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작가: 笠井未久
last update 최신 업데이트: 2026-01-13 16:52:13

***

翌日。

私は、同期入社で仲の良い友人・水野円花と、会社近くの和食屋でランチを取っていた。

カウンター席に並んで座りながら、昨夜の出来事を淡々と語る。

「……だから、そのまんま。呪いで、結婚することになったの」

白米を口に運びながら言うと、円花は箸を止めて、ぽかんとした表情で私を見た。

「……呪い?」

「そう。たぶん。いや、恨み? どっちだったっけ? もうよく分かんないんだけど、とにかく、ご先祖様が勝手に決めたことで、今この時代に生まれた男女が結婚しないと不幸になるとか、なんとか……」

ようやく西京焼きの鮭に手を伸ばした円花は、呆れを隠せない様子で呟いた。

「……そんな時代錯誤な話、ほんとにあるんだ……」

「ね? 今どきドラマでもここまで強引な設定ないと思わない?」

「うん。たぶん視聴率取れないと思う」

同意するようにコクコクと何度も頷いた円花は、ふと真剣な顔で私を見つめた。

「ねえ、でも優里香、それで本当にいいの? この前さ、牧野さんのこと気になるって言ってたじゃない」

──うっ。

思わず喉が詰まりそうになる。

牧野さん。それは、総務部の上司で、私が密かに想いを寄せている人。

二歳年上で、仕事ぶりは丁寧で的確、なにより誰に対しても優しい。

私はずっと、彼に憧れのような気持ちを抱いていた。

「……よくないけど……でも、お祖母ちゃんの言うことって、どうやっても断れないみたいで……」

呟くように言った私に、円花は箸を置き、少しのあいだ黙って何かを考えていた。

そして、ぽつりと提案するように言った。

「……なんかさ、私が言っても仕方ないんだけど、やっぱり納得いかないよ。優里香が一番そう思ってると思うけど。

だったらさ、向こうから断ってもらえばいいんじゃない? わざとひどい態度を取って、“こんな子と結婚なんてできない!”って思わせるの。どう? 嫌われ作戦!」

「それ……! それだよ!」

思わず大声を上げ、勢いよく立ち上がってしまった。

──しまった。

周囲のテーブルから一斉に注がれる冷たい視線に気づいて、私は慌てて咳払いをひとつ。

小さく「すみません」と呟きながら、そろそろと腰を下ろした。

ちょっとはしたなかったけど……でも、光が見えた気がした。

ああ、もう……。恥ずかしいったらない。

さっきの勢いのまま立ち上がってしまった自分を思い出しながら、私は円花の顔を見つめた。

そして、改めて言葉を口にする。

「円花、本当にありがとう。そうだよ、それだよ。嫌われればいいんだ。私、全力で嫌われるように頑張る。……なんだか、希望が見えてきた気がする!」

喜々として宣言する私に、円花も満足げに口元をほころばせた。

「で? その“嫌われるべき”相手って、誰なの?」

──ごもっともな質問だった。

私は記憶をたどるように目を泳がせ、名前を思い出そうとする。

「えーと……ケン……じゃなくて、太郎……シンタロウ……? いや、違うな……。あっ、そうそう。翔太郎。うん、翔太郎だ。なんか、和風な名前だなーって思った」

「翔太郎、ね。ありそうで、あんまりいなさそうな名前……。で、部署は?」

「え、知らない。っていうか、聞いてない」

「はぁ……。あんたさ、それぐらいはちゃんと確認しときなよ。同じ会社なんだから」

「うん……今日、確認する」

スッキリした気分で、生姜焼きを口に運びながら答えた私に、円花はみそ汁を一口すすると、妙に含みのある声で言った。

「ねえ……まさか“小泉翔太郎”じゃないよね?」

「え、小泉翔太郎って誰?」

心底ぽかんとした顔で返した私に、円花は呆れたように目を丸くしてため息をつく。

「ちょっと本気で言ってる? 自分の会社の副社長だよ。世界的企業“KOIZUMIグループ”の御曹司。うちの副社長が、小泉翔太郎」

──副社長?

──御曹司?

──翔太郎って、そんな名前だったっけ……?

あまりに雲の上の存在すぎて、名前なんて気にしたこともなかった。けれど……確かにそんな名前だったような、気もする。

「そんな、まさか……違うでしょ。うちみたいな普通の家が、そんな大企業の副社長と知り合いなんて、あるわけ──」

恐る恐る否定の言葉を口にした私に、円花もぎこちない笑みを浮かべた。

「そうだよね。社員数も多いし、翔太郎って名前の人ぐらいたくさんいるよね」

「そうそう。だって、あの副社長って──」

「うん、“ありえないほど整った顔立ち”で、“冷徹”って噂の、あの副社長……」

思わず二人で顔を見合わせる。

……いやいや、ないない!

そんな“選ばれし系男子”と、うちみたいな庶民家庭が繋がってるわけがない!

「そんな人は、もっと名家のご令嬢と結婚するに決まってるって。私は、そこらの平社員の翔太郎さんに、全力で嫌われるだけなんだから!」

意気込むように言い切ると、円花も勢いよく「がんばれ!」と笑ってくれた。

その後、残り少なくなった昼休みに慌ててご飯をかきこみ、みそ汁を流し込みながら、なんとか時間内に食べ終えた。

けれど、心の奥にはずっと、うっすらとした不安が残っていた。

──まさか、ね。

──いや、ないない。ないってば。

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