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常夜灯が倒れ、愛が燃え尽きる日まで
常夜灯が倒れ、愛が燃え尽きる日まで
作者: 桐の木漏れ日

第1話

作者: 桐の木漏れ日
「長谷川社長、新しい身分をご用意いただきたく存じます。

もう心は決まっております。お彼岸が明けましたら、社長とご一緒に海外へ渡り、そして、自分の本当のルーツに戻りたいと考えております。

……それからもう一つ、お願いがあるのですが。あの事故の後、娘の遺体がどこの斎場へ運ばれたか、調べていただけませんか?

はい、ありがとうございます。景祐のことは、私の方で何とかしますから、ご心配なく」

平静を装って長谷川聡也(はせがわ さとし)との電話を終えると、清水美穂(しみず みほ)は機械的に抗うつ薬を数錠飲み込んだ。

大きなベッドに倒れ込むと、彼女の頬はすでに涙で濡れていた。

今日もまた、雷雨だった。娘の高橋愛(たかはし あい)が事故で亡くなったあの日と同じ。

三年前のあの日、娘が、景祐がかつて心から愛した女の運転する車にはねられるのを目の当たりにして以来、彼女は重いうつ病とPTSDを患い、このような天気を極度に恐れるようになった。

雷鳴が、愛ちゃんの血まみれの幼い顔と、あの瞬間の絶望と無力感を思い出させるからだ。

しかし、今この瞬間、普段あれほど恐ろしい雷の音も、どこか取るに足りないものに感じられた。

それ以上に彼女を恐怖させたのは、ドア一枚隔てた向こうにいる、育ての親である義理の叔父にして長年連れ添った夫である高橋景祐(たかはし かげすけ)だった。

先ほど耳にした会話を思い出すと、美穂は全身が冷え切り、吐き気すら催した。

今日は、愛ちゃんの命日だった。

美穂はまた、事故の日の夢を見た。

いつもと違ったのは、今回、愛ちゃんが泣き叫びながら、「パパと遥おばさんが、一緒に私を殺そうとしている」と言ったことだった。

美穂ははっと目を覚まし、慌てて景祐を探そうとした。

真夜中だというのに、彼は隣におらず、リビングの明かりがついていた。

ドアを開けようとした瞬間、ドアの向こうから二人の話し声が聞こえてきた。

「義兄さん、義兄さんと呼んでもいいですか?

姉さんはあんなにむごい死に方をしたのに、本当に姉さんに対して少しの情もなかったのですか?」

話しているのは、景祐が新しく雇った家政婦、桜井沙耶(さくらい さや)だった。

当時、景祐が「あの子は可哀想だ」と言うので、彼女はそれ以上何も聞かず、沙耶が家に残ることを許した。

何しろ、景祐が美穂を溺愛していることは、町中の誰もが知るところだった。

あの事故の後、彼女は彼の真心をもはや疑うことはなかった。

しかし、その瞬間、沙耶の呼びかけに、彼女は一瞬にして凍り付いた。

美穂が反応する間もなく、景祐の声も続けて聞こえてきた。

「君の姉には申し訳ないことをした。まさか、彼女が自殺するとは思ってもみなかった。

だが安心してくれ。もう導師の指示通り、常夜灯を灯し、美穂をその常夜灯の前で三年間跪かせた。

美穂はまだ知らない。愛ちゃんは火葬されておらず、骨壷の中身が君の姉だということを……

だから、くれぐれも口外しないように。

お彼岸になったら、導師の言う通り、愛ちゃんと君の姉を一緒に埋葬し、彼女の罪を清め、極楽往生させてやる……」

雷が轟いた。

美穂は寝室のドアのこちら側に裸足で立ち、目の前の出来事が現実なのか悪夢なのか、区別がつかなかった。

姉、自殺、常夜灯。

これらの言葉は、すべて同じ人物を指していた。

景祐の初恋であり、愛ちゃんを車ではねた殺人犯、桜井遥(さくらい はるか)。

当時、遥が結婚から逃げ出したため、美穂は秘めた恋を成就させ、義理の叔父である景祐と結婚することができた。

しかし、三年前、遥が追い求めた真実の愛が散々な結果に終わると、再び景祐の元を訪れ、彼とよりを戻そうとした。

その頃、美穂と景祐は、すでに誰もが認める理想の夫婦だった。

景祐は美穂をこの上なく可愛がり、当然のことながらかつて心から愛した女をきっぱりと拒絶した。

まさか、遥が怒り狂い、雷雨の日に、愛ちゃんに向かって車を暴走させるとは思ってもみなかった。

美穂は身を挺して守ろうとしたが、結局、愛ちゃんを守り切ることはできなかった。

幼い娘が大量の血を吐き、輝いていた瞳が次第に光を失っていくのを、ただ見ていることしかできなかった。

その時の光景を思うと、美穂の涙はますます溢れ出た。

あの事故で、美穂は愛ちゃんを失い、自身も片足を失い、天才バレエダンサーとしてのキャリアはそこで終わった。

療養中、彼女は何度も死んでしまいたいと考えた。

景祐が毎日熱心に看病し、遥の責任を最後まで追及すると固く誓ってくれたからこそ、彼女はかろうじて生きる勇気を持つことができた。

最終的に、この件は遥の自殺によって幕を閉じた。

ニュースが出た後も、景祐の反応は冷淡で、まるで遥に対して、本当に憎しみしか残っていないかのようだった。

しかし……数日も経たないうちに、普段は神仏を信じない景祐が、わざわざ常夜灯を持ち帰ってきた。

当時、彼は、娘が来世で苦しまないように守るためだと言った。

彼女は不自由な足を引きずりながら、敬虔な気持ちで三年間跪き続けた。

しかし、まさか、常夜灯の後ろにある骨壷が、自分たちの娘のものではないとは。

三年間跪き続けた相手が、娘を殺した殺人犯だったと思うと、美穂は胸が悪くなった。

さらに美穂を驚愕させたのは、景祐が、愛ちゃんと殺人犯を一緒に埋葬しようとさえしていることだった。

罪を洗い清める、ですって?

雷鳴の中、美穂は涙を浮かべながら軽く笑い、愛ちゃんが残したお守りを強く握りしめた。

彼女は、遥を象徴するあの常夜灯をわざと倒し、火事を起こすつもりだった。

そして自分はその炎の中で死ぬ。

景祐の心に永遠に刻ませ、永遠に後悔させるために。

「美穂ちゃん?」

ドアのところで物音がした。景祐が雷の音を聞いて、慌てて寝室に戻ってきたのだ。

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