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50.迫る時間

last update publish date: 2026-09-12 10:36:00

まもなく日が沈み、夜がやってくる。

いつ本来の姿に戻るかわからない焦りから、私はさっさとここから離れたかった。

しかし、この国の皇太子様を無視するわけにもいかず、焦る気持ちをぐっと抑え、一旦立ち止まると、ロイの方へと振り向いた。

すると、こちらを不満げに見つめるロイと目が合った。

「今日1日付き合ってもらうと言ったはずだよ?まだ1日は終わっていない。どこに行こうとしているのかな?」

笑顔ではあるが、責めるようなロイの視線が突き刺さり、痛い。

だが、負ける訳にはいかない。

「…約束があるんです。そろそろ行かなければ、間に合いません」

「約束…ねぇ。それは皇太子命令よりも優先すべきものなのかな?」

「…」

ここから一刻も早く離れようと咄嗟に嘘を口にしてみるが、ロイの言葉に私は何も言えなくなってしまった。

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    私から全てを聞き終えたキースのリアクションはこうだ。「え、えぇ…。僕ってやっぱり天才だったんだぁ。さすが帝国一…いや大陸一の魔法使いだよ」ぱちぱちと何度も瞬くその瞳には、恍惚とした感情しかない。波乱万丈な私の半年を労うでも心配するでもなく、自身の魔法薬の功績を噛み締め、喜んでいる。キースらしい反応だ。「…それで私の体に一体何が起きているの?」キースの姿に呆れながらも、私はここまで来た目的である私の体についてキースに問いかけた。するとキースは緩み切った表情に力を入れ、改めて真剣な声音で難しそうに話し始めた。「…まず、僕が試験的に作った〝時間を戻す〟魔法薬は君を見ればわかるけど、まぁご覧の通り失敗に終わった。だけどこれがただの失敗ではなかったんだ。僕が作った魔法薬の本当の効能は〝体の時間を戻す〟ものだったんだよ。だから君の体も時間が戻って幼い姿になったんだ」なるほど。私の説明と現状を見ただけでここまで断言できるとは、さすが製作者本人である。やはり、少し時間がかかったとしても、ここへ来てよかった。 「…天才だ。天才だよね、僕。〝時間を戻す〟ことには失敗したけど、〝体の時間を戻す〟ことには成功したんだ。まだこの世界には、時間に関与できる魔法薬は存在しない。それを僕は作ったんだよ!」先ほどのシリアスな空気はどこへやら。キリッとしたキースの顔は、静かに喋りながらも、また興奮でらんらんと輝き始め、最後にはこちらに力強く自身の成し遂げたことを訴えかけていた。「スゴイネー」その様子に、私は思わず苦笑いを浮かべた。〝体の時間を戻す〟魔法薬など、見たことも聞いたこともない。つまりそれだけ雲の上の話だったことを、キースは形にして見せた

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  • 悪女の代役ですが、殺される前に逃げようと思います!〜皇太子と次期公爵様がなぜか離してくれません!〜   53.彼女の仮説 sideロイ

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  • 悪女の代役ですが、殺される前に逃げようと思います!〜皇太子と次期公爵様がなぜか離してくれません!〜   51.本来の姿

    「…本当に着替え中?何か隠してない?大丈夫なのかい?」困惑でいっぱいのロイの声に、私は何とか答えようとした。「だ、だい、じょう、ゴボッ!ゴボッ!」しかし、それは私の口から大量の血が飛び出たことによって叶わなかった。吐き出された血がラグだけではなく、私の服にまで散り、ここら一帯に錆びた鉄のような匂いを充満させる。「…ステラ!」ついにこの状況に痺れを切らしたのか、ロイがただならぬ様子でこの部屋の扉を開けた。「え…リタ…?」そしてロイは私の姿を見て、目を大きく見開いた。もう慣れてしまった体の感覚と視線の高さでわかる。今の私は、本来の姿に戻っているのだろう。ロイの知っている12歳のステラではなく、19歳のステラがそこにいれば、いくら彼でも驚きを隠せないはずだ。だが、ロイはそれだけではなく、何故かそんな私を〝リタ〟と呼んだ。どこをどう見れば、私をリタと見間違えてしまうのか全くわからない。私は口から垂れる血を拭いながらも、今どうすることが最善か何とか考えを巡らせた。先ほどまで保護していた子どもの部屋に血塗れの知らない大人の女がおり、その子どもの姿がない。今の状況だけ見ると、血塗れの女である私は確実に不審者…いや、保護していた子どもに危害を加えた犯人にしか思えないはずだ。説明の余地はない。今すぐ逃げなければ。逃走ルートを確認する為に、まずは扉の方へと視線を向ける。…が、そこには当然だが、こちらを見て、呆然と立ち尽くすロイがいた。扉からの逃走は不可能だ。ならば…と、次の逃走ルートを探ってみる。ここはこのホテルの最上階、4階だ。ここから地上まで飛び降りることは、自殺行為と同じだが、各部屋には立派なバルコニーがある。そこに飛び移りながら下を目指すのはどうだろうか。今の私の身体能力ならいけるはずだ。19歳の姿に戻り切ったので、もうあの苦しさもない。考えをまとめ終えた私は、元々用意していた最低限の荷物を握り締めると、ロイに背を向けてバルコニーの方へと駆け出した。「待って!リタ!」後ろから私を必死に呼び止めるロイの声が聞こえる。何故か私を先ほどからリタと呼ぶロイに、疑問を持ちながらも、私はバルコニーの扉に手をかけた。「待ってくれ…!僕はずっと君を…!」バルコニーへと飛び出た私に、まだロイが必死に何かを言っている。それでも私

  • 悪女の代役ですが、殺される前に逃げようと思います!〜皇太子と次期公爵様がなぜか離してくれません!〜   50.迫る時間

    まもなく日が沈み、夜がやってくる。いつ本来の姿に戻るかわからない焦りから、私はさっさとここから離れたかった。しかし、この国の皇太子様を無視するわけにもいかず、焦る気持ちをぐっと抑え、一旦立ち止まると、ロイの方へと振り向いた。すると、こちらを不満げに見つめるロイと目が合った。「今日1日付き合ってもらうと言ったはずだよ?まだ1日は終わっていない。どこに行こうとしているのかな?」笑顔ではあるが、責めるようなロイの視線が突き刺さり、痛い。だが、負ける訳にはいかない。「…約束があるんです。そろそろ行かなければ、間に合いません」「約束…ねぇ。それは皇太子命令よりも優先すべきものなのかな?」「…」ここから一刻も早く離れようと咄嗟に嘘を口にしてみるが、ロイの言葉に私は何も言えなくなってしまった。皇太子命令よりも優先されるべきものなど、この帝国内では皇帝命令以外に存在しない。皇帝との約束なんてもちろん嘘でも言えない。「…ステラ、僕は別に意地悪を言いたい訳じゃないんだ。ただ君にきちんと休んで欲しいだけなんだよ」黙ってしまった私に、ロイが困ったように眉を下げる。私の不満が伝わっている、そんな表情だ。「…1日とはいつまでですか」もうロイからは逃れられないと悟り、私は窺うようにロイを見た。「1日は1日だよ。明日の昼頃までかな」明日の昼頃…。つまりこのままでは、やはりロイと一晩を過ごすことになるのか。「…わかりました。ですが一つお願いがあります」「何?」「ロイ様と私の部屋を別々にしてください」「何故?」

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