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第16話
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届かぬ未来への招待状 第16話
千遥と研司の瞳が驚きで見開かれた。研司は運転席の清花に向かって、「やめろ」と口パクをした。二人が恐ろしさで目を閉じたまさにその時、清花は助手席の研司の姿を捉えた。千遥の車にぶつかる寸前で、彼女はハンドルを切り、大木に激突した。ドッカーン！という轟音がしたが、千遥の体に痛みは感じなかった。怪訝そうに目を開けると、清花の車はすでに大破し、運転席の清花は意識を失っていた。この事件の後、清花は救急車で病院へ搬送された。彼女が病院で昏睡状態にある間、千遥は証拠を集め、警察に提出する準備をしていた。そこに研司が千遥を遮った。「どうした、また彼女をかばえってか」研司の表情にかすかな動揺が走り、淡々と言った。「いや、彼女の量刑を少しでも軽くできないか、って聞きたかったんだ。結局、お前たちが受けた傷は全部、俺が原因だからさ」千遥はそれを聞いて、ため息をつきながら応じた。「わかった」どれほど清花が過激で自分にひどくても、彼女は研司を傷つけようとしたことは一度もなかった。さっき助手席に研司がいなければ、おそらく清花も自分も死んでいた。清花はどんなに悪くても、研司に対しては心の底から真心を尽くしていた。千遥は彼女を憎らしいと思いながらも、同時に哀れに思った。こうして事件は一区切りつき、清花は退院後、実刑判決を受けた。刑期はまる五年。研司も帰国することになった。帰る前、研司は千遥を深く見つめ、彼女の姿を記憶に刻もうとしているようだった。その眼差しには未練がにじんでいたが、それでも手放さざるを得ないと悟っているように見えた。研司は手を振って別れを告げた。「さようなら」千遥も応えた。「さようなら」研司が帰国した後、千遥は全身全霊で景和との恋に打ち込んだ。時が経つにつれ、二人の絆はますます深まっていった。千遥は、お見合い結婚なんて形だけのものだと思っていた。景和もロマンチックなプロポーズはしないだろうと。少しの寂しさは感じつつも、気には留めていなかった。しかし、景和は彼女の好みや期待をこっそり心に刻んでいた。ある何の変哲もない週末の夜、景和は千遥を特別なレストランに連れて行くと告げた。店に着くと、千遥は聞いたこともないプライベートレストランだと気づいた。店内は特別に飾られ、至るところ
届かぬ未来への招待状 第15話
千遥が言い終えると、その場で呆然とする研司を置いて去っていった。彼女は本当に疲れていた。研司に再会しても、心臓が激しく鼓動することはもうなく、あるのはただの静けさだった。九十九回も繰り返した、彼女の心はとっくにどんな波紋も立てられなくなっていた。その後数日、研司からの連絡がこなかった。会社の社員がスマホを手にトレンド1位を話し合うまで。「うわっ、これ国内の大企業の御曹司じゃん？なんでこんな大事故に！？」千遥がのぞき込むと、スマホの画面に映っていたのは、他でもない、数日会っていなかった研司だった。千遥は慌ててオフィスに戻り、自分のスマホでトレンドの動画を見た。動画の中で、研司は高級車の運転席で血まみれになっていた。そして救助隊員に救出され、ようやく担架に載せられる。担架の上で、唇に血をにじませながら、彼は必死にカメラに向かって口を開いた。「ご……ごめ……ん……」千遥はこれを見て、信じられずに何度も動画を再生し、それが本当に研司だと確認した後、机の上のコップを激しく床に叩きつけた。「バカかよ！」彼女は初めて思った、藤崎家にはきっと何か変異した遺伝子があるんだろう、じゃなきゃ藤崎家の人間が、一人残らず狂気へと堕ちていくわけがない。深く息を吸い、冷静になってから、彼女はアシスタントに研司がいる病院を調べさせた。病院に着くと、研司は弱々しくベッドに横たわっていて、胸元のボタンは呼吸しやすいように外されていた。千遥が近づいて見ると、研司の胸にも自分と同じ、火傷の跡があることに気づいた。場所まで全く同じだった。唯一違うのは、研司の傷はまだかさぶたになっておらず、生々しく見えることだった。千遥が来たのを見て、研司は弱々しく笑った。「千遥、お前に与えた傷、俺は返したよ。ペットはいなかったから、車をちょっとだけ派手に壊したんだ。これで、また俺のこと受け入れてくれないか」千遥はそれを聞き、研司を真っ直ぐ見つめて言った。「研司、これからはこんな無駄なことするのやめてよ。自分を傷つけるだけで、何の意味もないんだから。私たち、もう無理だよ」「俺が受けた傷は、とっくにかさぶたになった。その傷に触れるたびに、嫌な思い出が全部よみがえるんだ」「だからさ、私たちの間にできた溝は、お互いにやり取りしたくらいじゃ埋まら
届かぬ未来への招待状 第14話
かつて千遥は言ったことがあった――親友とは絶対に恋愛しない、と。あまりに知りすぎていて気まずいから。しかし千遥は景和と一ヶ月過ごした後、その言葉を自ら完全に覆すことになった。二人の感情はこの一ヶ月で急速に深まり、その後、両家の親の取り持ちもあって、見事に婚約を決めた。ある夜、千遥は景和の手を繋ぎ、別荘の前を散歩していた。空気は甘やかな雰囲気に包まれていた。ちょうど二人の唇が触れ合おうとしたその瞬間、一人の人影が駆け寄り、二人を引き離した。「千遥……この男は誰だ？」研司の目は真っ赤で、その眼差しには深い傷が宿っていた。彼の声は詰問の調子を帯びていた。千遥はそれを聞き、冷たく距離を置いた口調で言った。「あなたには関係ないわ。私たち、もう終わってるでしょう？」その言葉を聞いた研司は、目の前の千遥を信じられないという目で見つめた。彼は千遥をまる一ヶ月探し続け、ミラノにいることを知ると、息つく暇もなく飛んできたのだ。飛行機の中で一睡もせず、千遥が自分に会った時の反応を無数に想像していた。驚き、戸惑い、怒り……そんな反応は想像したが、このような冷たい態度は思いもしなかった。ましてや千遥が、得体の知れない男と抱き合い、キスをしているなんて！このすべてが、彼に自分の目を疑わせた。たった一ヶ月で、どうして全てが変わってしまったのか？千遥は確かに言った――この世で愛するのは自分だけだと。彼の声は悔しさに震えていた。「千遥、ごめん。清花のことでお前に辛い思いをさせたのはわかっている。でも約束する、今度俺と帰ってくれれば、もう二度とそんなことは起こらない」千遥はそれを聞いて嘲笑した。「へえ？今回はどんな解決策なの？また清花さんにエアコン禁止の罰？」研司の顔に気まずさが走ったが、すぐに言い足した。「結婚したら、清花を別荘から追い出す。絶対にもう誰にもお前を傷つけさせない」そう言うと研司は景和を一瞥し、言った。「千遥、これは俺たちの間の問題だ。この部外者にはどいてもらえないか？」千遥はそれを聞き、冷笑を浮かべると、しっかりと景和の手を握った。「正式に紹介するわ。こちらは私の婚約者、久我景和さんよ。だから、藤崎さん、どくべきはあなたの方じゃない？」景和はそれを聞き、研司に礼儀正しくほのかな微笑みを見せた。
届かぬ未来への招待状 第13話
友人はそれ以上何も言わず、ただ感嘆のため息をついた。「千遥がやっと願い叶うかと思ったのに、残念だな」「別に残念じゃないわ。多分、最初から幻想なんて抱かなければよかったの。今の結果は、私が自業自得だったってだけ」それから友人と少し世間話をした後、千遥は電話を切った。翌朝、千遥はスーツを着て、運転手の車で小宮グループの本社ビルへ向かった。会社の玄関に着くと、整列した警備員たちが声を揃えて叫んだ。『社長、おはようございます！』千遥は少し戸惑いながら、軽く会釈を返した。社長室に着き、窓の外の景色を見下ろした時、千遥は初めて『権力』というものを実感した。彼女は心に誓った――必ずしっかり努力して、両親の期待を裏切らないと。幸い彼女の大学の専攻は金融関連分野で、会社書類を読むのにさほど苦労することはなかった。午前中いっぱい会社の業務をこなし、ようやく昼食の時間に息をついた。母親が予約してくれたレストランの席へ行くと、向かいにはもう一人の男性が座っていた。それを見て千遥はすぐに母親にメッセージを送ったが、返事はなかった。千遥は一瞬で、これが母親の仕組んだことだとわかった。彼女は息を吸い込み、仕方なく大股で前に進み、手を差し伸べた。「こんにちは、小宮千遥です」「こんにちは、久我景和（くが かげかず）です」彼女がそう言った時、向かいの男性が顔を上げ、千遥は思わず息をのんだ。目の前の男性は背筋が伸び、体にフィットしたシャツを着ていた。襟元は少し開き、洗練された鎖骨が見える。剣のように鋭い眉、星のように輝く深い目、高く通った鼻筋、わずかに上向きの薄い唇にはかすかな笑みが浮かび、男前で洒脱な雰囲気を漂わせていた。しかし千遥が驚いたのは、そのルックスゆえではなく――この男性が他でもない、彼女の高校時代の同級生であり、かつてとても親しかった友人だったからだ。景和の表情は驚愕に満ち、千遥の顔を何度も見つめ直して、ようやく確信した。彼の声には驚きと喜びが混ざっていた。「国内にいるんじゃなかったのか？どうしてミラノに？」千遥は答えた。「ああ、両親がこちらにいるから。これからはここで暮らすつもりよ」さらに続けた。「それで、前に海外に行ったって言ってたのはミラノだったんだね。さっき見た時、全然気づかなかったよ。景和さん
届かぬ未来への招待状 第12話
この時、ミラノでは、小宮千遥は念願通り両親との再会を果たしていた。千遥の両親は、彼女が国内で味わった経験を知り、すぐにでも帰国して復讐しようとした。しかし千遥はそれを止めた。母親は思わず尋ねた。「千遥、まさかまだ藤崎研司のことが好きなの？」千遥は首を振った。「お母さん、この件は私にとって古傷のようなものなの。今さら掘り返したら、かさぶたが剥がれてしまうだけ。だから藤崎家のことは、遠くへ行ってほしい。できるだけ遠くに」「でも安心して。もし次に白石清花がまた私を傷つけたら、お母さん、お父さんが言わなくても、私は法律の力で自分を守るつもりよ」母親はそれを聞いて諦めた。「わかったわかった、もう大人なんだから、私たちの言うことなんて聞かないよね。でも、結婚のことは絶対に口出しするからね！藤崎研司よりもずっといい名門の息子さんを何人も見つけてあるんだから、時間を作って必ず会いに行きなさいよ」千遥は仕方なく適当に答えた。「はいはい、お父さんもお母さんも心配しないで。もうわかってるから」千遥がそう言うと、母親はまた口を開いた。「それと、戻ってきたんだから、会社の業務にも慣れなきゃね。社長の席を取ってあるわ。明日から出社して」千遥はうなずいて受け入れた。両親も年を取った。家業を背負う者がいなければならない。以前は研司のために無理をして国内で働こうとし、両親を随分心配させた。でも、もうそんなわがままは言えない。両親の白髪が増えていくのを見て、千遥の胸にじんわりとした痛みが広がった。彼女は言った。「お父さん、お母さん、企業グループをしっかり引き継ぐよ。もう心配させないから」両親はそれを聞き、安心したようにうなずいた。夜、両親は千遥をミラノ随一の高級レストランの最上階個室に連れて行った。その食事の環境は、千遥が国内で見た最高級店よりも豪華だった。千遥はその贅沢さに感嘆し、ふと疑問が浮かんだ。「お父さん、お母さん、外にたくさん人が待ってるのに、なんで私たちは待たずに個室に入れたの？しかも最上階の個室ってすごく高いんでしょ？この食事、すごくお金かかってない？」母親はそれを聞いて思わず笑い出した。「知らなかったの？ここは私たちの店よ。並ぶわけないでしょ？」千遥はそれを聞いて呆然と立ち尽くした。家が裕福なことは知っていたが
届かぬ未来への招待状 第11話
かつての研司なら、清花がこんな様子を見せれば必ず胸を痛め、説明したはずだった。しかし今、研司には説明する気力すらなかった。彼の表情は冷たく厳しく、全身から重苦しい威圧感が漂っていた。「清花……今は本当に疲れている。こんな時にこれ以上騒がないでくれないか？」清花の目尻には瞬時に涙が溜まり、その表情は屈折し、信じられないというものだった。「お兄ちゃん、昔のあなたじゃない……昔はいつだって辛抱強く私をなだめてくれたのに。今はもう、私をなだめることすら嫌になったの？」「私たちが一生一緒にいること、それが私たちの共通の願いじゃなかったの？どうして千遥さんが現れてから、全部変わってしまったの？」研司は眉を強くひそめ、顎のラインがピンと張った。「これは千遥のせいじゃない。ただ、お前の姿が見えなくなってきたんだ」「俺が知っている白石清花は、小さな動物を助ける優しい女の子だった。だが今のお前は……何度も何度も千遥を死の淵に追いやろうとし、俺がいくら止めても次にはまた繰り返すとは、俺はもうお前を知らない」清花は突然研司の腕を掴んだ。指先は力の入れすぎで白くなり、声は泣き声を帯びていた。「これが理由なの？お兄ちゃんが私を捨てる理由は？」「もしそうなら……私、改める。改めるから！お願い、お兄ちゃんだけは私のそばにいて！お兄ちゃんのためなら何だってする！」研司は顔を背け、喉仏がごくりと動いた。口調には深い罪悪感が満ちていた。「ごめん、清花。俺は、とっくに気づかないうちに千遥のことが好きになっていたんだ。ただ、彼女が去ったことで、それがより確かになっただけだ」清花の表情が一瞬で固まり、続けて耳をつんざくような笑い声が漏れた。涙でメイクはにじんでいた。研司がまだ何か言おうとしたその時、清花が突然カバンから薬液に浸したハンカチを取り出し、研司の口と鼻を強く押さえつけた。研司の瞳孔が急に縮んだ。抵抗しようとしたが、薬の効き目は速かった。ほんの数秒で、彼は意識を失った。研司が目を覚ますと、自分が薄暗い部屋に閉じ込められていることに気づいた。空気は蒸し暑く、息苦しいほどだった。口はシルクのスカーフでしっかり塞がれていた。物音を聞きつけた清花が、ハイヒールの音を「カツ、カツ」と響かせながら近づいてきた。彼女の指先が研司の頬を撫でる。その目
