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第二章:ルイスの嫉妬

Author: Kaya
last update Last Updated: 2025-10-15 21:36:25
朝からルイスの宮殿には賑やかな笑い声が響いていた。

部屋には急いで作られた私とルイスの肖像画が並び、明るい花柄の壁紙に、おしゃれなアンティーク調の家具などが配置されていた。

その場に立って、楽しげに笑う人物の名前は———マルコ・ルナスクーラ。

淡いアッシュブラウンの髪に、青緑の瞳。

ルイスの専属護衛騎士であり、彼の最側近。

見た目は華奢だが、相当な実力者だと聞いた。

そして私とルイスの仲が契約結婚だと知る、三人目でもある。

「あははは!お二人とも、“初夜”の演出にしては少々やり過ぎたようですね。」

紅茶を啜っていたルイスの顔が赤くなり、手がぴたりと止まった。

「マルコ。笑い過ぎじゃないか?」

私の隣に並んで座るルイスが、怒ったようにマルコを見つめた。

「そんなことはありませんよ。ねえ、アメリア嬢。」

決して嫌味な笑い方ではなく、心底楽しそう。

そんなマルコは、隣にいたアメリアをも巻き込んで返答を求めた。

「はい。私も、朝から他の使用人たちが噂をしているのを聞きました。」

笑いを堪えきれないマルコとは違い、アメリアは謙虚な姿勢だった。

「例えば、どんな?」

「昨日お二人は、それはそれは激しい初夜を迎えられたと。

ベッドを壊したり、床にワインボトルや花びらを散乱させるほど求め合ったとか。

さらには一緒にお風呂に入って、仲睦まじかったとか。」

なぜかアメリアは途中から顔を赤らめている。

「はあ。あの時、寝室にきた騎士や臣下たちの見たまんまじゃない。」

昨夜、マルコの他に控えていたのは、騎士二人とルイスを支持する侯爵。

そして初夜の正当性を証明する高位神官。

風呂に入る際の準備を手伝った、数名の使用人だ。

あの人たちが噂をそのまま広めたようね。

「あ!ちなみに俺も広めておきましたよ。

お二人が、それはそれは激しく愛し合ったみたいです、と。」

挙手までして、マルコが嬉しそうに白状した。

「お前なあ。」

「だってお二人の契約結婚のことを知られてはならないのですから、むしろこのような噂が広まった方が、幸運《ラッキー》じゃないですか?」

年齢はルイスの1歳上だと聞いているが、二人は身分の差に関係なく親しかった。

マルコとは幼い頃から共に育った。

信頼できる味方だとルイスは言っていた。

確かにマルコは原作にも登場したが、あくまでモブだったと思う。

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