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忘れられた双子が死んだ夜
忘れられた双子が死んだ夜
作者: ココジャム

第1話

作者: ココジャム
ヴァレンティ・ファミリーでは、生まれた子供全員にチップが埋め込まれる。

手首のバイオウォッチと一体化したそのチップは、自分に残された寿命を一秒ずつ刻み続けていた。

双子の妹ヴィヴィアンのウォッチに表示された数字を、誰もが知っていた。

もちろん、私のものも。

ヴィヴィアンは十八歳の誕生日に死ぬ。

それが決まった未来なのだと、家族も周囲も疑いもしなかった。

だからヴィヴィアンは、この残酷な世界の中で特別扱いされ続けた。

ダイヤを散りばめたドレスも、滅多に手に入らない宝石も、父が銃を置いたあとにだけ見せる、あの一瞬の優しささえも、全部あの子のものだった。

昔は、ヴィヴィアンを可哀想だと思っていた。

だって、自分の終わりの日が最初から決まっているなんて、そんな人生、あまりにも残酷じゃないか。

でも、本当は違った。

私はずっと、ヴィヴィアンが羨ましかった。

あの子には、私が一度も手に入れられなかったものが全部あったから。

父と母の愛。それだけは、どれだけ望んでも私には与えられなかった。

そして迎えた、ヴィヴィアン十八歳の誕生日。

両親は、私を地下室へ閉じ込めた。

同盟ファミリーのドンたちが集まる夜だ。私が騒ぎを起こせば面倒になる、そんな理由だった。

地下室は湿っぽく、凍えるほど寒い。なのに身体だけが熱くて、頭の芯まで焼けるみたいに痛かった。

私は何度も扉を叩いた。

「ママ……お願い……開けて……っ。熱があるの……苦しくて……」

けれど返ってきたのは、冷え切った母の声だった。

「いい加減にしなさい、シエナ。今日はヴィヴィアンの十八歳の誕生日なのよ」

「でも、本当に具合が悪くて……」

「芝居がかったマネはやめてちょうだい。ファミリーのメンツのために、黙って耐えることすらできないの!? あの子にとって最後の誕生日なのよ」

ヒールの音が遠ざかっていく。

私は暗闇の中に置き去りにされた。

ぼやける視界の端で、手首のウォッチが赤く点滅している。

【緊急警報:生体データ異常。登録チップとの情報が一致しません。本人確認を……】

最後まで読む前に、急に身体の感覚が消えた。

ふっと重力がなくなる。

気づけば私は宙に浮いていて、そのまま閉ざされた扉をすり抜けていた。

次の瞬間、豪華なパーティーホールへたどり着く。

シャンデリアの光が眩しく輝く中、有力な同盟者たちや敵対するボスたちの視線は、ヴィヴィアンのウォッチが刻む残り時間に釘付けになっていた。

彼女の手首に表示されている残り時間は、03:15:22。

今夜が終わるまでに、ヴィヴィアンは死ぬ。

誰もがそう信じていた。

父のマルチェロはヴィヴィアンを抱き寄せ、母のヴァレリアは壊れ物に触れるみたいに彼女の頬を撫でている。

ダイヤだらけのドレスを纏ったヴィヴィアンは、小さく咳き込んだ。

絶妙な甘えを含んだ、不安そうに揺れる声。

「……ママ、パパ。お姉ちゃん、本当に大丈夫かな……?」

不安そうに揺れる声。

「頭が痛いって泣いてたし……地下室、すごく寒いから……」

「放っておきなさい」

母はすぐに言った。

ヴィヴィアンの金髪を優しく撫でながら。

「あの子は昔から大げさなのよ」

「そうだ、病気なんて嘘に決まってる」

父も苛立ったように吐き捨てる。

「どうせまた、気を引きたいだけだ」

そう言ったあと、父は急に言葉を詰まらせた。

「……お前に残された時間は、もう」

最後まで続けられない。

目を赤くしながら、父はヴィヴィアンを強く抱き締めた。

「今日は自分の誕生日だけ考えろ。シエナなんかに台無しにされるな」

ヴィヴィアンは悲しそうに目を伏せる。

でも私は知っていた。

あれは全部、演技だ。

ヴィヴィアンは昔からそうだった。人前では、必ず優しい妹を演じる。

私には専用の護衛をつける価値すらなく、敵対ファミリーが路上で私を拉致しようとした時でさえ、ヴィヴィアンが自分の護衛を二人、私に「プレゼント」してくれただけだった。彼女の盛大な施しのパフォーマンスだ。宝石や贅沢品? そんなものは望むべくもない。

私にデザートを分けてくれたり。一度しか着ていない高級ドレスを譲るふりをしたり。父に怒鳴られれば、真っ先に庇ってみせたり。

そして決まって、泣きそうな顔でこう言うのだ。

「シエナ、ごめんね……私のせいで、あなたばっかり辛い思いして……」

そのたびに両親は、「なんて優しい子なの」とますますヴィヴィアンを愛した。

「あの子は昔から、あなたに嫉妬してるのよ」

母は何度もヴィヴィアンにそう言っていた。

「あなたが幸せそうにしてるのが気に入らないの。

十六歳の誕生日のこと、もう忘れたの?」

十六歳の誕生日。

あの日、私は初めて反抗した。

誕生日は双子二人のもののはずなのに、祝われるのはヴィヴィアンだけだった。

父はヴィヴィアンのために特注の銃を用意した。

後継者の証として。

巨大なケーキまで用意され、両親はヴィヴィアンを抱き寄せながら幸せそうにキャンドルへ火を灯していた。

私は柱の陰から、それを見ていた。

キャンドルの光に照らされるヴィヴィアンの顔。ずっと欲しかった銃を手にして笑う姿。願い事をするために静かに目を閉じる瞬間。それを見守りながら涙ぐむ両親。

耐えられなかった。

嫉妬だったのかもしれない。

あるいは、両親の腕の中から私を見下ろすヴィヴィアンの顔に、我慢できなかったのかもしれない。

私は飛び出して、ヴィヴィアンを突き飛ばした。

銃が噴水へ落ちる。

巨大なケーキが倒れ、使用人たちが慌てて私を取り押さえた。

私は追い詰められた獣のように叫んだ。

「なんでいつもヴィヴィアンだけなのよ!」

あの時の父の顔を、今でも忘れられない。

父は無言でファミリーの鞭を手に取った。

それでも私は怯みもしなかった。

鞭が振り下ろされるたび、背中が裂けるみたいに痛んだ。

それでも母は止めなかった。

ただ冷たい目で見ていただけだった。

ヴィヴィアンだけが泣きながら、その「か弱い」身体で私を庇うように覆い被さった。

「やめて、パパ! お願い、もうやめて!」

震える声でそう叫びながら、私を抱きしめる。

でも肩に食い込む指だけは、痛いほど強かった。

「全部、私のせいなの……」

私はヴィヴィアンを突き飛ばした。

それが余計に父の怒りに火をつけ、私は部屋へ閉じ込められたうえ、夕食まで抜きにされた。

その夜。

ヴィヴィアンは私の部屋へやって来た。

昼間みたいな優しい顔はしていない。

口元には、勝ち誇ったみたいな笑みが浮かんでいた。

「かわいそう、シエナ」

冷たい指先が傷口をゆっくりなぞる。

「このチップが読んでるのは私の寿命なんだから。みんな、私だけを愛するの。

あなたは私の影よ、シエナ。一生、私の影の中で生きて死ぬの」

――そして今。

パーティーホールで、母はヴィヴィアンを抱き寄せながら言った。

「シエナのことなんて放っておきなさい」

呆れたような声だった。

「あの子は昔から、あなたが羨ましいだけなんだから」

……そう。

その通りだった。

私はヴィヴィアンが羨ましかった。

家族に愛されることが。父に優しくしてもらえることが。

たとえ余命わずかでも、両親にとって一番大切な存在でいられることが。

私はヴィヴィアンへ手を伸ばした。

その偽善者の顔を引き剥がしてやりたかった。

全部暴いてやりたかった。

けれど、私の手は彼女の身体をすり抜けた。

まるで冷たい霧に触れたみたいに。

私は、自分の透けた指を見下ろした。嫌な予感に引き寄せられるように地下室へ戻る。

扉の隙間から見えるのは、死んだみたいな暗闇だった。私はそのまま扉をすり抜ける。

そして、冷たい石床の上に倒れている、自分自身の死体を見てしまった。

私はもう動いていない。

ヴィヴィアンのカウントがゼロになるより先に、私の命の方が終わっていたのだ。

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