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21.レティーシャ⑯

作者: 酔夫人
last update 最終更新日: 2025-12-06 19:00:12

(いっそのこと、どこか遠くへ逃げてしまえたら……)

でも聖女である自分に逃げる場所などない。

聖女に対してこの国の貴族は妄信的だ。

母サフィニアが死んだ理由については、由緒ある侯爵家の令嬢である身でありながら第二夫人となり、平民の第一夫人に傅く立場になったことへの屈辱だと言われている。

(屈辱と言っているのに……聖女を欲する心はその屈辱をお母様に飲み込ませた)

サフィニアは当時の社交界で三本の指に入る令嬢、通称『三花』と呼ばれるほどの存在で、当時の貴族の結婚市場はサフィニアが中心だったらしい。

当時サフィニアに婚約者がいなかった。

侯爵令嬢となると幼いときから婚約者がいるものだが、その理由について大方の意見は「婚約者を厳選しているから」だったが、ゴシップの域ではあるもののサフィニアには誰か思う相手がいたという説もある。

(思う、相手……)

「奥様?」

声をかけられて、レティーシャの心に浮かびかけたもの、掴みかけていた何かがパッと散った。

「あ……」

目の前には料理長がいて、レティーシャはいつの間にか自分が厨房の入口に立っていることに気づいた。

「どうなさいましたか?」

「その……喉の調子が悪くて、お茶が飲みたくて……」

息が詰まる未来の想像が振り払えず、息苦しさに言葉がとぎれとぎれになる。

「そんなことは侍女の誰かに言ってくだされば……少し震えていらっしゃいますね。奥様、宜しければ体を温めるハーブを使ったお茶を飲まれてはいかがでしょう」

「ええ、お願いします」

「それでは庭から採ってまいりますので奥様はお部屋でお待ちください」

料理長はそう言ってくれたが、彼の背後は賑やかだった。

お昼の時間まであと少し。

厨房はまさに戦場。

「いいえ、ハーブは私が採ってまいります」

「いえ、奥様の御手を煩わせるなど……え? ちょっと?」

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  • 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる    36.レティーシャの街歩き③

    アレックスはレティーシャが興味を持ったものを次々購入していく。「兄さん、うちのお薦めは……」「飲み物、食べ物、その他諸々。これだけあれば十分だ」(まあ、すごい。アレックス様の手は二本しかないのに、あんなに色々持って歩いていますわ)「お兄さん、お兄さん」「だからもう十分だ。足りなければあとで取りにくる」アレックスは持っていたものをレダとロイに押しつけるように渡すと、レティーシャの手を取って空いていたベンチに誘う。「騒がしくて堪らん」「アレックス様は町のみなさんに親しまれていらっしゃるのですね」レティーシャの言葉にアレックスが首を傾げる。「別に知り合いではないぞ?」「そうなのですか? 気さくに声をかけらえていたので、お知り合いだと思っていました」(そういえばアレックス様も目の色を変えていらっしゃるのよね)赤い瞳はアレックスの特徴となるので、アレックスも瞳を藍色に変えている。藍色はレティーシャが選んだ。琥珀色と同様に藍色も平民の瞳の色として珍しいものではない。(アレックス様に瞳の色は何がいいか聞かれて藍色と答えてしまったけれど、こうして見るとウィンが人間になったみたいだわ)「藍色の目が好きか?」「……え?」「今日はよく俺の目を見るから、藍色の目が好きなのかなって」(……犬に似ている、とは言えませんわね)「そうですか?」「……そういうことにしておこう。すまない、飲み物を追加で買ってくる」「は、はい」(一瞬で分かりにくかったですけれど……嫌な思いをさせてしまったかしら)「あーあ、主ってば余裕がないなあ」「余裕?」ロイの言葉にレティーシャはアレックスの後ろ姿を見る。アレックスは人波を器用に縫って、危うげない足取りをしている。「ちゃんと歩けていると思います

  • 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる    35.レティーシャの街歩き②

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  • 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる    34.レティーシャの街歩き①

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  • 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる    31.レティーシャの職場見学①

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