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2.その胸に思うのは

Auteur: 望月 或
last update Date de publication: 2025-03-12 12:43:09

 『召喚の間』は、床に召喚の媒体である複雑な魔法陣が描かれてあり、王子達はいつもここで召喚の習練を繰り返し行っていた。

 消費する魔力が多いので、一日に二、三回位しか出来ないのが欠点だ。

 『召喚の間』に入ると、後ろで結んだ橙色の長髪と青緑色の瞳を持つ青年が、床に描かれてある大きな魔法陣の上に立ち、見物者達に囲まれながら笑顔を浮かべていた。

 彼はこの王国の第二王子である、スタンリー・ツーク・ラエスタッドだ。年は、ヴィクタールより二歳年下の二十二歳だ。

 彼の前には、小さな魚の精霊がフヨフヨと浮かんでいる。下級の水の精霊、ナイアだ。

 通常、精霊は人の目に見えないのだが、この魔法陣の中にいる時のみ、その姿を見る事が出来る。

 上級の精霊だと、自ら姿を見せる事の出来る者もいるらしい。

 ちなみに王族は、自分が召喚した精霊は魔法陣の上関係無く見る事が出来る。

「すごいですよ、スタンリー!」

 思わずヴィクタールが称賛の声を上げスタンリーのもとに駆け寄ると、彼は自分の兄を見てニコリと笑みを浮かべた。

「兄上、僕、やったよ! でもごめん、兄上より先に『王位継承権』を貰っちゃった……」

「いいんですよ、そんな事は。頑張りましたね、スタンリー」

 シュンとするスタンリーをヴィクタールは労うと、彼は一瞬無表情になった後、再び笑顔を見せた。

「俺はヴィル兄さんの方が先だと思ったのに……。兄さんがすごい努力をしてること、俺、ちゃんと分かってるからさ」

 いつの間に側に来たのか、ヴィクタールの隣には、肩で揃えた黄金色の髪と紫色の瞳をした少年が、ブスッとした顔つきで立っていた。

 彼の名はウェリト・サーラ・ラエスタッド。この王国の第三王子だ。

 年はヴィクタールより八歳年下の十六歳で、まだ幼さの残る顔立ちをしている。

「ありがとう、ウェリト。私もスタンリーに負けていられませんね。もっと鍛錬しないと」

 ヴィクタールがウェリトの頭を撫でながら頷くと、それでもウェリトは不機嫌な顔を止めなかった。

「ヴィル兄さんは十分頑張ってるよ! それと……俺、やっぱりヴィル兄さんは昔の言葉遣いの方がいい。――ちっ、あの女の所為でヴィル兄さんは……」

 最後の方はウェリトの口の中で呟かれ、ヴィクタールには聞こえなかった。

 しかし、すぐ近くにいたスタンリーには聞こえたようだ。

「ウェリト、今何て言った? あの女――って、ヘビリア嬢の事か?」

「べーつにー? スタンリー兄さんは、自分の実力を過信しない方がいいよ。ヴィル兄さんと違って全然鍛錬したり努力してないじゃん。後で痛い目を見るのは兄さんなんだからな」

「は? 喧嘩売ってるのかお前? 僕はそんな事しなくても十分才能があるんだよ。もしかして僻みか? ――はっ、背も心もちっさい奴だなお前は」

「あぁっ!? 何だってっ!?」

 この二人は昔から仲が悪いのだ。顔を合わせる度にいがみ合っている。それを仲裁するのはいつも兄であるヴィクタールの役目だ。

 気付けば二人の仲がそうなっていたので、以前に、どうしてそうなったのかウェリトに訊いてみたところ、

「スタンリー兄さんは……何か嫌だ。ヴィル兄さんはすごく好き」

 ……との、曖昧な答えが返ってきた。結局、具体的な理由は不明だ。

「こら二人共、言い争いは止めなさい。言葉遣いは、王族として生まれたからには、遅かれ早かれ直さなくてはいけなかったのですよ。――でも……実を言うと、私も昔の口調の方がかなり楽なんですけどね? 独り言を言う時は昔の言葉遣いになってしまいます。これは内緒ですよ、ウェリト」

 唇に人差し指を当て片目を閉じ、茶目っ気にヴィクタールが返すと、ウェリトはようやく笑ってくれた。

 スタンリーはブスッとしたままだった。

 ――彼らと離れた所で、見物者達がコソコソと言い合っている。

「やっぱり先に召喚を成功出来たのはスタンリー様か……」

「『王位継承権』も、これでスタンリー様に与えられるんだよな?」

「あぁ。ってことは、早急にスタンリー様にも婚約者が充てがわれるだろうな。リントン侯爵家にはもう一人娘がいたよな? ヘビリア様の妹の。きっとその娘がスタンリー様の婚約者になるだろうよ。その娘もリントン家の『聖なる巫女』の血を引いてるんだからさ」

「そうだな。ぼく、次の王はスタンリー様がなった方がいいと思う。ヴィクタール様はなぁ……。自分の弟に負けっ放しだろ? 何か情けないというか、頼りないというか……。この様子じゃ、召喚も失敗のまま終わりそうな気がするよ……」

「あぁ、おれもそう思うよ。スタンリー様が次の王になってくれれば、この王国も安泰だよな」

「召喚も成功したんだし、きっとそうなるよ」

「あーぁ、ヘビリア様も貧乏クジ引いたな」

「はははっ、確かに」

 彼らの死角に立っていたヘビリアは、鬼のような形相で唇を強く噛み締め、その会話をただジッと聞いていたのだった――

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