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第75話

Autor: シガちゃん
由奈は何か言いかける鈴木を背に、振り返りもせず玄関を出た。

昔の自分なら、祐一がカードを渡してくれたことをきっと喜んでいた。「自分を気にかけてくれている証拠だ」と信じて、胸をときめかせていたはず。

けれど今は、もうそんなふうに勘違いしたりはしない。

……

約束していた音楽レストランに着くと、彰はすでに席で待っていた。入ってくる彼女の姿を見て、にやりと口角を上げる。「さすが由奈ちゃん、ずいぶんロマンチックな店を選んでくれたね」

由奈は椅子を引いて腰を下ろしながら、軽く笑った。「高いお店は私の財布が悲鳴を上げますし、安すぎるお店では彰さんの顔に泥を塗るでしょう?だから真ん中あたりを」

彰が愉快そうに笑う。「泥を塗るなんて、とんでもない」

「ふふ、これも私なりの誠意ですから、楽しんでもらえると嬉しいです」

二人は料理を三、四品とワインを一本頼み、グラスを傾けながら話に花を咲かせた。

由奈にとって、こんな穏やかな時間は本当に久しぶりだった。

この六年間、彼女の生活は妻としての枠の中に閉じ込められていた。仕事が終わればまっすぐ家へ戻り、祐一の帰りを待つ。友人とも連絡を絶ち、趣
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