Share

6.レティーシャ(6)

Penulis: 酔夫人
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-17 19:00:56

「異変が起きたのは魔物の大流出スタンピード発生から4日目の朝。索敵が得意な者が周辺の魔物は全て討伐し、残りの魔物は山に戻ったと報告した直後に閣下がお倒れになったのです」

『突然』というのはあまり重要ではない。重度の興奮状態にあるとき、人は痛みや疲労を感じないというからだ。

(その前から異常は起きていたと考えたほうが自然でしょうね)

「救護天幕に運び込んだ閣下の肌は黒ずみ、一部は溶けはじめてすごい臭いだったそうです」

(溶ける。腐る。ラシャータ様も同じようなことを仰っていたわ。人間の体は生きてその血を巡らせる限り腐ることはありません。だから血の巡りが止まった……もしくは、止められた?)

「閣下は一部の騎士に護衛されて先に王都に戻り、私たちは副団長の指示に従って後から王都に戻りました。戻ったときにはすでに面会謝絶で、それからは団長しか閣下にお会いできていません」

「そうですか」

レダの説明に頷きながらレティーシャは『腐る』理由について考えていたが、レダの視線に気づいて首を傾げた。

「なんでしょう?」

「失礼を覚悟で申し上げますが、ラシャータ様が閣下の治療にそこまで親身になられるとは思いませんでした……その、あくまでも噂ですが、ラシャータ様は閣下の治療を拒否していたと聞いていたので……」

(間違っていませんわ。だから、レダ様がお怒りになることは正しいです)

昨日の父伯爵とラシャータの言い分。

そしてレダの表情。

そこにレティーシャが知っているラシャータの性格を合わせれば、レダが『ラシャータ』を批難する気持ちも分かる。

(でも、レダ卿は考えたことがないのかしら)

『聖女の力』といわれる治癒力。死んでさえいなければ、どんな病気でも怪我でも治してみせると豪語できる力。

この力を神から授かった初代聖女を、人々は「神に愛されているから」と言った。

しかし、その力を持つレティーシャにしてみれば、初代聖女は愛されていたのではない。聖女の力は神罰だったのではないかとさえ思う。

この国は王のいる貴族制度のある国だが、聖女の力のせいで昔から歪んでいる。伯爵が「王命が出たから」という理由で渋々従ったのがいい例だ。たかが一伯爵が王命が出るまで王の意向を無視するなど、他の同じ制度のある国ではありえない。

この異常性は、歴代のスフィア伯爵たちが甘やかされてきた結果。「死にたくない」と聖女の力に縋る者たちが聖女を甘やかしてきた結果だ。

(欲をかいた責任を押しつけないでいただきたいものなのだけれど)

力には責任が伴う。責任は果たさなければいけない。

死にゆく運命の者を寸でのところで救う奇跡はとても素晴らしいことだが、それは救うことができたからに他ならない。

社会を動かす権力を持つ者はどこか傲慢で、自分を特別だと思っている。何かあれば聖女が自分を助けてくれると思い込めるほどに。

この国の権力者ほど聖女の力に盲目的だ。

自分のことしか考えていないから、聖女の力を唯一の頼りにしているから、いざというときに聖女しかいなくなる。

聖女は最後の防波堤。

何が何でも助けなければいけない。

(それは閣下も同じ)

「死にたくない」と叫ぶ人々を守れる力を持つアレックスも最後の防波堤。

伯爵家に出入りする商人たちは、国境地帯がきな臭くなってきたことを噂し、「ウィンスロープ公爵様には早く元気な姿を見せてもらわないと」と当たり前のように言う。

アレックス不在を前提とした国の守りがないことが異常なことに誰も気づかない。しばらく耐えればアレックスがきてくれる。全ての策がこれ。この国の安全はアレックス一人に圧し掛かっている。

レティーシャもアレックスに守られた者なので、アレックスの命を助けたいとは思う。

だけど、心のどこかでアレックスは本当に助かりたいのだろうかと考えてしまう。

アレックスは死ぬまでその槍をふるい続けなければいけない。魔物を殺して呪わたり、人間を殺して憎まれたり、それが続く未来をアレックスは望んでいるのだろうかとレティーシャは思う。

(閣下は、死にたいと思ったことはないのかしら)

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi

Bab terbaru

  • 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる    46.レティーシャの家族①

    「奥様、そろそろ旦那様がお帰りになります」 「分かりました」ロシェットに軽く化粧を直してもらって、レティーシャは玄関ホールに急いだ。午前中はウィンスロープで鼠が出る騒ぎになり、その報告でアレックスは登城していた。(公爵邸はお城の目の前だから、お城にも鼠の注意をしにいったのかしら。厨房だけじゃなくて備蓄倉庫も鼠に荒らされたって伯爵邸の使用人たちがよく言っていたもの) 玄関ホールにつくと誰かがレティーシャに気づき、道を開けてくれた。並ぶ使用人の間を抜けてグレイブの前に立つ。こうしてアレックスを出迎えることにも慣れてきたとレティーシャが想ったとき、アレックスが帰ってきた。「おかえりなさいませ、アレックス様」 「ただいま、奥さん。ケヴィンとオリヴィアは?」「お二人ともお部屋にいらっしゃいます。呼んでまいりますか?」 「いや、全然、いなくて構わないから」首を横に振るアレックスの頭の向こうに空が見えた。アレックスと共に行動しているロイがまだ来ないからか、玄関扉はまだ開いたままだったからだ。空はまだ明るい。(今日はいつもよりお帰りが早いですね)「どうかしたのか?」 「空が明るいから、お早いお帰りだと思いまして……あと、夕焼けがとてもきれいだと……」レティーシャは反射的に自分の目に手を当てた。―― 君……目の色……夕日……。(男性の声……誰? いいえ、最近聞いたような……伯爵様? ……ではない……とても優しい声、あれは……) 「どうした? 目が痛いのか?」 「……え?」アレックスの声に顔を見ると、心配そうなアレックスの目と目があう。赤色に光るアレックスの目に映っているから、いまは琥珀色に変化させている瞳がレティーシャのピンク色の目に見えた。「どこも痛くないなら、俺とデートしないか?」 「これから、ですか?」「ちょっとそこの庭まで。二人なら立派なデートですよ、奥さん」(庭……)いいのだろうか、とレティーシャは思った。最近、ウィンスロ

  • 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる    45.侍女ロシェットの観察②

    「お義姉様が作られたこのクッキーは絶品ですわ。いくらでも食べられますわ」「ありがとうございます。オリヴィアが食べてくれると思うと、作るのもとても楽しいのです。いつでも作りますからね」オリヴィアは義妹の特権とかいう訳の分からないものを振りかざしてレティーシャに甘えまくっている。レティーシャも甘えられることが新鮮なのか、嬉しそうにオリヴィアを甘やかしている。甘やかされてメロメロになるオリヴィア。 メロメロのオリヴィアは可愛いとさらに甘やかすレティーシャ。無限ループに陥っている。二人は朝から晩まで一緒。 一緒に寝ることもあるので、晩から朝までも一緒。そんな二人にアレックスは焦れている。 この状態なので、ほぼ毎日焦れている。先ほどもレティーシャにクッキーを作ってもらうのだと自慢するオリヴィア相手に狡いと騒ぎ、「そのクッキー、絶対に残しておけよ! 当主命令だ!」などと言っていた。(……まあ、守ってはおりますけどね)当主命令だから、オリヴィアはそれを守ってちゃんと残していた。 一枚だけ、別皿に取り分けてある。これは「たくさん食べて下さいね」とレティーシャが言ったからだ。当主命令も聞きつつ、レティーシャのお願いも同時に適える見事さにロシェットは感心していた。同じ大きさの二枚の皿の上、一方は山盛りなのにもう一方は一枚ちょこんと乗っているだけ。少なさが妙に際立つ嫌がらせである。 先日、主要な使用人がオリヴィアによって集められ『奥様に旦那様と離婚したいと思わせないための作戦会議』が開かれた。ネーミングセンスは問いたいがテーマは分かりやすかった。レティーシャが離婚したい、つまりウィンスロープ邸を出ていきたいと思うとしたら原因は二つ。「一つは住み心地が悪い。でもこれは問題ないと思うの。お義姉様は毎日満足そうだもの。そうなると問題はもう一つのほう、アレク兄様との結婚は嫌とお義姉様が思ってしまうことだわ」そうならないために、初めのうちはレティーシャが好みそうなロマンスを演出するなど意味のある話し合いが行われた

  • 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる    44.侍女ロシェットの観察①

    「奥様、鼠が数匹邸内に入り込みました」「まあ、また?」(首を傾げる奥様、とても可愛らしい) 「鼠を駆除するため、邸内が騒がしくなります。しばらくオリヴィア様と温室でお過ごしくださいませ」「分かりました。それでしたら、お茶の用意も……お、お願いするわ」(使用人に命令することを慣れようとする奥様、たどたどしさが尊いわ) 最近、ウィンスロープ公爵邸には不届き者の侵入が増えている。屋敷の周りにいる奴らに対して「目障り」「奥様の目に留めるわけにはいかない」「先手必勝」などと使用人の意見がアレックスのもとに殺到したため、アレックスはわざと隙を作って鼠たちを迎え撃つ形に作戦を変更することになったことも一因である。鼠たちは大した手練れでもないため、その駆除は手の空いている者が担当することになった。だから、多くの使用人がその「手の空いている者」になるため、毎日せっせと働き自分のノルマを一生懸命こなしている。レティーシャの聖女の力で肩こり、腰痛、失恋の痛みなど、いろいろなものを治してもらった者たちの恩返しだった。使用人たちの良い働きにグレイブやソフィアたち幹部職は非常に満足している。 (今回も大勢参加しているわね)温室から見える屋敷は貴族宅とは思えないほど賑やかである。剣が金属製の何かにぶつかる甲高い音、小規模ながら魔法を使っている音もした。(次回からは拳のみ使うように進言いたしましょう。切り傷や焼け焦げた跡のある場所を奥様に歩かせるわけにはいかないもの)そんなお祭り騒ぎの邸はレティーシャにも見えているはずだが、レティーシャは「大変ね」の一言ですませている。「私、よく効く殺鼠剤の作り方を知っているから、あちこちに置いてみたらどうかしら」(奥様……大変お可愛いらしい)レティーシャの可愛さにロシェットの内心はくねくねと悶えているのだが、表面上はスンとした無表情で凛とした立ち姿である。 「お義姉様、大丈夫でしたか?」数人の騎士に囲ま

  • 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる    43.妹の突撃訪問②

    「何するのです!」「何って、お前が突然こっちに来るからだろう。俺は【いい人だから心配するな】と報告したじゃないか」「食べ物につられるケヴィン兄様は信用できません」ぷいっとそっぽを向いたオリヴィアに『はあ?』とケヴィンは思い、アレックスを見た。「兄貴もオリーに何か言って……兄貴?」「食べ物につられる、な」「……兄貴、あのサンドイッチの件は謝ったじゃないか」アレックスはふうっとため息を吐いた。弟に引き続き妹ともかなり久し振りの再会となるのだが、突然過ぎるし、慌ただしいしで、全くジンッとこなかった。「何か言ってやりたいのは私のほうですわ。 アレク兄様もアレク兄様です!」「……確かに連絡を遅れたのは悪かったと思う。あの怪我ではお前にもずいぶん心配をかけてしまったな」「お兄様……」回復は絶望的だという報告を受けたときの悲しみ、回復の可能性が出てきたと報告を受けたときの希望、そして完治の知らせを受けたときの歓喜。あの日々を思い出したオリヴィアは胸がぐっと詰まる思いだった。「でも【妻のことは心配ない】と連絡しただろう?」アレックスの『妻』発言に、グッと胸を詰めたものは消えた。「妻! あの女と呼んでいたお兄様はいつから妻と呼ぶようになったのです。天地がひっくり返ってもあの女と結婚することはない、心配するなと仰っていたのに」「あのな……」「分かっておりますわ。お兄様は相手が『中身がどんな性悪であっても器がよければやることやれる』ところりと共にベッドに寝転がる、外見至上主義の極致なようなお考えの持ち主ですものね。あの女、顔だけは確かにお兄様の好みど真ん中ですものね」さすが三花、過去に絡んできた女性たちから伝え聞いたアレックスの艶聞から、ラシャータの中身は嫌いだが見た目は実は好みであることをオリヴィアは見抜いていた。そのあたり、聞いた数が多いから精度も高い。「&

  • 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる    42.妹の突撃訪問①

    「あの悪女がいい人ですって……ケヴィンお兄様……ミイラ取りがミイラ取りになりやがりましたわ」アレックスのラブラブ王都デートの新聞記事に驚いたのは彼の弟のケヴィンだけではない。妹のオリヴィアも「どうしちゃったの、お兄様!」となった。オリヴィアは滞在している婚約者の領地(ウィンスロープ領の隣)から急いで実家にいき、領主代理のケヴィンの胸倉をつかみ、兄妹はその日は深夜まで話し合った。そして、機動力の高いケヴィンが王都に行くことで話がついた。ケヴィンは「義理を感じてあの女を追い出せないに違いない。俺があの女を追い出してくる」と言い、そんな次兄の姿に頼もしさを感じ、王都に行くならとついでにいま王都で人気の化粧品をお土産に頼んでケヴィンを送り出した。そしてようやく、首を長くして待っていたケヴィンからの報告の手紙を手にしたわけだが――。「【いい人だった。安心しろ】ですって!?」オリヴィアはケヴィンからの手紙をぐしゃりと丸めた。「オリー、落ち着いて。仕方がないよ、ケヴィン兄さんにとって美味しいものをくれる人は漏れなく全員“いい人”だから」オリヴィアを宥めるのは隣の領地を治めるピッカート伯爵家の長男ソーン、彼女の婚約者。ウィンスロープ領を間に挟んで両隣にあるグロッタ領とピッカート領の領主三家は仲がよく、子どもたちの交流も昔から盛んで、ケヴィンはグロッタ領主のご令嬢と婚約している。ソーンはオリヴィアと同じ年、彼女の兄たちであるアレックスとケヴィンを自分の兄のように慕っている。慕っているが、ケヴィンに対する評価はなかなかもの。それはそれ、ソーンは公平な評価ができる人なのである。「ソーン……あの兄って、そんな?」「ざっくり言うと、そんなだよね。それで、アレク兄さんからも手紙がきたんだろ? そっちにはなんて?」「心配かけたことを詫びる内容と……【妻のことは心配ない。いい人だから】って」「兄弟だ

  • 幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる    41.弟の突撃訪問②

    「結論から先に言う。あの女性はラシャータではない」「やっぱりな。変身魔法で誰かにラシャータの振りをさせているんだな」誰が用意したか分からないが、ずいぶんと下手な役者を用意したものだとケヴィンは思った。「ラシャータではないが聖女だ」「は? 新しい聖女が生まれたなんて聞いてないぞ」「……あのな。お前の目には彼女が赤子に見えたのか?」「いや……大人の女だった」年齢はオリヴィアと同じくらいで、ラシャータに似ていた……厨房で見た女を思い出しながらケヴィンが両手で女性の体を象ってみせると、目の前にアレックスのペンが飛んできた。「危なっ」「下品な目で彼女を見るな」「だからって……弟を殺す気か?」止めた万年筆を呆れたように回して見せると、グレイブがふうっとため息を吐いた。「いま旦那様は初恋の続きでウッキウキなのです。冗談は通じません」(まさか……)「聖女レティーシャ? あの、三歳で亡くなった? え、生きていたよな?」「当り前だ」「え…………ええええ。」「驚かせて……」「やったじゃん、初恋の君! 兄貴の初恋か、あの兄貴の初恋か。食い散らかしてポイ捨てがデフォルトの兄貴の初恋かあ……え、ちゃんと初々しいの?」「……大事なのはそっちか?」 そしてケヴィンはアレックスたちからこれまでの経緯を聞いた。スフィア伯爵がラシャータを養女にしてまで表舞台に出そうとしていることを聞いて、莫迦だなとケヴィンは思った。「で、これは誰のシナリオ? ……といっても、できたのは一人しかいないか」「そうだな。この国で王命を出せる

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status