺の婚約者で、滝川涼真はただの代理人だ」

だが、と瞬は考える。

周囲に勘違いされる程、滝川は心の病室に通っているのか、と。

「…心が入院して、そろそろ2週間…。退院の時期が近いはずだ」

何故だか瞬は、早く心と滝川を引き離さなければ、と言う考えが頭に浮かぶ。

まるで何かに急かされるように、瞬はスーツの胸ポケットからスマホを取り出し、電話をかけた。

ズキン、ズキンと鋭い痛みが全身に広がるようで、私は歯を食いしばってその痛みに耐えていた。

滝川さんは私の骨折に響かないよう、ゆっくり慎重に車椅子を押してくれて、時折大丈夫かどうか声をかけてくれる。

滝川さんの暖かい気遣いに触れて、今にも泣き出してしまいそうになっていると、車椅子が止まり、すぐ近くから滝川さんの声が聞こえた。

「着いたよ、加納さん。抱き上げるね」

滝川さんの声が聞こえたと思った瞬間、ふわりと体が浮き、ベッドに下ろされる。

さらりとしたシーツの感触が肌に伝わり、私は病室に戻ってきたんだ、とほっと安心した。

「滝川さん、ご迷惑をかけて…本当にごめんなさい…」

「加納さんが謝る事じゃないよ」

「でも
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