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第57話

Auteur: 甘寧
last update Dernière mise à jour: 2025-12-08 16:00:00

煌は苛立っていた。

奏に会った事で早朝会議には遅れ、巻き返そうとしたら手元に置いたコーヒーをこぼし、書類を駄目にしてしまった。

奏に会ったと言うだけでも憂鬱だってのに、悪い事は重なるものだと、頭を抱えながら息を吐いた。

柚が遭遇していないか心配だったが、出社して来た柚を見る限り、接触した様子はない。

「なに?眉間に皺なんか寄せて……みんな怖がってるじゃない」

「ああ、すまない」

柚に注意され、寄っていた皺を伸ばすように眉間に手をやった。

「何かあったの?」

「お、心配してくれるのか?」

「ち、違う!職場の雰囲気が悪くなるから!」

軽口で応対する俺に、柚は顔を真っ赤にさせて怒った風に見せてくる。だが、心配してくれているのは見れば分かる。

(くくくっ、本当に嘘が付けないな)

ここが職場じゃなければ抱きしめていた所だ。

「今日は仕事早く切り上げるから一緒に帰ろう」

わざと耳打ちする様に言えば、更に顔を赤らめる。こうした一つ一つの仕草までが愛おしい。

(もう重症だな)

自分で自覚がある分、救いがあるか。

***

煌から告白を受けた。

驚きはあったものの、どこかで桜と私に接する態度や仕草が違う事に気が付いていたのに、気付かないフリをしていたのかもしれない。それも煌には知られていたのかもしれない。言葉にしてしまえば、私を困らせることになると……

(困ったな……)

いや、困ったという表現は違う気がする。だって、このまま煌と一緒になるのが私にとっても結花にとっても一番いい選択だと思っている。

「はい」そう一言伝えるだけなのに、その一言が出てこない。

どうしても、奏の顔がチラついてしまう。いつまでも私の心の奥底にしがみついていて離れてくれない。……そうしているのは私自身なのかもしれない……
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