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11話

Author: 東雲桃矢
last update Last Updated: 2026-02-25 15:20:31

「申し訳ございません。以後気をつけます」

 ふさは悔しそうな顔で、今度こそ風呂の準備をしに行った。

「立ちなさい」

 文彦はうたの肩を抱き、ゆっくり立たせると、和装外套を脱いでうたに羽織らせた。

「汚れてしまいます……」

「あなたに風邪を引かれては困ります。こちらへ」

 文彦はうたの肩を抱いたまま進む。途中で出くわした使用人にお茶の用意を頼むと、彼は自室にうたを連れ込んだ。うたをソファに座らせ、暖炉に火を焚べると、彼女の隣に腰を落ち着かせた。

「小生がいない間、なにがあったんです? ゆっくりでいいので、話してください」

「はい、実は……」

 うたは文彦の不在時に使用人にされたことをすべて話した。話しながら思い出し、泣いて言葉がつっかえたりしたが、文彦は焦らせることなく、辛抱強く話を聞いてくれた。

「うちの使用人が、本当にすいません。小生を嫌っているのは知っていましたが、まさかここまでとは……」

 文彦がため息をついたタイミングでドアがノックされる。文彦が許可を出すと、使用人はふたりの前にティーセットを置き、恭しく一礼して出ていった。

「お茶でも飲んで、少し落ち着いてください」

「はい
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    「わ、私……。なんてはしたない、声を……」「気持ちよくなれている証拠です。怖がらないで、恥ずかしがらないで。あなたは上手くお務めを果たせていますよ」「そう、なのですか……? 私、何も知らなくて……」 目にいっぱい涙を溜めて見上げると、文彦は安心したように笑いかけ、うたの横に身を横たえ、優しく抱きしめる。「こうすれば、少しは安心できるでしょう? 大丈夫ですから」 片手で肩を抱き、もう片方の手で、うたの太ももを撫でる。その手つきにいやらしさはなく、自分より高い体温に、少しずつ緊張が溶けていく。「足を開いてください。大丈夫、ここからなら、小生にも見えませんから」「は、はい……」 恥ずかしさでどうにかなりそうだが、文彦がこんなに気遣ってくれているのだから、自分だけ駄々をこねるわけにはいかない。やんわり押してくる文彦の手の動きに合わせ、ゆっくり足を開いていく。(うぅ、見られてなくても、こんな格好は……) 羞恥のあまり、文彦の胸に顔を埋めると、大きな手が頭を撫でてくれる。「上手ですよ。触りますからね」 2本の指が、花園の入口を優しく撫でる。くちゅっと小さな水音が聞こえてきて、耳までかぁっと赤くなってしまう。「濡れてる……」「い、言わないで、ください……」「大事なことですよ。あなたが感じてくれないと、子作りは上手くいきませんから」 彼の声音に、辱めてやろうという意思は微塵も感じられない。むしろ、うたへの気遣いが伺える。(この人が初めてで、よかったのかも……) うたは文彦に身を委ねながら、小さく息を吐く。 入口を撫でていた指は、そっと入口を開く。蜜が零れ、シーツを濡らす。「あぅ……」「気持ちいい場所、触りますよ」 囁かれた直後、下から上へ、雷が走ったような感覚がした。強すぎる快楽に息が詰まる。「んひぃ!? あ、あ、あぁっ! こ、こわ、い……」「おぼこには刺激が強すぎましたか、すいません」 うたが落ち着くまで、文彦は髪を撫で続けてくれた。ありがたいやら、情けないやらで、涙が込み上げてきてしまう。泣いても困らせてしまうだけなのに。「ご、ごめん、なさっ……。わた、私……!」「さっきのは、小生が悪かったんです。大丈夫ですから」 子供をあやすように、背中をさすってくれる。おかげで少し、気持ちが落ち着いた。「今日はここまでにしておきま

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    「申し訳ございません。以後気をつけます」 ふさは悔しそうな顔で、今度こそ風呂の準備をしに行った。「立ちなさい」 文彦はうたの肩を抱き、ゆっくり立たせると、和装外套を脱いでうたに羽織らせた。「汚れてしまいます……」「あなたに風邪を引かれては困ります。こちらへ」 文彦はうたの肩を抱いたまま進む。途中で出くわした使用人にお茶の用意を頼むと、彼は自室にうたを連れ込んだ。うたをソファに座らせ、暖炉に火を焚べると、彼女の隣に腰を落ち着かせた。「小生がいない間、なにがあったんです? ゆっくりでいいので、話してください」「はい、実は……」 うたは文彦の不在時に使用人にされたことをすべて話した。話しながら思い出し、泣いて言葉がつっかえたりしたが、文彦は焦らせることなく、辛抱強く話を聞いてくれた。「うちの使用人が、本当にすいません。小生を嫌っているのは知っていましたが、まさかここまでとは……」 文彦がため息をついたタイミングでドアがノックされる。文彦が許可を出すと、使用人はふたりの前にティーセットを置き、恭しく一礼して出ていった。「お茶でも飲んで、少し落ち着いてください」「はい……。あの……」「どうしました?」「どうして、帰りが早かったんですか?」「正一が、『奥さんが理不尽な目にあってる』と言っていたので、仕事をあれに押し付けて、戻ってきたんですよ。大事な客人への無礼は、許せませんからね」 客人という言葉に、胸がチクリと痛む。理由はうた自身にも分からない。「そう、ですか……。ですが、使用人達は何故、文彦さんをあんなに嫌ってるんでしょう?」 うたが疑問を口にすると、文彦は一瞬目を丸くし、力を抜くようにふっと笑った。「そうでした。あなたはそういう方でしたね」「え?」「小生の容姿を、気味悪がらないのは、あなたと正一くらいですよ」 うたには文彦を気味悪がる意味が分からなかった。確かに文彦の髪や瞳は、日本人にはない色だ。初めて見た時は驚いたが、うたは純粋に美しいと思った。本人には言えないが、長い象牙色の髪をいじってみたいと思っている。「こんなに綺麗なのに……」「人間は、自分と違うものを気持ち悪いと思う生き物なんですよ。あなたは、本当に珍しい」 どう返そうか迷っていると、ドアがノックされた。「ふさです。お風呂の準備が出来ました」「行ってきな

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