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4話. 打席で知った、初めての快感

작가: 6jay
last update 게시일: 2026-10-23 07:27:22

「はっ……!」

隼人が紗良の回転軸を支えた。紗良は先ほどの動きを思い出し、足を踏み直す。方向を導いているのは彼の手でも、クラブを離さずにいるのは自分だ。彼の胸から伝わる重い鼓動と、涼やかなシダーウッドの香りに、全身の神経が甘く痺れた。

「奥様、ボールだけを追わないで。今つかんだ軸を保って、最後まで回ってください」

低く響く声が、紗良の耳を熱くする。

「テークバック、コック、そして……腰を回す!」

隼人が彼女のグリップに手を添えた。クラブが上がる間、紗良は手首に力を入れないよう努める。振り下ろす瞬間、彼が回転の方向を支えた。紗良も前の足に重心を乗せ、最後まで回りきった。

隼人の脚が間近に触れた。自分の重心が前へ移ったのがわかった。

バシィン!

密閉されたシミュレーションルーム全体を揺らすほど、鋭く重い打球音が響いた。フェースの真芯で捉えた白いボールが、砲弾のように飛び出す。スクリーンの中央を突き破るかと思うほど伸びたボールは、美しい放物線を描き、210メートル先のフェアウェイにぴたりと落ちた。

「……!」

紗良は息をのんだ。指先から背骨を突き抜け、頭の奥まで駆け上がる、鮮烈な痺れ。クラブを握って以来、1度も知らなかった感覚だった。体の節々まで解き放たれるような、この上ない快感。

この1球で、昼間の侮辱まで消えるわけではない。それでも、たった今この体で成し遂げた動きは残る。紗良は画面の数字を読み直した。夫の言うような、何もできない人間ではなかった。

「見ましたか?」

隼人が耳元で低くささやく。彼はまだ紗良を後ろから抱いたまま、フィニッシュの姿勢を解いていなかった。薄いシルクのシャツ越しに、呼吸で上下する硬い胸が触れていた。

「腕だけで打とうとすると詰まります。今は体の軸が回って、そのあとをクラブがついてきたんです」

隼人の親指が腰の脇をゆっくりとなぞった。肌同士が触れたわけでもないのに、薄い布越しに焼けるような熱が広がる。

「今の動きについてきたのは、奥様です。俺が支えれば、誰でも同じ球を打てるわけじゃありません」

紗良はゆっくりと振り返った。わずか1センチの距離で、深く冷たい黒い瞳が彼女の唇を見つめていた。

「さっき、雅臣を知っていると言いましたね。どういうお知り合いなんですか?」

「久我社長のことなら知っています。奥様が思っている以上に」

隼人はそれ以上説明せず、1歩離れた。紗良も追いかけては聞かなかった。褒められてうれしいからといって、この男をすべて信じるわけにはいかない。

ただ、次のレッスンでも自分が言えば止まるのか。それは、自分で確かめられる。隼人は床のクラブをバッグへしまいながら、顎先の汗をタオルで拭った。

「初回のレッスンは、ここまでにしましょう」

「もう終わりですか?」

もっと練習したかった。だが、グローブを外すと、手首がまた疼いた。彼がクラブを片づけた理由がわかる気がした。

「もっと打ちたいのはわかります。でも、今日その手首で無理をさせて、次のレッスンも受けられなくなるようなことはしません」

紗良は残念だと言う代わりに、グローブをバッグへ入れた。昼間は誰も気にしなかった痛みを、ここでは隠さなくてよかった。

「次は3日後の夜10時。それまで、今日つかんだ腰の感覚を忘れずに。しっかり体に覚えさせておいてください」

***

午前0時を、とうに回っていた。

南青山のスタジオを出て、元麻布にある約260平方メートルのペントハウスへ帰り着いても、紗良の手はまだかすかに震えていた。玄関の電子錠を操作し、暗い室内に足を踏み入れた途端、大理石の床が広がるリビングから冷たい声が飛んだ。

「こんな時間まで、どこをほっつき歩いていた?」

雅臣だった。

暗がりのソファで傲慢に脚を組み、クリスタルのグラスを揺らしながら紗良をにらんでいる。その目には疲労と疑念、そして妻への根深い侮蔑が入り混じっていた。

「誰の許しを得て出歩いてる? まだこの家の奥様でいられるつもりか」

紗良は玄関で立ち止まらず、ゴルフバッグを下ろした。今日言われたことを、今度はこちらから返す番だった。

「あなたが社交の場で恥をかかないように、ゴルフを習っているのよ。何? また私の手首をねじりたい?」

痣のできた手首を、夫の目の前に差し出した。雅臣はびくりとし、グラスを乱暴にテーブルへ置いた。

「余計なことをするな。明日は私募ファンドの役員たちと会食だ。おとなしく身なりだけ整えておけ」

舌打ちした雅臣がグラスへ目を落とす間、紗良は冷たい目で夫を見つめ、胸の内でつぶやいた。

(あなたが築いた偽物の城を、私が徹底的に壊してあげる)

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