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9.理不尽な言い分

Author: 望月 或
last update Last Updated: 2025-03-14 18:20:24

ヘビリアは、機嫌悪くリントン侯爵家に帰宅した。

「何よスタンリーの奴っ! 偉そうに『五月蝿いッ! 僕に話し掛けるなッ!!』って! 何様のつもりよ!? ――あぁ、でも我慢よ……。王妃になるには奴に取り入るしかないもの……。でもムシャクシャするわぁ! 何かで発散しないと気が済まないわぁ!」

 不機嫌丸出しのヘビリアがふと庭園を見ると、リシュティナとロッゾが仲良さそうに笑い合いながらお喋りをしている。

 ヘビリアはそれを見て、口の両端を持ち上げ、舌を出しニタリと嗤ったのだった――

********

「この時間は、ヘビリアお嬢様のお部屋の清掃ね」

 リシュティナは掃除用具を持って、ヘビリアの部屋に向かった。

 すると、彼女の部屋の扉がほんの少し開いている事に気付く。

「お嬢様、閉め忘れて行ったのかな?」

 扉に近付くと、中からヘビリアと、自分のよく知る声が聞こえてきた。

(この声は……ロッゾさん?)

 扉の前で立ち止まり、何気なく二人の会話を聞く。

 会話が途切れたらノックをし、清掃に来た事を伝えるつもりだったのだ。

「へ、ヘビリアお嬢様……。いいんですか、ボクなんかで?」

「えぇ、勿論よぉ。あたしを受け入れてくれるかしら?」

「そ、それこそ勿論です! 嬉しいです……お嬢様とこんな――」

「あたしもよぉ。でもいいの? あんたにはリシュティナとかいう娘がいたわよねぇ?」

「あ、あんな婆さん声の根暗女なんてどうでもいいんです! 冗談で告白したら本気にしちゃって、仕方なく付き合ったんです! ヘビリアお嬢様に比べたら天と地の差ですよ!」

「あらぁ、そう? ウフフッ。――じゃあ、こっちにきて……?」

「お嬢様……っ、アナタの産まれたままのお姿は女神様のようで……すごく綺麗です……っ」

「…………っ」

 リシュティナは二人の会話を聞き、中を一度も見ないでその場から逃げ去った。何をしているかは……経験の無い彼女でも分かった。

 庭園の隅に駆け込むと、蹲り息を整える。落ち着いてくると、先程の二人の会話が思い出され、両目から大粒の涙が溢れ始めた。

(――冗談、だったんだ……。それに気付かずにあんなに喜んで……。ホント馬鹿みたい、私……)

 胸がズタズタに切り裂かれたみたいに酷く痛い。涙が次々と零れ出て止まらない――

 涙が果てるくらいまでひとしきり泣き、心が落ち着いてきた頃には一時間が経過していた。

「……お掃除しなきゃ……」

 のろのろと立ち上がると、再びヘビリアの部屋に向かう。

 扉の前には、ヘビリアと、何故か彼女の母親であるリントン侯爵夫人がいた。

 赤色の巻き毛の髪と同じ色の瞳をした夫人は、吊り目をこちらに向け不快そうに睨んでいる。

「お母様、来たわよぉ? 掃除を怠けた張本人が。時間になっても来なかったのよ。前々から思ってたけど、こいつ動きがとっても遅いのよねぇ。掃除もちゃんとしてるのかどうか……。いつも何処かで怠けてるに決まってるわ。すぐに辞めさせてもいいと思うの。ねぇいいでしょう、お母様ぁ?」

「えっ!? ちっ、違います!!」

 ヘビリアの言い分に、リシュティナは思わず反論した。

 彼女はリシュティナにロッゾとの会話と行為を見せる為、わざと部屋の清掃の時間と被らせたのだ。

「私は時間通りにこちらに来ました! けれど、ヘビリアお嬢様がロッゾさんと――」

「五月蝿い! 言い訳はいらないわよ! ホント生意気ね!? ――お母様ぁ、こんなの辞めさせてもっと優秀な使用人を雇いましょうよぉ」

「夫が不在の間は、あたくしが使用人の進退の権限を持ちますからね。――いいでしょう。貴女は今を以って解雇です。心優しいあたくしは、ちゃんと貴女の今月の給金を支払いますからね。盛大に壮大に多大に感謝なさいよ?」

「っ!?」

 絶望の淵に立たされたような顔をするリシュティナを見て、ヘビリアは可笑しそうに鼻で嗤った。

「やだぁ、いい顔するじゃない? あんたを雇う所なんてどこにもありゃしないわよ。鈍臭いんですもの。さっさとここから出てって野垂れ死ねば? アハハハッ!」

 興味無さそうに歩き出したリントン侯爵夫人に続いて、ヘビリアも嗤いながら去って行った。

「…………」

 夫人の部屋に行き、給金を受け取ったリシュティナは、早々にリントン侯爵家を後にした。

 トボトボと家への帰り道を歩きながら、リシュティナは今後を考える。

 ――そして、一つの考えに思い至った。

「――よし、死のう」

 二年前、大好きな母が病気で亡くなり、縁あってリントン侯爵家で働くようになってから、本気で楽しいと思える事が無かった。

 リントン姉妹の苛めも相俟って、常に暗闇の中をあちこちぶつかりながら歩いている状態だったのに、今回のこの仕打ち……。

 ――もう、耐えられない。

 生きていても楽しい事なんて一つも無い。

(……お母さんのところにいきたい……。会いたいよ……お母さん――)

「……死ぬのなら海がいいな。お母さんの温もりを少しでも感じたい……。――よし、浜辺に行こう」

 

 リシュティナは浜辺へと足先を向ける。

 浜辺に着くと、波打ち際に、誰かがうつ伏せで倒れ込んでいるのが目に飛び込んできた。

 身体の下半分にさざ波が何度も掛かっているが、ピクリとも動かない。

 身体つきから、どうやら男のようだった。

「――えっ、あれは……? 黄金色の髪……? 王家にしかいない髪の色……。――という事は……“王族”っ!?」

 リシュティナはその時ばかりは死にたい思いを忘れ、男のもとへと急いで駆け出したのだった。

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