第8話：庭園の危機

庭園での穏やかな時間が、香織と拓海の間に新たな絆を育んでいた。あの日以来、二人は放課後に庭園で会うことが増えていた。

薔薇の香りが漂う静かな場所で、香織は拓海の汗と土の匂いに慣れ、むしろ心地よささえ感じていた。拓海もまた、彼女の高貴な雰囲気に最初は戸惑いながらも、素朴な笑顔で接するようになっていた。

その日も、拓海は部活の後に庭園へやってきた。汗で濡れた体操服が体に貼り付き、匂いが風に乗って香織を包む。彼女は彼の隣に座り、尋ねた。

「今日も走ってきたの？」

拓海は照れくさそうに笑い、答える。

「うん、“走ることは基礎中の基礎、毎日欠かさないこと”って、藤堂さんが渡してくれたファイルにも書いてあったし」

香織は彼の努力する姿に胸が温かくなり、呟くように言った。

「そう……私も応援しようかしら」

拓海が驚いたように彼女を見ると、彼女は微笑んで目を逸らした。二人の間に、静かで柔らかな空気が流れる。

だが、その平穏は突然破られた。茂みの向こうから、声が聞こえてきた。

「おい、見ろよ！　お嬢様がこんな補欠野郎とイチャついてるなんてなー！」

現れたのは、以前教室で香織をサッカーの試合の応援に誘ってきた、瀬野ら三人だ。ニヤニヤしながら近づいてくる彼らを前にして、拓海は慌てて立ち上がり、否定した。

「ち、違うって！　僕達、そんなんじゃないよ！」

だが、その言葉が火に油を注ぐ。瀬野が笑い、

「ならよ、お嬢様。俺らと仲良くしようぜ。こんな汗臭い奴より楽しいだろ？」

彼らが香織の腕を掴もうと手を伸ばすと、彼女は反射的に後ずさった。

「やめなさい！　何!?」

香織の声が鋭く響くが、彼らは意に介さず、彼女を囲むように迫る。拓海が叫んだ。

「みんな、やめなよ！」

彼が瀬野に飛びかかろうとした瞬間、別の一人が拓海の腹に拳を叩き込んだ。

「うっ……！」

呻き声を上げて膝をつき、地面に倒れる。香織は叫んだ。

「柳井くん！」

だが瀬野らはそんな拓海を笑いものにしながら、香織を引っ張り、体育館裏へと連れ去ってしまった。

拓海が痛みに顔を歪めつつ這いつくばり、やがて何とか立ち上がって彼女を追い始めたのは、それからしばらく経った後だった。

拓海が香織が連れ去られた先を探して校内を駆け回っている間、体育館裏の薄暗い場所では、瀬野らが香織を壁に押し付けていた。

「いいじゃん、お嬢様。ちょっと遊ぼうぜ」

瀬野が