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第9話

作者: ココジャム
SUVは厳重な警備を抜け、祖母の私有ワイナリーへ入っていった。

ここには、ニューヨークの裏社会の喧騒は届かない。冷酷な駆け引きも、誰かを値踏みする視線もない。

あるのは、早朝の静寂だけだった。

祖母は暖炉の前へ歩いていき、マッチで乾いた薪へ火を灯す。

柔らかな金色の光が、冷え切った安置室の気配を少しずつ追い払っていく。

祖母はそのままテーブルへ戻った。

リビングの長いテーブルの中央へ、私の骨壺を静かに置く。

それから、白い祈りのキャンドルを三本灯した。

小さな炎が揺れる。

祖母は目を閉じ、胸元でゆっくり十字を切った。

ヴァレンティ家に古くから伝わる、最も神聖な別れの儀式だった。

私は宙に浮かびながら、その光景を見つめていた。

その瞬間、祖母が、ふいに目を開ける。

白く濁りながらも鋭い光を宿した瞳が、真っ直ぐこちらを見た。

「シエナ」

掠れた声だった。

涙を堪え続けていたせいで、声まで滲んでいる。

「おばあちゃんには見えてるよ」

胸の奥で、何かが一気に崩れ落ちた。

十八年間、押し殺してきた苦しさも、寂しさも、全部溢れ出す。

「おばあちゃん……!」

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    SUVは厳重な警備を抜け、祖母の私有ワイナリーへ入っていった。ここには、ニューヨークの裏社会の喧騒は届かない。冷酷な駆け引きも、誰かを値踏みする視線もない。あるのは、早朝の静寂だけだった。祖母は暖炉の前へ歩いていき、マッチで乾いた薪へ火を灯す。柔らかな金色の光が、冷え切った安置室の気配を少しずつ追い払っていく。祖母はそのままテーブルへ戻った。リビングの長いテーブルの中央へ、私の骨壺を静かに置く。それから、白い祈りのキャンドルを三本灯した。小さな炎が揺れる。祖母は目を閉じ、胸元でゆっくり十字を切った。ヴァレンティ家に古くから伝わる、最も神聖な別れの儀式だった。私は宙に浮かびながら、その光景を見つめていた。その瞬間、祖母が、ふいに目を開ける。白く濁りながらも鋭い光を宿した瞳が、真っ直ぐこちらを見た。「シエナ」掠れた声だった。涙を堪え続けていたせいで、声まで滲んでいる。「おばあちゃんには見えてるよ」胸の奥で、何かが一気に崩れ落ちた。十八年間、押し殺してきた苦しさも、寂しさも、全部溢れ出す。「おばあちゃん……!」私は泣きながら祖母へ駆け寄った。抱き締めてほしかった。温かい人間のぬくもりに触れたかった。けれど、私の手は祖母の身体をすり抜ける。何も掴めない。私は呆然と、自分の透けた指先を見下ろした。祖母は何も言わなかった。ただ、震える腕をゆっくり広げる。そこに誰かがいるみたいに。本当に私を抱き締めようとしてくれているみたいに。死によって隔てられた祖母と孫は、その静かな家の中で、長い時間一緒に泣き続けた。やがて祖母は涙を拭うと、ゆっくり立ち上がった。外の果樹園へ向かい、真っ赤に熟した林檎を一つもいでくる。流し台で丁寧に洗い、傷ひとつないくらい綺麗に磨き上げた。そして白いキャンドルの隣へ、そっと置く。「この血塗れの家じゃ、あの子たちが与えるものには、いつだって血と火薬の臭いがついて回るわ」祖母は骨壺を撫でながら、小さく笑った。「おばあちゃんには宝石も金もないけどねぇ。でも、綺麗な林檎を一つくらいならあげられるわ」ぽたり、と涙が落ちた。彼女の乾いた指先が、骨壺を優しくなぞる。祖母は私を見上げる。疲れているけど、どこまでも優

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