LOGIN宝石店を出てからミーナはカレンに案内されながら色んな店に寄り、手には買った服や旅に必要な生活必需品などが入った袋を持っている。
重くなった荷物を持っているミーナを見て微笑ましく思ったカレン。 笑いながらミーナに声をかけた。 「うふふ、いっぱい買い物できて良かったね。ミーナちゃん。」 「はい!本当にありがとうございます、カレンさん。」 「いいのよ。仕事の休みは私1人で買い物してるからあなたみたいな女の子と買い物できて楽しかったわ。」 「えへへっ。そういえばカレンさんは何の仕事してるんですか?」 「私?私は……」 「おーい、カレーン!」 カレンが答えようとした時、2人の後ろの方からカレンを呼ぶ声が聞こえてきた。 誰だろうと振り返ると手を振りながらやってくるのは男の人だった。 一瞬彼氏かなと思うミーナだが数秒後その人が誰なのか一瞬で分かった。 その人とは。 「え、エバルフさん!?」 この人はこの前までグレンを殺そうとしていた騎士団の1人のエバルフさんだった。 向こうもミーナとカレンが一緒にいる事に驚いていた。 「君は、紅の悪魔祓いと一緒にいたお嬢ちゃんじゃないか!?なぜカレンと?」 「あら、あなた達2人とも知り合いだったの?」 「ああ。この子はこの前団長に報告した悪魔祓いと一緒に旅してる子だ。…この子がいるって事はまさかこの国に紅の悪魔祓いがいるのか?」 ミーナを見てグレンの事を思い出したエバルフ。 焦っているのか額から汗が流れ落ちていた。 それに気づいたミーナはエバルフを気遣うように返した。 「大丈夫ですよ。この国に来てからグレンと私は別々に行動してるますから。」 「ホッ……そうかそうか。じゃああいつは今いないんだね?」 一瞬だけ安心したため息を吐くエバルフを見てカレンは笑いながら馬鹿にするように。 「あはははっ!何ビビってるのよ。ほんっとに情けないわねぇ。」 「うっ、うるさい!お前はあの化け物を見てないからそう言えるんだ!」 「あんたと一緒にしないで欲しいわね。どんな敵がいても私は負けずに挑むわ。あんたと違ってね!」 「何だとー!」 2人が言い争ってるとそこに割り込むようにミーナが口を出した。 「あのー。カレンさんの仕事ってもしかして…魔法騎士団の騎士ですか?」 「ええ、そうよ。ちなみに私は10騎士長でこの人(エバルフ)よりも上の位よ。」 指を差しながらエバルフを見下するカレン。本当の事を言われたエバルフは何も言い返すことが出来なかった。 「えぇー!エバルフさんよりも上の人なの!?…すごいですね。女性なのに戦う騎士ってカッコいいです!」 「確かに戦ってるよな。何度も何度も懲りずに合コンに参加しては男の取り合い合戦で敗ぼ…いだだだだ!!」 エバルフが余計なことを言ったためカレンはハイヒールの踵でグリグリとエバルフのつま先を強く踏んだ。 「あれは!…ただの…!遊びでしょ!私だって本気出せば……あっ、ごめんねミーナちゃん。こんなはしたない所見しちゃって。」 ミーナに喧嘩してるところを見られてる事にハッと気づき我にかえるカレン。 「あははっ、2人は仲が良いんですね。」 「「誰がこんな人(こんな奴)!!」」 ミーナ達3人が会った時と同じ時間に事件は起ころうとしていた。 彼女達は今この国の東地区にいるのだが事件のきっかけはこの国の西地区だった。 普段通りの街の風景の中に1人だけ不自然な行動をする男がいた。 その男の体はガクガク震えていて今にも倒れそうに歩いていた。 「あのー、大丈夫ですか?何だか具合悪そうですけど。」 「……」 通りすがりの親切な人が声をかけてもピクリとも反応しないその男。 すると急に震えるのをやめピタッとその場に立ち止まった。 「…せ…め…」 「え?」 そして数秒後、道路のど真ん中で親切な人の胴体に大きな穴が開いていた事を周りは気づく。 そして次々に発狂の声が聞こえ始め、人々は混乱状態になりながら逃げようとした。 「せ…めつ。…せんめつ………殲滅だ。」 そして男は胴体に刺した大きな爪を抜き取り付いた血を振り払った。 そう、こいつの正体は悪魔。 これがイフリーク史上最大の事件へと繋がるのだった。 突然、平和なイフリークに鳴るはずのない緊急のサイレンが鳴った。 イフリークの周りからは魔法で出来た防壁が展開され、街は避難体制に入ろうとしていた。 『国民の人たちは速やかに避難してください!そして、魔法騎士団は直ちに出動せよ!場所は西地区の商店街だ!』 このサイレンを聞いていたミーナ達。 「急にどうしたんだろう…さっきまであんなに平和だったのに!」 「確かに…!この国でサイレンが鳴る事はた滅多に無い…。カレン…いや、10騎士長!急いで西地区に行くぞ!」 「分かってるわ!…ミーナちゃんはここで待ってなさい!」 するとカレンは服のポケットからペンダントを取り出し開くと魔法で騎士団の鎧に一瞬で着替えた。 そして2人はエバルフの風で2人を包みこむと高速で移動し、ミーナは声をかける前に置いて行かれた。 「私…また何にも役に立たない…」 仕方が無いのでミーナは人が逃げていくところに紛れて走った。 すると前から来た1人の男にぶつかり後ろに倒れた。 「いたた、君大丈夫かい?」 ミーナの前にいた男の人は、二刀の長刀を腰にぶら下げ騎士団の鎧を纏っていたが黒髪で幼い顔だったのでとても騎士には見えなかった。 「ごめんなさい、僕怪我は無い!?」 完全に少年と思っているミーナ。男は少しムッとなったが急いでいたのでスルーした。 「僕?…まあいいや。とりあえず君はどこかに逃げるんだ…っとすまない。」 すると男は腕に付けてる通信機とやりとりし始めた。そして再びミーナを見ると。 「…今情報が入ったが西地区には悪魔が暴れてるそうだから早く避難しなさい。ここは騎士団に任せ…」 「悪魔…ですか?」 「え?」 するとミーナはその男の肩を握ると慌ただしく揺さぶりながら言った。 「早く行かないと!あそこには騎士団のエバルフさんとカレンさんがいるの!早く行かないと殺されてしまう!」 「…君は、2人を知ってるのか……分かった、君も一緒に来なさい。僕が連れてってやるよ。」 「え、ありがとうございます!僕は優しいね。」 「僕って言うなー!僕のことは(カイル)と呼んでくれ。」 カイルは僕と言われるのが嫌だったので本名を名乗ったがミーナは構わず。 「分かった。カイル君。」 「…もういいや、来なさい。早く12騎士長と10騎士長を助けに行くぞ!」 「はい!」 そして突然出会ったカイルとミーナは今現在悪魔がいると連絡があった西地区に向かい始めた。 この時ミーナは気づいていなかった。 今横にいるのはこの国で一番強く、そして騎士団の団長だという事を。 その頃、西地区では1人の男(悪魔)による大量殺戮が始まっていた。 悪魔に殺された人間は再び蘇るので新たな悪魔となって他の人間を殺し、悪魔は数を増やしていく。 「ひぃ……おかぁしゃん…僕だよ…僕の事忘れたの…?」 「グルルル…」 母親を殺された子供は悪魔として蘇った母親の姿に惑わされ、あっけなく殺されていく。 もちろん、人間としての感情は一切無い。 ただの食料として食い殺されるだけだった。 風の移動系魔法でやっと到着したエバルフとカレンは地獄と化した西地区の光景を目にした。 人の血によって赤く染まった町にいる人々と悪魔の姿はまるで地獄をイメージしたみたいだ。 「なんて光景だ…まるであの時を見てるみたいじゃねーか……。」 エバルフは目の前の状況と自分の住んでいた町が重なって見えた。 ーあの時の悪夢がまた襲ってくる。 「エバルフ!悪魔が襲ってくるわよ!」 カレンの声で我に返ると目の前から人間の姿をした悪魔が猛スピードで襲ってきた。 エバルフは間一髪でかわし、体制を整えると剣を抜いて構えた。 「すまん、カレン!」 「しっかりしなさい!油断して殺されたら許さないわよ!…っく!」 悪魔は鉄の棒を上から思いっきり振り下ろしたがカレンは剣で弾くと十分な距離を取った。 「なんて力なの?ちょっと弾いただけで手の痛みが…」 そして悪魔はもう一度カレンに接近し、鉄の棒を振り下ろした。 今度はカレンはそれを見切ったのか左にかわして悪魔の右腹を斬りつけた。 「ウガァァァ…ァァ…」 悪魔はもがき苦しみ、そのまま絶命した。 「さすがだな、10騎士長。」 「なめないで。…それよりも何よ、あの大群は…。」 カレンとエバルフの目の前には悪魔の集団がゾロゾロと歩いてきた。 その1番先頭には今回西地区で通りすがりの人を殺し、大量殺戮のきっかけを作った男性の悪魔だった。 「おい、10騎士長。あの先頭にいる奴、他の悪魔とは違う雰囲気だぞ。」 「そうね。いかにも強いぞってオーラが出てるわ。」 悪魔の集団を引き連れた男性の悪魔は10メートルくらい離れたところで立ち止まると後ろの悪魔の集団もそれに合わせて立ち止まった。 先頭の悪魔は服装だけ見たらどこにでも居そうな青年だが顔には黒いひび割れ線が所々に入っていた。 「これは参ったな…騎士長2人が組んでやがる。…うっとうしい、消えな。」 最後にそう付け加えると後ろにいた悪魔たちが一斉に襲いかかった。 とても2人では相手しきれない悪魔の数を剣で立ち向かうがやられるのは時間の問題だった。 あまりにも悪魔の数が多すぎたのでエバルフは魔法を使用した。 「消えろ!悪魔どもめ!」 エバルフは風を纏った剣を振ると突風の斬撃が悪魔達を次々に薙ぎ払った。 しかし、戦闘しながらの魔法は体への負担が大きいため持久戦には向いていない。 エバルフは魔法を使用したことでさっきよりも苦しそうな顔をしている。 「はぁ、はぁ、早くこいつらを殺さないと俺たちが危ない…」 すると突然エバルフの背中に激痛が走った。 「ぐっ…ヤバイ!…背中を斬られた……」 悪魔の爪がエバルフの背中を引っかき、背中からはおびただしい量の血が流れていた。 一方、カレンは少しだけ魔法で身体強化はしてるものの悪魔をスムーズに斬り倒していくがこちらも体力の限界が目に見えていた。 「なんでこんなにも多いのよ!これじゃ切りがないわ!」 「全くだ!…他の騎士長や騎士達はまだ来ないのかよ!」 エバルフは愚痴を吐きながら剣を構えている。 するとさっきから戦いに参加しないヒビ割れの悪魔が引き笑い気味で笑いながらとんでもない事を言った。 「他の騎士達なら多分来ないと思うよ。確かさっき南地区に現れた謎の悪魔をなんとかせねばとか言うてたかなー?」 南地区にも悪魔が?どうなってるんだ。 この事件はこのヒビ割れの悪魔が東地区で起こし人間を殺してるから悪魔が誕生しこの西地区で悪魔が出現するのは分かる それに悪魔が発生したこの西地区は事件が発生してから他の地区に侵入しないように閉鎖していて進入は不可能。 万が一を除いてもありえないが、その万が一があるとすれば。 「……まさか、お前以外にもう1人悪魔がいるのか?」 「アハハハ!その通りだ。俺がこの事件の元凶?馬鹿め!その時点でお前らは負け決定なんだよ!」 「そ…そんな…嘘だろ…」 今回の騎士団への命令はこの西地区にいる悪魔を駆除するのみ。 戦力はほとんど西地区にとられてるのに南地区にいきなり現れたら多くの人達の命を失うことになる。 そう考えるとエバルフは再び妹の事を考えてしまい、頭を抱えた。 「フハハハハッ!人間は馬鹿な生き物だ!わざわざ死にに来てくれるんだからな。さあ、お前ら今の内だ!その醜い人間を斬り殺せ!」 悪魔達はそう指示されるとエバルフに爪を向け、その多数の爪がエバルフめがけて伸びた。 カキィィン! もう少しで斬られそうになったエバルフの目の前でカレンは爪の攻撃をすべて剣で受け流した。 「何っ?」 カレンは攻撃の手を止めず、今度は両手に発生させた雷の魔力を3秒ほど溜めて悪魔達に目掛けて放った。 落雷の如く一直線に突き進み、悪魔達の3分の2程度が原型を留めることなく消滅していった。 「この女…なんて威力だ!」 ヒビ割れの悪魔はあまりの威力で砂ぼこりが舞い、思わず腕で顔を隠した。 「ウア"ッ!…あがっ…あぁ…ああぁ!…」 バタッ カレンはさっきの魔法が体にきたのか体を疼くませながら横向きに倒れた。 エバルフは慌ててカレンのそばにしゃがみ込んで体を揺さぶった。 「カレン!おい、大丈夫か!?…なんであの魔法を…あれは体への負担が大きすぎて使うなって団長に言われただろ!?」 するとカレンの口元からかすれるくらいの小さな声が聞こえた。 「…悔しい…」 「えっ?」 「悔しい…悔しいよ、エバルフ…。この国を愛する人たちがどうして人を殺しているの?しかもそれを守れない私たち騎士団はもっと悔しいよ!」 カレンの目からは涙が流れていた。 周りをよく見ると人々は悪魔に襲われ、逃げ惑っていた。 襲ってる悪魔のほとんどが元々この国の市民。 だったがこいつらのせいで殆どの人が悪魔化し、普段なら自分の子供、仲の良い友人、恋人だったはずの人たちを容赦なく殺していく。 こんな地獄、もう体験したくない! 変えなければ…これ以上、悲劇を生んではならない! 「10騎士長…いや、カレン。あとは俺に任せろ。こんな地獄、さっさと終わらせてやる。」 エバルフはカレンの体を持ち上げ、戦いに巻き込まれないよう隅っこに寝かせた。 「さあ、覚悟しろ害虫(悪魔)ども!今から纏めて駆除してやる!」 それを聞いたヒビ割れの悪魔は眉を吊り上げながら。 「ハァ?何言ってんだよ、お前。駆除されんのはお前ら人間の方だよ!」 それと同時に悪魔たちは一斉にエバルフを襲った。 ビュッ! 一瞬の風が悪魔の集団の間を吹き抜ける。 エバルフの周りから輝かしい風が竜巻の様に発生していた。 「吹き抜けろ、逆境をも覆す神の風ー」 そう唱えた直後、悪魔の体から徐々に斬り傷が入りそして一気に上半身が吹き飛んだ。 それは全ての悪魔だけに同じ反応が起こり、それ以外の人間は何ともなかった。 「なっ!?…ば、バカな!」 ヒビ割れの男はどういう訳かその攻撃をかわしていたので助かっていたがそれ以外の悪魔がやられたのを見て驚きを隠せなかった。 「次はお前の番だ。」 「くそ!人間如きが呪文を唱えやがって!」 「人間如き?…1つ教えてやろうか、悪魔野郎。」 「何だ!」 「俺はお前らと違って、大切な誰かを護る時にとてつもない力を発揮する。そして…この大切な国を潰そうとするお前は俺の敵だ!消えろ!!」 エバルフは風魔法で一気に詰め寄ると、剣を下から斜め上に斬りつけ、ヒビ割れの悪魔から大量の血が吹き出て、その場に倒れた。 エバルフは息を切らしながら隅っこに置いたカレンのそばに行った。 寝てるカレンにエバルフは笑顔でこう言った。 「はぁ、はぁ、カレン…護ってやったぞ…あとは、団長に任せよう。」 そしてエバルフもその場に倒れこんだ。ウィリディスが使用する魔法属性は空間。空間属性の神級魔法、[デリート・コネクト]。指定した部分に「シフト」と唱えると四角い透明の立方体が現れ囲う事が出来る上に、必要に応じてその立方体を広げる事が出来る。立方体の範囲を自在に広げて囲み、「デリート」と唱えればその指定された範囲を跡形も無く消す事が出来る。例えるならパソコン画面上の矢印カーソルを目的の場所に合わせて範囲指定し、一気にdeleteキーを押すイメージだ。この「シフト」による範囲指定と「デリート」による削除能力を、ウィリディスは現実世界の空間に存在する物質、生物、そしてあらゆる環境を対象に使用する事が出来る。ウィリディスが最初に竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)の木々を一瞬で消し去ったのもこの力のお陰であった。そして。「シフト」「コネクト」ウィリディスは両手を上空に挙げると巨大な立方体を展開し、「コネクト」と唱えた。その範囲は竜の遺跡を全て覆える程。しかもその上空に展開された立方体の中には最初に消し去った森の木がギッシリと敷き詰められている。そう。この木は「デリート」によって消された森の木の残骸であった。「コネクト」とは接続という意味。ウィリディスは「デリート」で消した範囲の木を「コネクト」する事で上空の立方体内に配置したのだ。そう。[デリート・コネクト]は空間を透過的に選んで削除し接続できる魔法。「シフト」で範囲指定した空間を支配する事が可能。そして上空の立方体の底がパカッと扉の様に開かれる。開き始めた隙間から木がどんどん竜の遺跡がある地上に向かって落ちていく。1本1本が大きく質量のある木。落ちる度に地面の砂埃が舞った。まるで雨の様…いや、そんな生優しいものでは無い。逃げ場を与えない広範囲を覆い尽くした木々による酷(むご)い圧殺方法。そして一度に落ちてきた大量の森の木によって竜の遺跡は飲み込まれてしまった。一方、ウィリディスは空間移動で上空に転移しており、木に押し潰され跡形も無く消え去った竜の遺跡の惨状を見下ろして見ていた。「…やっぱり、こんな程度でグレンは死ぬ訳ないか。」見下ろしながらそう言うウィリディス。どうやらグレンが攻撃を回避してる事に気付いている様だ。「出てきなよ。…決着を付けよう。」「紅の悪魔祓い、グレン。」ウィリディスの言葉と共にグレ
「うわぁぁぁぁぁ!!!ガルムが!…ガルムがあぁ!!!」ティアは胴体が分かれ絶命したガルムの上半身を抱きしめながら叫んだ。靴に血が滲むほど急いで走りドグマ達を呼びに行ったティアは決して遅くなかった。しかし、間に合わなかった。「誰が…こんな事を。俺達竜の民をこんな…こんな…。」ドグマは目の前の惨状を受け入れられずにいた。つい竜の試練洞に行く半日前までは普通の平和な生活を送っていた。昨日は龍神の祭日で民の皆んなが共に飲み食いしながら楽しんだ。ティアとガルムはもうすぐしたら祝言を挙げる予定だった。ーー皆んな今日を生き、明日を楽しみに過ごしていた筈なのに。修行が長引かずここに俺達が居ればこんな事には…。「チクショウ……チクショウ!」ドグマの目からはこの場に居なかった自分に対する悔しさの涙を流していた。「……」グレンは2人と違い、この現状をただ茫然と見ていた。それは彼が他人を想う気持ちが無いからでは無い。ここでの生活を思い出していたからだ。不便な生活であったが、他所者のグレンに優しくしてくれた民達。ドグマが言っていた。ここに住む民達は生活の為にそれぞれ役割を全うしながら助け合って生きていた。それぞれが良い人生、良い流れを築く為に。そんな人達が居るここの生活をグレンは好きになりかけていた。一瞬思っただけであるが、故郷の様な平和なこの竜の遺跡にこれからも住みたい。そう少しだけ思えた。それを、こんな…こんな酷い形で終わらされた。まるであの時のキュアリーハートと同じだ。何の脈絡も無く平和な日々を終わらされた。「…許せねえ。」ポツリと小さく、そして力強い声でグレンは呟いた。ーー竜の民達をこんな風にした奴を、絶対に許さねえ!激しく怒るグレンは心の中でそう叫んだ。「あれ?まだ生き残りが居たんだ。」グレン達が向いてる方向とは反対方面から声が聞こえた。グレンとドグマはその声に反応し、振り返った。漆黒のローブを身に纏った緑髪の男と後方には黒い皮膚をした悪魔が20数体、そして他と比べて身長が低い奴が1人居た。すると漆黒のローブを纏った男がグレンの方を不思議そうに見ていた。「赤い髪…その魔力。…もしかして、グレン?」「何で俺の名前を知ってるんだ?」初対面と思っているグレンは突然面識の無い相手に名前を呼ばれた事に驚いていた。グレ
次の日の明朝4時半。この日もグレンとドグマはいつも通り川で魚を獲りに行った。「(もう慣れてしまったな。)」昨日と同じ様に手掴みで流れる様に魚を獲っていく。そして獲った魚を竜の遺跡へと運び、家に戻ってから朝食を食べた。「今日は龍脈樹には行かん。」グレンは朝食を食べた後、ドグマにそう言われ家を出た。この日、グレンはドグマに連れて来られたのは竜の遺跡から更に奥にある祠(ほこら)だった。その祠の入り口前には巨大な竜の像が建てられており、ドクマはその入り口の前に立ち止まった。「何だ、ここは?」グレンは立ち止まったドグマに質問する。「ここは[竜の試練洞(しれんどう)]。竜の民が龍技を極める為に用意された修行の場だ。竜の試練洞。この祠は竜の遺跡で祀られている龍神が、かつて龍技を極めたいと願う者の為に用意した神聖な修行場。数世代にわたり、伝承されてきた場所である。入り口は森の中にひっそりと隠されてあり、入り口から流れる空気が重い。龍脈樹(りゅうみゃくじゅ)の様に祠の中からまるで生き物の様に魔力が渦巻いているのを感じられた。「ここは龍技を極める為に用意された修行場。グレン、昨日説明した竜挐(りゅうだ)を覚えているな?」「ああ。3つの龍技を同時に使う事で起こる龍技の真髄の最終奥義。昨日、あんたが言ってたよな。」「そうだ。[心眼点睛]、[技之乖離]、[戮力体竜変]。この3つを極めた竜の民が使える奥義だ。この竜の試練洞では竜挐を極める為の修行を行う。」そしてドグマは竜の試練洞へと近づいていき、中へと入っていく。入った瞬間、空気が身体に張り付き乗し掛かる感覚がした。心眼点睛を習得してるグレンには周囲に充満している魔力の流れを目で見る事が出来る。試練洞の中に充満している魔力は、上からグレンに圧を掛ける様な流れ方をしている。まるでこの祠がグレンを試しているかの様だった。「生きてるみたいだろ?だが、試されるのはここからだ。」「ふん、だろうな。これくらいは試練の内には入らねえだろ。」「当たり前だ。こんな事で怖気つく様な奴をここに連れては来ない。」ドグマの発言から、この祠は修行場所であると同時に危険な場所なのだと感じた。その理由をグレンはまだ知らないが、すぐ分かる事になる。昨日までの修行が天国の様だったと。「…よし、もう着くぞ。」前を歩く
「いいか、ヒスイ。お前は竜の民の先導者である俺の後継者だ。これから民達を導いていかなければならない。」「………はい。」これは過去のドグマとヒスイのやり取りだ。ドグマは今の様な髭は無く、30代前半くらいの若々しい姿をしていた。そしてもう1人。娘であるヒスイ。彼女はドグマの言われた事を俯きながら元気のない声で返事をした。「竜の民は大昔の北と東の戦争に巻き込まれ、沢山の民達が命を落とした。このままでは竜の民は滅びてしまう。」「何としてでも、それだけは阻止しなければならない。」そう。竜の民が何故この様な少数民族なのか。それは戦争の被害に遭ったからである。丁度北と東の中間地点にある竜の遺跡は戦場に近く、軍事開発された魔法兵器の巻き添えによって多くの民が命を失った。元々少数であったが、それでも300人は居た竜の民も、年々子供の出生率も減少し今では50人にも満たない程だ。このままでは竜の民は絶えてしまう。ドグマはその焦りを感じていた。ヒスイを立派な先導者に育てあげ、竜の民達をこれからも繁栄させなければ。ドグマはその為、娘をより厳しく育てた。「何度言えば分かる!女だからと言って容赦はしない!」ドグマはまだ10歳前後のヒスイと龍技を使った組み手を行い、ボロボロになってうつ伏せに倒れている彼女を叱責する。またある日は同年代の人と遊ぼうとした時に。「……そうか。お前は先導者の道よりも友達と遊ぶ方が大事だと言うのだな。分かった。もういい…お前には失望した。」勿論本当に失望なんてしていない。ヒスイには先導者としての意志を早くから継いで欲しい。その想いから、時には厳しく突き放す様な言い方をした。自分の思い描く道をヒスイも歩めば、きっと竜の民達はこれからも耐える事なく安泰だ。ーー俺の代で絶えさせたくない!ドグマはこの様にヒスイのやる事1つ1つに口を出していた。しかし、ヒスイが19歳の時だった。突如書き置きだけ残し、娘は家を出てしまった。お父さんへ。私は彼と一緒に外の世界へ行きます。お父さんの理想の娘になれなくてごめんなさい。私は、今まで先導者になりたいと思った事は一度もありませんでした。ずっと黙っててごめんなさい。 ヒスイよりそれを見たドグマはようやく気が付いた。竜の民のこれからの未来を見ていたが、1番
ドグマに言われた通り朝の4時半に起きたグレンは、龍技の真髄の修行をする為にドグマの後ろに付いて歩いていた。早朝に起こされたにも関わらずグレンは眠そうな素振り1つ見せなかった。「初日で眠くはないのか?」「ああ。普段からあまり睡眠を取らない方だ。昨日はゆっくり出来た。」グレンは旅をしてる時もそうであるが、いつ自分の身に危険が起きても対処出来る様に熟睡は基本的にしない。その為、グレンにとっては明朝4時半と早い時間に起こされても睡眠時間的には十分であった。「…そうか。この程度なら生意気な口も普通に叩けるのか。よかろう、遠慮はいらんという事だな。」ドグマは余裕そうなグレンに対し、そう脅しをかける。「(そういえば、昔アガレフに修行を付けてもらう時も同じ様な事を言われたな。)」……思い出すだけでゾッとし、血の気が引いていくのが分かる。あの時は毎日失神するまでボコボコにされていたなぁ。アガレフの修行は本当にキツかった。「よし、着いたぞ。」真っ暗だった為、到着するまでどこを歩いているのか分からなかったが数十分後、ドグマが連れてきた場所は竜の遺跡にある川の上流の方だった。「川で修行するのか?」「そうだな。修行と言えば修行かな。足の裾を捲(まく)れ。今から川で魚を捕まえる。」そしてドグマはズボンの裾を膝上まで捲り上げると片足ずつ川に入っていく。そして川の真ん中辺りまで行くと水面の上で手掴みする様な構えをした。…バシャッ!素早く水面に手を突っ込み一瞬で掬(すく)い上げる。手のひらからはみ出そうな大きさの魚がドグマの手に捉えられ、捉えた魚を竹と藁で編んだ肩掛けの魚籠に入れる。そして再び魚を捕まえる構えに戻った。「…何してる?お前もやらんか。」「あ、ああ。」グレンもドグマと同じ様にズボンを膝上まで捲り上げて川に入ろうと右足を水につける。「うっ!……」あまりの冷たさに声が出てしまうグレン。朝方の気温の低い山奥の川の水。冷たくない訳が無い。「冷たいだろ?因みに魔法は一切使うなよ。修行にならんからな。」「…いや、魔法使わないと見えねえよ。」只でさえ冷た過ぎる水に慣れない中、真っ暗な時間帯で水中の魚が見えない。しかも道具は一切使わず難易度の高い手掴み漁。目を凝らして水面を見るが当然見える訳が無い。グレンは困惑してる中、隣でドグマは流れ
時は遡る事3日前。この日はカイル、エミル、ミーナが東の大国に到着したばかりの日であった。しかし、ここは北の大国と東の大国よりも更に北東部の奥にある場所。そこは一般の人が立ち入ると必ず道に迷うとされる竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)]と呼ばれる森林があった。その森林の中にある地面は深い裂け目や溝が幾筋も走り、獣道や細い道がそれに沿って複雑に分岐している。道はまるで生き物のように折れ曲がり、進んだはずの者を同じ場所へ戻し、方角の感覚を狂わせる。異常な磁場がコンパスの指針も狂わせる為、人の五感や魔力の流れを読めない人が立ち入れば一瞬で迷路へと変わる場所。この森林の中に1人の男が歩いていた。彼の名前は紅の悪魔祓い(デビルブレイカー)グレン。彼はレミールでミーナ達と合流したのだが、そこの国民に国を守る様に提案される。しかし、それを拒否したグレンは国民に危害を加えられた挙句、抵抗すると悪魔と言われて非難された。そしてグレンは自分のせいでミーナに危害が加わると考え、自ら1人になる道を選んだのだ。では何故彼が今この森林に居るのか?(おい、いい加減にしろ!いつまで歩き続けるつもりだ?もうかれこれ3日は歩いてるぞ?)グレンの中に居る悪魔、リフェル。本名強欲のマモンが話し掛ける。グレンはこの竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)に立ち入ってからかれこれ3日は経っていたのだ。「……この森、まるで生きてるみたいに場所が変化してる。ずっと同じところをグルグル回らされているみたいだ。」木々に囲まれて複雑に分岐した細い道を辿っていくも、いつの間にか元来た道に戻っている。更に元来た道をよく確認すると木々の形や生え方、地面の裂け目の形が少し違っていた。(何回この道来るんだよ!もう100回くらいこの光景見てるぞ!)「……いや、違う。よく見てみろ。この地面と木の並び方。少し違って見えないか?」(は?そんなもん覚えてる訳ないだろ!)「最初来た時はこの地面の裂け目は3本だった。だが今は2本。木も1本1本捻れてたのが真っ直ぐになってる。」(…長い事同じ光景を見て疲れてんのか?…いや、待てよ…グレン、何が言いたい?)何かに気付いたリフェルはグレンの考えを聞く事にした。「多分だが俺達が前に進めば進む程、木や道の形が変化して最初来た時と同じ光景を見せられる。けど、地面







