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地獄での審問

Author: 吟色
last update Huling Na-update: 2025-08-17 09:30:46

審問の前日。リリムは一人でベランダに出て、夜空を見上げていた。

星が綺麗に輝いている。人間界の星は、地獄から見えるものとは全く違った。温かく、優しく、希望に満ちている。

「もうすぐお別れかもしれないのね」

小さく呟く。明日の審問で、最悪の場合は存在消去。もう二度と、この星空を見ることはできなくなるかもしれない。

「リリム?」

後ろから総一の声がした。振り返ると、彼が心配そうな顔でこちらを見ている。

「どうして起きてるの?」

「眠れなくて。明日のことを考えると……」

リリムは再び空を見上げる。

「怖いのよ。消されてしまうのが」

総一がベランダに出てきて、隣に立つ。

「大丈夫だ。俺が絶対に守る」

「でも相手は地獄よ? 人間が立ち向かえる相手じゃない」

「それでもやる」

総一の目に強い意志が宿っている。

「お前は俺の大切な人だ。そんな簡単に諦められるか」

「大切な人……」

リリムの頬が赤くなる。

「そんなこと言われると、ドキドキしちゃうじゃない」

「事実だから仕方ない」

二人は並んで夜空を見つめる。風が優しく吹き、リリムの髪を揺らしていく。

翌朝、地獄からの使者が現れた。

「リリム=アズ=ナイトメア。地獄最高審問会への出頭命令だ」

現れたのは、黒い翼を持つ男性の悪魔。階級章から見て、かなり上位の存在らしい。

「分かったわ」

リリムが立ち上がる。

いつもの制服ではなく、地獄時代の正装を着ている。黒いドレスに金の装飾。威厳がありながらも、どこか寂しげだった。

「待てよ」

総一が前に出る。

「俺も一緒に行く」

「人間が地獄に入ることは許可されていない」

使者が冷たく答える。

「でも契約者なら別だろ?」

「契約者? 君とリリムは正式な契約を結んでいない」

「じゃあ今結ぶ」

総一がリリムに向き直る。

「リリム、俺と正式に契約してくれ」

「でも……」

「お前を一人で行かせるわけにはいかない」

リリムは迷った後、小さく頷いた。

「分かった。でも、これで総一も危険に巻き込まれることになる」

「構わない」

総一がリリムの手を取る。

「俺の願いは、お前を守ること。それ以外に何もいらない」

「総一……」

二人が手を繋いだ瞬間、光の輪が現れた。正式な契約の証。

使者は驚いたような顔をする。

「……契約が成立した。ならば、契約者として同行を許可する」

「やったな」

カイが手を叩く。

「俺たちも行けないのか?」

「無理よ」

セラフィーネが首を振る。

「地獄は天使にとって最も危険な場所。私が行けば戦争になってしまう」

「じゃあ俺も……」

「カイは人間だから無理。契約者じゃないと地獄には入れないの」

ヴェルダが立ち上がる。

「私が同行しましょう」

「ヴェルダさん?」

「私は元々地獄の住人。それに、リリム様の監視官としての義務もあります」

「ありがとう」

リリムが微笑む。

「それじゃあ、行きましょうか」

使者が魔法陣を展開する。地獄への転送術式だ。

「気をつけろよ」

カイが手を振る。

「絶対に帰ってこいよ」

「ああ」

総一が頷く。

「必ず戻ってくる」

光に包まれ、三人の姿が消えた。

地獄は、想像以上に巨大な場所だった。

赤い空に黒い雲。遠くには溶岩が流れる川が見え、巨大な建造物が立ち並んでいる。

「ここが地獄か……」

総一が呟く。

「驚いたでしょう? 地獄って、案外都市的なのよ」

リリムが説明する。

「煉獄のイメージと違って、実際は巨大な官僚機構みたいなものなの」

「官僚機構?」

「そう。契約の管理、魂の回収、審問の実施……すべてシステム化されてる」

三人は使者に連れられ、巨大な建物に向かう。地獄最高審問庁だ。

建物の中は、まさに裁判所そのものだった。高い天井、厳かな装飾、そして中央には審問台がある。

「リリム=アズ=ナイトメア、前に出よ」

声が響く。審問官席には、三人の高位悪魔が座っていた。

「私はレリス=ナイン、契約監査部部長」

中央の女性悪魔が名乗る。

「右はヴェルド=イグナス、執行部部長」

筋骨隆々の男性悪魔。

「左はアスタロト=ゼロ、法務部部長」

痩身で知的な雰囲気の男性悪魔。

「今日は、お前の契約違反について審問を行う」

レリスが立ち上がる。

「まず確認するが、お前は以前、人間の男性と契約を結び、その過程で感情的になって契約を破綻させた。これは事実か?」

「……事実です」

リリムが小さく答える。

「そして、その男性は契約破綻の代償として存在を消去された。これも事実か?」

「それは……」

「答えろ」

「彼は自分で存在改変術を使ったんです。わたしを救うために」

「結果は同じことだ。お前の感情的行動が、契約者の死を招いた」

ヴェルドが重い声で言う。

「さらに、現在も人間界で契約違反を継続している。人間と親密な関係を築き、感情を露わにしている」

審問官たちの視線が総一に向く。

「それがお前の新しい契約者か?」

「はい」

「契約内容は?」

リリムは少し躊躇した後、答える。

「彼の願いは、わたしを守ること」

「守る?」

レリスが眉をひそめる。

「契約者が悪魔を守る? そんな契約は前例がない」

「でも成立しています」

「確かに契約の光は見えるが……異常だな」

三人の審問官が顔を見合わせる。

「契約者よ」

アスタロトが総一に向けて言う。

「お前の願いは本当にそれだけか? 力が欲しい、金が欲しい、そういった欲望はないのか?」

「ありません」

総一がはっきりと答える。

「俺が望むのは、リリムの幸せだけです」

「幸せ?」

「はい。彼女が笑っていられるなら、それで十分です」

審問官たちがざわめく。こんな契約は聞いたことがないらしい。

「興味深い契約だが……」

レリスが立ち上がる。

「それでも規則違反は規則違反だ。リリム=アズ=ナイトメア、お前には以下の処分を科す」

「待ってください」

総一が前に出る。

「リリムは何も悪いことをしていません」

「黙れ、人間」

ヴェルドが威圧的に言う。

「ここは地獄だ。お前に発言権はない」

「でも契約者には権利があるはずです」

「権利?」

「契約書に書いてありました。契約者は悪魔の処分に対して異議申し立てができると」

三人の審問官が再び顔を見合わせる。

「確かに、そのような条項はあるが……」

「なら聞いてください」

総一がリリムの前に立つ。

「リリムは、俺にとってかけがえのない存在です。彼女のおかげで、俺は生きる意味を見つけることができた」

「生きる意味?」

「はい。人を守ること、誰かのために戦うこと……それを教えてくれたのはリリムです」

総一の声に力がこもる。

「彼女が感情を持っていることは確かです。でも、それは悪いことじゃない。感情があるからこそ、人を救うことができる。人の痛みが分かる」

「詭弁だ」

ヴェルドが立ち上がる。

「悪魔が感情を持てば、システムが破綻する」

「破綻するかもしれません。でも、それが本当に悪いことでしょうか?」

総一が審問官たちを見回す。

「感情のない世界で、本当に幸せになれる人がいるでしょうか?」

「幸せなど、人間の妄想に過ぎない」

「違います」

総一が首を振る。

「幸せは確かにあります。俺はリリムと一緒にいて、それを実感しました」

審問官たちの表情に、わずかな変化が現れる。

「お前の言葉は興味深いが……」

レリスが呟く。

「それでも規則は規則だ」

「なら新しい規則を作ってください」

「新しい規則?」

「感情を持った悪魔も存在できる、新しいシステムを」

その時、突然審問庁の扉が開いた。現れたのは、黒いローブを纏った謎の人物。

「面白い提案だな」

声は若い男性のものだった。

「誰だ?」

審問官たちが身構える。

男はローブを脱ぎ捨て、その正体を現した。クロウだった。

「久しぶりだな、地獄の諸君」

「クロウ……お前は死んだはずでは」

「死んだ? ああ、そういうことになっているのか」

クロウが笑う。

「だが、俺は生きている。そして今、この地獄を変えるために戻ってきた」

「変える? 何をするつもりだ?」

「契約システムの完全な破壊だ」

クロウの目が赤く光る。

「もう十分だろう? 人間を騙し、希望を奪い、絶望を与える……そんなシステムはもういらない」

「貴様……」

審問官たちが立ち上がる。

「やめろ、クロウ」

総一が叫ぶ。

「そんなことをしても、何も解決しない」

「解決しないだと?」

クロウが総一を見る。

「お前もやがて分かる。その悪魔に裏切られる日が必ず来る」

「来ない」

「なぜ言い切れる?」

「リリムを信じてるからだ」

クロウは苦笑する。

「信じる、か。俺もかつてはそう思っていた」

そして、彼は手を上げた。その瞬間、審問庁全体が震動し始める。

「何をした?」

「地獄の核に干渉している」

ヴェルダが叫ぶ。

「このままでは地獄全体が崩壊する」

「それが狙いだ」

クロウの笑い声が響く。

「地獄が崩壊すれば、契約システムも消える。そうなれば、もう誰も契約で苦しむことはない」

「でも、多くの悪魔も死ぬことになる」

リリムが前に出る。

「それでもいいの?」

「犠牲は必要だ」

クロウの表情が曇る。

「俺たちが苦しんだように、他の人たちを苦しませ続けるわけにはいかない」

震動がさらに激しくなる。天井から石くずが落ち始めた。

「やめろ!」

総一がクロウに向かって駆ける。

しかし、クロウは動かない。ただ静かに、崩壊していく地獄を眺めていた。

「これで終わりだ……すべてが」

その時、リリムが叫んだ。

「みんな、手を繋いで!」

「え?」

「わたしに任せて!」

リリム、総一、ヴェルダ、そして三人の審問官まで、全員が手を繋ぐ。

「契約魔術、最大展開!」

リリムの体から巨大な魔力が放出される。それは地獄全体を包み込み、崩壊を食い止める力となった。

「そんな……」

クロウが驚愕の表情を浮かべる。

「なぜ地獄を守る? お前は処罰されようとしていたのに」

リリムが振り返る。

「ここは、わたしの生まれ故郷だから。どんなにシステムが間違っていても、住んでいる人たちに罪はない」

「住んでいる人たち……」

「悪魔だって、天使だって、人間だって、みんな生きているのよ。それを勝手に決めつけて、全部壊すなんて許さない」

リリムの魔力が、地獄の核を安定させる。崩壊は止まり、震動も収まった。

クロウは呆然と立ち尽くしている。

「俺は……何をしようとしていたんだ……」

「過ちを犯そうとしていただけよ」

リリムが優しく言う。

「でも、まだ遅くない。一緒に正しい道を探しましょう」

クロウの目に涙が浮かぶ。

「正しい道……そんなものが、本当にあるのか?」

「ある」

総一が断言する。

「俺たちが見つけてみせる」

長い沈黙の後、クロウは静かに頷いた。

「……分かった。もう少しだけ、信じてみよう」

審問官たちは、一連の出来事を呆然と見つめていた。

「リリム=アズ=ナイトメア」

レリスが口を開く。

「お前は……地獄を救った」

「当然のことをしただけです」

「当然?」

「わたしは悪魔です。でも、それ以前に一つの人格を持った存在です。自分の故郷を守るのは当たり前でしょう?」

三人の審問官が顔を見合わせる。

「……審問を中断する」

「え?」

「今回の件について、再度検討が必要だ」

レリスが立ち上がる。

「リリム=アズ=ナイトメア、お前の処分は保留とする」

「本当ですか?」

「ただし、条件がある」

「条件?」

「お前は、地獄と人間界の橋渡し役として働け。契約システムの改革に協力するのだ」

リリムの目が輝く。

「それなら、喜んで」

こうして、リリムの審問は思わぬ形で終わった。地獄は崩壊を免れ、新たな可能性が開かれた。

夕暮れの地獄で、総一はリリムに聞いた。

「なんで地獄を救ったんだ? 処罰されそうだったのに」

「故郷だからよ」

リリムが笑う。

「それに、みんながいるもの。ヴェルダさんも、他の悪魔たちも」

「優しいんだな、お前」

「優しくないわよ。ただ……」

リリムが立ち止まり、総一を見つめる。

「総一が教えてくれたのよ。大切な人を守るということを」

「俺が?」

「そう。あんたがわたしを守ろうとしてくれたから、わたしも守りたい人ができた」

二人は微笑み合う。

これからまだまだ困難が待っているだろう。でも、二人で力を合わせれば、きっと乗り越えられる。

そんな希望を胸に、彼らは人間界への帰路についた。赤い夕日が地獄の空を染める中、新しい未来への扉がゆっくりと開かれていた。

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