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第2話

Author: 月は沈む運命にある
マンション?

脳裏に、さっき見た優奈のSNS投稿がフラッシュバックした。

彼女と蓮が抱き合っていた場所、あの大きな掃き出し窓……

あれはまさしく、今売出し中の新築高級マンションではないか?

私は支払先の不動産会社へ走り、父の治療費を取り戻そうとした。

すると、ちょうどモデルルームから談笑しながら出てくる蓮と優奈の姿が目に飛び込んできた。

私に気づくと、優奈は純真さを装いながらも、どこか誇らしげな笑みを浮かべた。

「麗華さん!見て、蓮さんがプレゼントしてくれた新居ですわ!」

蓮は彼女のバッグを代わりに持ち、愛おしそうにその頬をつついた。

その声は、とろけるように甘く、優しい。

「気に入ってくれたなら良かった。

次は川が一望できる物件をプレゼントするよ」

しかし私を一瞥した瞬間、その眼差しは冷徹なものに変わった。

「会社で待っていろと言ったはずだ。

こんなところまで来て、何の騒ぎを起こすつもりだ?」

私は優奈の手にある鍵を指差し、怒りで声を震わせた。

「蓮、そのマンションを買ったお金、どこから出したの?」

蓮は気にも留めない様子で、私を一瞥した。

「手持ちの資金がプロジェクトに回っていて、今すぐ動かせなくてな。

お前のカードを少し借りただけだ。

どうせお前の結婚資金だろう?

暗証番号も聞いてたし、少し先に使ったって問題ないだろ?」

「父さんが危篤なのよ!手術にはそのお金が必要なの!」

あまりの怒りに、私は感情を抑えきれず叫んだ。

すると優奈が、今にも泣き出しそうな表情を作った。

「蓮さん、私のせいですね……麗華さん、誤解してるんじゃ?

やっぱり、このマンションは麗華さんにお返ししたほうがいいですよね」

蓮の表情が即座に険しくなり、私を睨みつけた。

「麗華、いい加減にしろ!優奈が怖がっているだろ。そんな風に脅すな。

金が欲しいならそう言えよ。

後でアシスタントから送らせる。

たかがそれっぽっちのことで、そんなにムキになるなよ」

私は蓮の顔を見つめ、全身の血が冷え切っていくのを感じた。

父は彼を引き立て、あれほど支えてきたのに。

私はただ、自分のお金を取り戻したいだけなのに。

逆に私がムキになっていると責めてきたとは。

私は怒りで震えながら、スマホで自分の銀行口座の情報を表示させた。

「言い訳はもういいわ。父さんの治療費が必要なの。

そのお金、いますぐ返して!」

蓮が口を開く前に、優奈が突然目を赤くし、私の前にひざまずいて土下座しようとした。

「麗華さん、ごめんなさい!

蓮さんは私のせいで麗華さんとの用事に遅れてしまったんです。

蓮さんを責めないでください」

その姿を見た蓮は、痛ましそうに彼女を抱き起こし、私に向かって怒鳴った。

「麗華!少しは大人になれよ!いつまでそうやって理不尽なことを言うんだ!

優奈は俺の妹みたいなもんだ。マンション一つくらい買ってやって何が悪い?

俺と結婚したら何億円だって自由に使えるようになるんだぞ?

たかが五千万円で目くじらを立てるな!」

「妹?」

怒りで目の前が真っ赤に染まった。

「そんなことなんて関係ない!いますぐお金を返して!

あれは私の結婚資金よ!あなたの愛人なんかに一円だって渡したくない!」

蓮の表情が、怒りで険しく歪んだ。

「麗華、本気で俺とやり合う気か?

俺を敵に回したらどうなるか、よく考えたほうがいいぞ!

親父さんの会社、再起不能にもしてやるか!」

父の会社を盾に脅され、私の怒りは頂点に達した。

「父さんの会社はね、あなたが約束を破って見捨てたあの瞬間に、もう倒産したのよ!

さっさとお金を返しなさい!

さもないと、上場企業の社長が婚約者のお金を盗んで愛人に貢いだヒモ男だと、マスコミにばら撒いてやる!

それでも株価が暴落しないか見ものね!」

私の言葉が導火線となり、蓮の目に陰惨な色が宿った。

「やれるもんならやってみろ!

俺の会社の株が下がるのが先か、お前の家のスキャンダルが世間にばら撒かれるのが先か。

試してみるか!」

私は充血した目で、彼に一歩詰め寄った。

優奈は怯えたように蓮の腕にしがみつき、震える声で言った。

「蓮さん、怖いです……麗華さん、私を殺すつもりかも!」

蓮はとっさに優奈を背に隠し、私を乱暴に突き飛ばした。

「優奈に指一本でも触れてみろ!

お前もお前の親父も、この街にいられないようにしてやるぞ!」

突き飛ばされた勢いで、私は地面に激しく倒れ込んだ。

蓮の腕の中で泣きじゃくる優奈と、私を敵のように睨む蓮。

それを見た瞬間、心が死んだ。

私は自嘲気味に笑った。

「葛城蓮、私たちの婚約が破棄よ。私の金は本日中に返して。

それと、あなたと森下優奈、お似合いの二人ね。精々お幸せに!」

私の瞳の奥にある絶望に気づいたのか、蓮は私を呆然と見つめた。

私が背を向けて立ち去ろうとすると、彼が呼び止めた。

「待て!麗華、まずは親父さんの会社を見に行こう。

金の話はその後だ、いいな?」

私は首を横に振った。

「必要ないわ。もう民事再生法の適用を申請したから」

背を向けたまま、涙が無音でこぼれ落ちた。

民事再生法なんて嘘だ。ただ、もう二度と彼と関わりたくなかっただけだ。

私の言葉を聞いて、蓮は逆に安堵したようだ。

「なんだ、大したことないじゃないか?

安心しろ、一段落したら、親父さんの会社のことも気にかけてやるよ。

それで文句ないだろ?」

私は何も答えず、そのまま立ち去った。

背後で蓮が「まったく、話にならない女だ」と不満げに呟くのが聞こえた。

その後は、優奈への甘い慰めの言葉だ。

「優奈、怖くないよ。ほら、あの限定バッグを買いに行こう。埋め合わせにね」

彼らの声が聞こえなくなるまで歩き続け、私はようやく冷たい壁に手をつき、声を殺して泣いた。

三年越しの婚約は、彼の手によって呆気なく踏みにじられ、終わりを告げた。

そして父は今も、生死の境をさまよっている。
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