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弟と婚約者に裏切られた不運の王子は、孤独な海の娘を狂愛する
弟と婚約者に裏切られた不運の王子は、孤独な海の娘を狂愛する
Author: 望月 或

1.裏切りの行為

Author: 望月 或
last update Last Updated: 2025-03-12 12:42:19

 ラエスタッド王国第一王子、ヴィクタール・ワース・ラエスタッドは、貴賓の部屋の前で、呆然と立ち尽くしていた。

 扉の中から微かに聞こえてくる声は、聞き慣れた女の声。

 そして男の、女の名を何度も呼ぶ、同じく聞き慣れた声。

「ヘビリア、ヘビリア……っ」

 その名は。――その、名前は。

 自分の……『婚約者』の名前――

 そして、馴染みのあるその男の声は。

 自分の弟である、第二王子、スタンリー・ツーク・ラエスタッドの声――

「スタンリー様ぁっ! 好き、大好きぃっ」

「僕も好きだ……愛してる、ヘビリア……。兄上よりもずっと……。ねぇ、君もそうだよね? 兄上なんかより、僕を愛しているよね?」

「えぇ、勿論っ。あんな堅苦しいヴィクタール様なんかより、あなたを心から愛してるの、スタンリー様ぁっ」

 叫びにも似た、二人の愛を伝え合う言葉を扉越しに聞きながら、ヴィクタールは思わず両目を固く瞑って耳を塞ぎ、力無くその場に膝をついたのだった――

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ここ、ラエスタッド王国は、海に囲まれた島にある、小さな王国だ。

 海の恩恵を授かっているこの王国では、国民は海獣神『ネプトゥー』を崇拝し、日々生活をしている。

 丘の上にある、ラエスタッド城。

 その庭園にある椅子に、二人の男女がテーブルを挟んで向かい合って座り、仲睦まじく談笑をしていた。

 男は、黄金色の無造作に切り揃えた短い髪と、紫色の瞳を持った美丈夫で。

 この国の第一王子である、ヴィクタール・ワース・ラエスタッドだ。

 女は、ヘビリア・リントン。リントン侯爵家の長女で、赤茶色のウェーブした長い髪と同じ色の瞳を持った、可愛らしい女性だ。

 彼女は、ヴィクタールの婚約者だ。

 リントン侯爵家は、代々『聖なる巫女』の血を直系に受け継ぐ家系で、そこで産まれた娘は、王族との婚姻が定められていた。

 王家には、こんな『伝承』が言い伝えられているのだ。

 “王家の血を引く者、『聖なる巫女』の血を引く者との絆が深まりし時、互いに『古の指輪』を嵌めよ。さすれば海獣神召喚され、“王の器”として認められし者へ、莫大な『力』と『富』を与えん。――但し、過ちを犯した者、海獣神の強大な怒りに触れん”

 ……と。

 王家の血筋を引く者は、代々、精霊を召喚出来る能力を持って産まれる。

 最下級の精霊でも、それを召喚出来た者は、『王位継承権』が与えられるのだ。

 ヴィクタールは、二十四になるこの歳になっても、未だ精霊を召喚出来ずにいた。

 彼は以前から、様々な面において中途半端だった。

 文事と武事でも、取り立てて優れている訳でもなかった。

 反対に、第二王子のスタンリーは、昔からどんな事でもそつなくこなせた。

 ヴィクタールはあらゆる面において、スタンリーに勝てた事はほぼ無かったのだ。

 『ほぼ』というのは、昔、一度だけスタンリーに勝った事があるからだが、それは遠い昔の話だ。

 国民や、城の者達が陰で自分を馬鹿にしているのは分かっていた。

「兄の方が出来損ない」

「弟の引き立て役」

 等、心無い言葉を言って騎士達が嘲り笑っているのを、偶然耳にした事もある。

 確かにその通りだと、ヴィクタールは騎士達に反論しなかった。

 スタンリーを憎む気持ちや羨む気持ちも無い。ただ、自分の弟が優秀で誇らしいと思うだけだ。

 それに、自分には婚約者のヘビリアがいる。

 彼女は天真爛漫で物事をハッキリと言う性格で、その姿が微笑ましい。

 政略の婚約だが、ヴィクタールは彼女を好ましく感じていた。

 このまま彼女と結婚し、共に過ごしたいと思うくらいには――

「ねぇ、ヴィクタール様ぁ? 精霊の召喚はまだ成功してないんですかぁ?」

「はい、なかなか難しくて……。けれど必ず成功させますよ」

「頑張って下さいね、ヴィクタール様! あたし応援してますから! 『王位継承権』が貰えたら、あたしも『王妃教育』頑張っちゃいますから!」

「頼もしいお言葉をありがとうございます」

 拳を握り締めるヘビリアに、ヴィクタールはクスリと笑う。

「でもヴィクタール様、相変わらずあたしを抱きしめたり口付けしてくれないから寂しいですぅ……」

「すみません、ヘビリア。以前に申し上げました通り、婚前交渉はしたくないんです。貴方を大切に想うからこそ……。どうか分かって下さい」

「……分かりましたよぅ。あーぁ、つまんないのっ」

 そうブツブツ言いながら、頬を膨らませブスッとするヘビリアにヴィクタールは苦笑する。

 どうしてか、彼女に触れたいとか、そういう欲は一切湧いてこないのだ。このままの関係が心地良いと感じているからだろうか。

 なのでヴィクタールの方からは、ダンス以外でヘビリアに触れる事は今まで一度も無かった。

 それよりも、彼女は平民の娘としてだったら可愛らしいが、貴族の娘としては気品に欠けた仕草と言葉遣いだ。

 枠に囚われないその姿が好ましい気持ちもあるが、彼女の今後の為にも、貴族としての振る舞いも覚えさせないといけないと思う。

 するとそこへ、騎士達の声が飛んできた。

「おい、聞いたか!? スタンリー様が精霊の召喚に成功したらしいぞ!」

「えっ、ホントか!? 見に行ってみようぜ! 『召喚の間』にいるんだよな!?」

 走り去って行く騎士達の会話に、思わずヴィクタールは椅子からガタンと立ち上がる。

「え……っ? スタンリー様が……?」

「行ってみましょう、ヘビリア」

「あっ、ちょっと待って下さいよぉ!」

 ヴィクタールとヘビリアは、スタンリーがいる『召喚の間』へと小走りに向かったのだった。

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