เข้าสู่ระบบセスは約束通り、次の日には私に車椅子を与え、監禁していた部屋から私を出してくれた。最初こそ、セス同伴のもとでしか屋敷内を散策できなかった。だが、次第に1人でもそれが許されるようになり、今では屋敷内だけなら自由に移動することができている。「綺麗だねぇ。この花はなんていう花なの?珍しい色だけど」柔らかな昼下がり。セスに車椅子を押されながら、私は庭に咲く花々に感嘆の声をあげた。レンガの道を囲むように咲き誇る見たことのない形のいろいろな色の花。寒色系から暖色系まで様々なものがあり、普通の花とは明らかに違う特徴がある。例えばあそこの紫色の花。あの花の紫はただの紫ではない。青みや赤みを帯びる紫がグラデーションのように混じり、何故か薄くキラキラと輝いているのだ。どの花もあの紫の花のように、一概にこの色だと言い切れないような色をしており、光を纏っていた。「こちらはライトという魔法花なのですが、どの花も自ら輝く魔法薬を使用して育てられており、この屋敷にのみ生息する花なんです」「へぇ…。魔法薬の効果でキラキラしているんだね」「はい。ライトという魔法花ですが、魔法薬で改良しているので、厳密にはライトではございません。アナタの為に育てた花なので、ステラ、と名付けるのはいかがでしょう?」「ふーん。……え?」突然何でもないことのようにとんでもない提案をしてきたセスに、思わず驚きで後ろを振り向く。するとセスはお昼時の柔らかな日差しを浴びて、それはもう愛おしそうに私をまっすぐ見つめていた。とても気恥ずかしい。慣れることのできない視線だ。恥ずかしさで溶けてしまう。「…ス、ステラはやめよう。あまりにも直接的すぎるよ。花の名前にされるとか恥ずかしいし。ライトの改良版だからライト2とかは?」「…ステラ様、アナタは素晴らしい方ですが、そのネーミングセンスはあまり…。いえ、個性的といいますか、誰もがあえて選べないものを選べるといいますか…」「はっきり言って大丈夫だよ」私が適当に言った名前を明らかに言いにくそうに否定しようとするセスに私は真顔になる。わかっているよ、セス。安直な名前を言ったことくらいは。そんなに言葉を選んで話さなくてもいいから。「…ライト2はやめておきましょう。他の名前がいいかと」「はは、そうだね」困ったように眉を下げたセスに私は笑っ
だから私は考えた。ならば少しずつ私の行動範囲を広げ、セスが安心できる範囲を広げていけばいいと。最初はこの部屋から出られるようにする。それから屋敷中、庭へと自由の領域を広げ、最後にはセスの手の中から出る。そして帝国外へと逃げるのだ。セスの返事を緊張しながらも待っていると、セスはどこか難しい顔をした。「…そうですよね。ステラ様はもうずっとこの部屋から出ていませんからね…」セスが空色の瞳を伏せ、何やら思案し始める。少し前のセスならここで仄暗い笑みを浮かべ、私の意見など断固拒否の姿勢を見せていたが、少しだけでもこちらに譲歩するつもりがあるらしい。…いける。セスは私を信頼し始めている。「この屋敷の中で動きたいだけなの。誰だって同じ場所にずっといると気が滅入るでしょ?健康にもよくないはずだよ?」「…」黙ったままのセスの背中を押すように、私はセスに切実に訴えかける。今のセスが果たして私の話を聞いているのかはいまいちわからないが、そんなことはいちいち気にしない。聞こえていないのなら聞こえるまで伝えるだけだ。「セスと一緒に屋敷内を散策してみたいな。ここのことはまだこの部屋のことしか知らないから…」セスにさらに一押ししようと、うるうると瞳を潤ませ、上目遣いでセスをじっと見つめてみる。するとずっと伏せていたセスの瞳とやっと目が合い、セスは一瞬だけ固まった。だが、固まったのはほんの一瞬だけで、すぐに嬉しそうに笑った。「…一緒にこの屋敷を散策しましょう、ステラ様。アナタの為に用意していたものが実はたくさんあるんです」私をまっすぐ見つめる空色の瞳には、もうあの仄暗さはない。私はおそらくセスの安定と信頼を勝ち取ったのだ。
先ほどはセスにバレてしまったので、今度はバレないように本を読むふりをしながら、こっそりとまたセスを観察する。暖色の照明の光を受け、輝く色素の薄い白い髪がさらりと下へと落ちる。そこから覗く空を溶かしたような水色の瞳は、真剣な眼差しで書類を睨んでいた。どうすればセスは以前のように私を見てくれるのだろう。リタ代役時代には見たことのない、私に向けられるあの仄暗い瞳。あれこそが、今のセスの不安定さを物語るものだった。ここで生活していれば死ぬことはないのかもしれない。しかし、全てを管理され、世話されて生きていることが、果たして本当に生きていると言えるのだろうか。ここでの私はただセスに可愛がられている人形だ。一生人形としてここで過ごすなんてそんなの嫌だ。私は帝国外へと逃げ、自由気ままに生きるのだ。その為には、やはりセスを精神的に安定させ、安心させる必要がある。セスを刺激しない。セスの要求はなるべく飲む。そうして少しずつだが、セスを落ち着かせ、信頼を得て、最終的に味方につけるのだ。未だに仕事を続けるセスの姿に、私は密かにそう決意を固めた。その後、そんな私の視線にまたセスは気がついた。不思議そうに「どうされましたか?」といきなり聞かれた時は、心臓が止まるかと思った。何故、こちらを一切見ていないのに視線に気づくんだ。恐ろしい。*****セスの精神を安定させ、ついでに味方にし、帝国外へと安全に逃げる。その為に私はなるべくセスの要求を受け入れながらも、かつてセスと共に過ごしたリタ代役時代と変わらぬ態度で平和な日常を過ごせるように心がけた。そしてここでの生活ももう一ヶ月が過ぎようとしていた頃。「ただいま戻りました」窓の一切ない異常なこの部屋の唯一の出入り口である扉から、今晩も少しだけ疲れた様子でセスが現れた。私はそんなセスをいつものように「おかえり、セス」と笑顔で迎え入れる。もちろん、定位置であるベッドの上で。「今、夕食を作りますからね。今日は市場で新鮮な野菜を手に入れたんです。あ、あと苺も見つけたので買いましたよ」「本当?新鮮な野菜ならサラダにして食べたいな。苺はそのままでも最高だけど生クリームでも食べたいかも」「ふふ、かしこまりました。ではそのようにいたしましょう」柔らかな笑みを浮かべるセス。その瞳には、確かな光がある。こ
「ステラ様、口を開けてください」ベッドに腰掛ける私の側で、セスが柔らかな笑みを浮かべ、丁寧に私の口元にスプーンを近づける。「…」私はそんなセスに抗議の視線を送りながらも、せめてもの抵抗として口を固く閉ざしていた。…が、セスはそれでも楽しそうだった。「ふふ、そんな顔しないで?大丈夫、今日のご飯も自信作ですよ?」私の顔を愛おしげに覗くセスに、思わず心の中で深いため息をつく。セスの作るご飯の味を疑っているのではない。これは、このくらい自分で食べられる、という固い意思表示だ。しかし、こんなことは無意味だと私はわかっていた。毎日、毎食、こうだからだ。なので、今日も早々に抵抗することをやめ、不満げに口を開いた。「あぁ、お上手ですね。さぁ、あーん」「…」まるで赤子のお世話でもしているかのように、嬉しそうにセスがスプーンを私の下唇へと優しく押し当てる。私はそれを大変不本意ながらも受け入れ、ごくりとスプーンの上のスープを飲んだ。…何だこれ。セスが私を匿うという名の監禁をし始めてから、もう3日。ここでの生活には、自由などもちろんなく、両足を折られ、自力で動けない私は、ずっとこのふわふわのベッドの上だ。「美味しいですか?今日は南の離島から仕入れた海鮮でスープを作ったんです」「うん。美味しいよ、さすがセスだね」「よかった。では次はこちらをいただきましょう」「…うん」何とか笑みを作り、答えた私に、頬をほんのり紅潮させながらセスがまた私の口元へと食事を運ぶ。これを何度も何度も繰り返し、1時間もかけてやっと私は昼食を食べ終えた。**
両足に感覚がないことについては、目覚めてから今まで、ずっと違和感を覚えていた。…が、それがまさか私を守ると言った張本人の手によって折られていたからだったとは。それに心の準備とは何だ。その為に両足の骨を折るとはどういうことだ。今の状況に戸惑う私にセスは、「ご安心ください。万が一、アナタが痛みに苦しむことのないよう、足の感覚を失う魔法薬を使っております」と笑顔でご丁寧に説明する。しかし、そうではない。私はそんなことを聞きたいのではない。何故、私の両足を折る必要があったのか聞きたいのだ。どう考えてもおかしいだろう。「…私は自分の身くらい自分で守れるよ。だからセスに匿われる必要は…」「その足でどのように自分の身を守るのですか?」「足はセスが折ったんでしょう?今は無理でも足さえ治れば…」「では治るたびに折りましょう。そうすればアナタはどこへも行けませんから」私が何かを言うたびにそれをセスがバッサリと否定し、おかしなことを口走る。そして、ふふ、と嬉しそうに笑うセスのその目は全く笑っていなかった。あんなにも美しい青空のような空色の瞳が、まるで曇り空のように曇っている。狂っている。普通ではない。「大丈夫。何度も何度も折っていればアナタも理解するはずです。ここが一番安全で、アナタにとっての楽園なのだと」そんな訳ないではないか、とすぐにでも言いたかった。…が、私はその言葉を何とか飲み込んだ。今、それを言うことはセスを刺激すると思ったからだ。私の知っているセスはこんな人ではなかった。いつも冷静沈着で落ち着きのある正しい人だった。そんなセスが何故こんなにも歪み、狂ってしまったのか。訳がわからなかったが、ここで思考停止すれば終わりだ。私は必死に頭を働かせ、
上質な布にふわふわの布団とマットレス。捕らえられたにしてはやけに待遇の良すぎるベッドの上で私は目を覚ました。てっきり冷たい床の上で目覚めると思っていたので拍子抜けだ。そんな思いを抱えながらも、とりあえず状況を確認する為にゆっくりと体を起こす。そこで私は体にある違和感を覚えた。体調が悪い訳はない。酷い痛みを感じる訳でもない。むしろ体は軽く、調子もいいくらいだ。しかし、足にだけ全く感覚がないのだ。何も感じられず、動かすことさえもできない。その違和感の正体を探る為に、恐る恐る布団をめくろうとしたーーーその時。「お目覚めですか、ステラお嬢様」ある人物に声をかけられたことによって、私の手は止められた。 足元から反射的に声の主の方へと視線を向ける。するとそこには本当に嬉しそうにその空色の瞳を細めこちらを見つめるセスの姿があった。「…セス」私をここへ連れて来た張本人、セスの登場に自然と布団を握る右手に力がこもる。セスは何度も言うが、リタの専属執事だ。そしてリタの専属執事として、私を処分する為に私を捕らえた。いつ害を与えられてもおかしくはないし、足に感覚がない今、抵抗することさえも難しい。 完全に不利な状況だ。「…あぁ、そんなお顔をしないでください。俺はアナタの執事なんですよ?」表にセスを警戒する色が出ていたのだろう。セスは私に、どこか悲しそうに微笑んだ。それからゆっくりとこちらに近づいてきた。「…っ」迫るセスに、私は身構える。…上半身だけでも、やるしかない。最悪、キースからもらった魔法薬もある。セスの動きを注意深く観察し、少し







