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3.裏切り

last update Petsa ng paglalathala: 2026-07-23 21:19:52

「…はぁ」

私はこの状況に、大きくため息を吐き出した。

ここは4階だ。目の前には、3人のプロの殺し屋が立ちはだかり、逃げ場はどこにもない。

「伯爵が言っていた。お前は賢い、と。流石に3人で行けば、観念するだろうともな」

暗殺者の1人が淡々とそう言い、私にゆっくりと近づく。

伯爵様はよくわかっていらっしゃる。

伊達に8年間、私を見てきたわけではないですね。

ふ、と自嘲気味に笑うと、私は観念したように両手を上げた。

そして一思いに私を刺そうと飛び込んできた暗殺者の首に、思いっきり手刀をお見舞いした。

「ぐあっ」

手刀を食らった1人が苦しそうに声を上げ、その場に倒れる。

「なっ!」

「貴様っ!」

すると先ほどまで落ち着き払っていた暗殺者たちは、一気に臨戦態勢に入った。

プロのくせにルードヴィング伯爵の言葉だけを信じて油断するからこうなるのだ。

「これで2人だね。3人だと降参したかもだけど、2人だとどうかな?」

私はニヤリと口の端をあげる。

余裕そうに見せているが、実はそうでもない。

プロの暗殺者に丸腰の私ができることなど実際、少ない。倒すことよりも、逃げることに集中した方がいい。

どうにか隙が生まれないものかと、暗殺者の様子を伺う。…が、もう彼らにはその隙がなかった。

次の手を思案している私を彼らは当然だが、待たなかった。

2人は、一斉に私に飛びかかってきたのだ。

これは一発食らって、逃げるしかなさそうだ。

彼らの方へと走り出した私の左脇腹に、1人の暗殺者が手に持っていた短剣を刺そうとする。

私はそれをわざと受け、距離の縮まった暗殺者を思いっきり蹴飛ばした。

「…っ」

暗殺者が刺した短剣を手放さなかったため、傷口から勢いよくそれが抜ける。

再び走った痛みに表情を歪めた私の目の前に、赤が舞った。

そして、ドンッ!と暗殺者は勢いよく壁に叩きつけられた。

「…ぐぅ!」

苦しそうな呻き声をあげ、また1人その場に倒れる。

ーーーあと、1人。

「もう1人になっちゃったね?」

私は最後に残った暗殺者にそう言って不敵に笑うと、暗殺者の横をすり抜け、宮殿の外へと向かって走り出した。

*****

どうせ最期に見るのなら、こんな最悪な走馬灯なんて見たくなかった。

木の影に隠れ続ける私は先ほどまでのことを思い出し、最悪な気持ちになっていた。

「…はぁ…はぁ」

呼吸がどんどん浅くなっていく。

このままでは間もなく、この心臓も止まってしまうのだろう。

ーーーもうあれを使うしかない。

私はそう決心すると、ネックレスのようにして、いつも肌身離さず持っていた小瓶に手を伸ばした。

この小瓶こそ、こうなった時のために用意していた最終手段だった。

これは帝国一の魔法使い、キースが作った〝時間を戻す魔法薬〟だ。

現代では魔法とは、古代の代物で、もう魔法自体はこの世に存在しない。

しかし、魔法を使うことのできる魔力を持った人間は、稀に生まれていた。

そんな魔力を持つ者たちのことを、現代では、魔法使いと呼び、彼ら魔法使いはその己の魔力と、古代から伝わる知識で、魔法薬というものを作り出し、私たちの生活を豊かにしてくれていた。

私はリタとして学びを深めるために、また世間からの評判を上げるために、いろいろな学会へ参加していた。

その中には魔法協会のものもあり、そこで私はキースと出会ったのだ。

彼はまだ誰も触れさえもできていない〝時間〟について研究をしていた。

そして〝時間を戻す魔法薬〟というものを作ろうとしていた。

私にとって、その魔法薬は、もしもの時の保険として、とても魅力的なものだった。

こうして私はキースの研究の支援者となった。

そうして、試作品だが、その〝時間を戻す魔法薬〟をキースから貰ったのだ。

透明な小瓶の中で、ゆらゆらと揺れる水色の液体こそが、まさにそれだった。

もうどの道死ぬのなら、最後にこれに賭けてもいいだろう。

私は最後の力を振り絞って、栓を開け、それを一気に飲み干した。

少しだけ苦い味が、口いっぱいに広がる。

この選択が、吉と出るか、凶と出るか、私にはわからない。

それでも、私は最後に賭けた。時間が戻ることに。

「…ゔっ」

突然、心臓の辺りが痛み始める。

その痛みは、次第に強いものへと変わり、やがて全身へと広がった。

先ほどまでは、刺された脇腹が1番痛かったが、今はもうどこが1番痛いのかわからない。

全身が痛い。

もう無理だ。

限界を感じ、私はついに意識を手放した。

ーーーどうか私に、次がありますように。

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