LOGIN宝石店を出てからミーナはカレンに案内されながら色んな店に寄り、手には買った服や旅に必要な生活必需品などが入った袋を持っている。
重くなった荷物を持っているミーナを見て微笑ましく思ったカレン。 笑いながらミーナに声をかけた。 「うふふ、いっぱい買い物できて良かったね。ミーナちゃん。」 「はい!本当にありがとうございます、カレンさん。」 「いいのよ。仕事の休みは私1人で買い物してるからあなたみたいな女の子と買い物できて楽しかったわ。」 「えへへっ。そういえばカレンさんは何の仕事してるんですか?」 「私?私は……」 「おーい、カレーン!」 カレンが答えようとした時、2人の後ろの方からカレンを呼ぶ声が聞こえてきた。 誰だろうと振り返ると手を振りながらやってくるのは男の人だった。 一瞬彼氏かなと思うミーナだが数秒後その人が誰なのか一瞬で分かった。 その人とは。 「え、エバルフさん!?」 この人はこの前までグレンを殺そうとしていた騎士団の1人のエバルフさんだった。 向こうもミーナとカレンが一緒にいる事に驚いていた。 「君は、紅の悪魔祓いと一緒にいたお嬢ちゃんじゃないか!?なぜカレンと?」 「あら、あなた達2人とも知り合いだったの?」 「ああ。この子はこの前団長に報告した悪魔祓いと一緒に旅してる子だ。…この子がいるって事はまさかこの国に紅の悪魔祓いがいるのか?」 ミーナを見てグレンの事を思い出したエバルフ。 焦っているのか額から汗が流れ落ちていた。 それに気づいたミーナはエバルフを気遣うように返した。 「大丈夫ですよ。この国に来てからグレンと私は別々に行動してるますから。」 「ホッ……そうかそうか。じゃああいつは今いないんだね?」 一瞬だけ安心したため息を吐くエバルフを見てカレンは笑いながら馬鹿にするように。 「あはははっ!何ビビってるのよ。ほんっとに情けないわねぇ。」 「うっ、うるさい!お前はあの化け物を見てないからそう言えるんだ!」 「あんたと一緒にしないで欲しいわね。どんな敵がいても私は負けずに挑むわ。あんたと違ってね!」 「何だとー!」 2人が言い争ってるとそこに割り込むようにミーナが口を出した。 「あのー。カレンさんの仕事ってもしかして…魔法騎士団の騎士ですか?」 「ええ、そうよ。ちなみに私は10騎士長でこの人(エバルフ)よりも上の位よ。」 指を差しながらエバルフを見下するカレン。本当の事を言われたエバルフは何も言い返すことが出来なかった。 「えぇー!エバルフさんよりも上の人なの!?…すごいですね。女性なのに戦う騎士ってカッコいいです!」 「確かに戦ってるよな。何度も何度も懲りずに合コンに参加しては男の取り合い合戦で敗ぼ…いだだだだ!!」 エバルフが余計なことを言ったためカレンはハイヒールの踵でグリグリとエバルフのつま先を強く踏んだ。 「あれは!…ただの…!遊びでしょ!私だって本気出せば……あっ、ごめんねミーナちゃん。こんなはしたない所見しちゃって。」 ミーナに喧嘩してるところを見られてる事にハッと気づき我にかえるカレン。 「あははっ、2人は仲が良いんですね。」 「「誰がこんな人(こんな奴)!!」」 ミーナ達3人が会った時と同じ時間に事件は起ころうとしていた。 彼女達は今この国の東地区にいるのだが事件のきっかけはこの国の西地区だった。 普段通りの街の風景の中に1人だけ不自然な行動をする男がいた。 その男の体はガクガク震えていて今にも倒れそうに歩いていた。 「あのー、大丈夫ですか?何だか具合悪そうですけど。」 「……」 通りすがりの親切な人が声をかけてもピクリとも反応しないその男。 すると急に震えるのをやめピタッとその場に立ち止まった。 「…せ…め…」 「え?」 そして数秒後、道路のど真ん中で親切な人の胴体に大きな穴が開いていた事を周りは気づく。 そして次々に発狂の声が聞こえ始め、人々は混乱状態になりながら逃げようとした。 「せ…めつ。…せんめつ………殲滅だ。」 そして男は胴体に刺した大きな爪を抜き取り付いた血を振り払った。 そう、こいつの正体は悪魔。 これがイフリーク史上最大の事件へと繋がるのだった。 突然、平和なイフリークに鳴るはずのない緊急のサイレンが鳴った。 イフリークの周りからは魔法で出来た防壁が展開され、街は避難体制に入ろうとしていた。 『国民の人たちは速やかに避難してください!そして、魔法騎士団は直ちに出動せよ!場所は西地区の商店街だ!』 このサイレンを聞いていたミーナ達。 「急にどうしたんだろう…さっきまであんなに平和だったのに!」 「確かに…!この国でサイレンが鳴る事はた滅多に無い…。カレン…いや、10騎士長!急いで西地区に行くぞ!」 「分かってるわ!…ミーナちゃんはここで待ってなさい!」 するとカレンは服のポケットからペンダントを取り出し開くと魔法で騎士団の鎧に一瞬で着替えた。 そして2人はエバルフの風で2人を包みこむと高速で移動し、ミーナは声をかける前に置いて行かれた。 「私…また何にも役に立たない…」 仕方が無いのでミーナは人が逃げていくところに紛れて走った。 すると前から来た1人の男にぶつかり後ろに倒れた。 「いたた、君大丈夫かい?」 ミーナの前にいた男の人は、二刀の長刀を腰にぶら下げ騎士団の鎧を纏っていたが黒髪で幼い顔だったのでとても騎士には見えなかった。 「ごめんなさい、僕怪我は無い!?」 完全に少年と思っているミーナ。男は少しムッとなったが急いでいたのでスルーした。 「僕?…まあいいや。とりあえず君はどこかに逃げるんだ…っとすまない。」 すると男は腕に付けてる通信機とやりとりし始めた。そして再びミーナを見ると。 「…今情報が入ったが西地区には悪魔が暴れてるそうだから早く避難しなさい。ここは騎士団に任せ…」 「悪魔…ですか?」 「え?」 するとミーナはその男の肩を握ると慌ただしく揺さぶりながら言った。 「早く行かないと!あそこには騎士団のエバルフさんとカレンさんがいるの!早く行かないと殺されてしまう!」 「…君は、2人を知ってるのか……分かった、君も一緒に来なさい。僕が連れてってやるよ。」 「え、ありがとうございます!僕は優しいね。」 「僕って言うなー!僕のことは(カイル)と呼んでくれ。」 カイルは僕と言われるのが嫌だったので本名を名乗ったがミーナは構わず。 「分かった。カイル君。」 「…もういいや、来なさい。早く12騎士長と10騎士長を助けに行くぞ!」 「はい!」 そして突然出会ったカイルとミーナは今現在悪魔がいると連絡があった西地区に向かい始めた。 この時ミーナは気づいていなかった。 今横にいるのはこの国で一番強く、そして騎士団の団長だという事を。 その頃、西地区では1人の男(悪魔)による大量殺戮が始まっていた。 悪魔に殺された人間は再び蘇るので新たな悪魔となって他の人間を殺し、悪魔は数を増やしていく。 「ひぃ……おかぁしゃん…僕だよ…僕の事忘れたの…?」 「グルルル…」 母親を殺された子供は悪魔として蘇った母親の姿に惑わされ、あっけなく殺されていく。 もちろん、人間としての感情は一切無い。 ただの食料として食い殺されるだけだった。 風の移動系魔法でやっと到着したエバルフとカレンは地獄と化した西地区の光景を目にした。 人の血によって赤く染まった町にいる人々と悪魔の姿はまるで地獄をイメージしたみたいだ。 「なんて光景だ…まるであの時を見てるみたいじゃねーか……。」 エバルフは目の前の状況と自分の住んでいた町が重なって見えた。 ーあの時の悪夢がまた襲ってくる。 「エバルフ!悪魔が襲ってくるわよ!」 カレンの声で我に返ると目の前から人間の姿をした悪魔が猛スピードで襲ってきた。 エバルフは間一髪でかわし、体制を整えると剣を抜いて構えた。 「すまん、カレン!」 「しっかりしなさい!油断して殺されたら許さないわよ!…っく!」 悪魔は鉄の棒を上から思いっきり振り下ろしたがカレンは剣で弾くと十分な距離を取った。 「なんて力なの?ちょっと弾いただけで手の痛みが…」 そして悪魔はもう一度カレンに接近し、鉄の棒を振り下ろした。 今度はカレンはそれを見切ったのか左にかわして悪魔の右腹を斬りつけた。 「ウガァァァ…ァァ…」 悪魔はもがき苦しみ、そのまま絶命した。 「さすがだな、10騎士長。」 「なめないで。…それよりも何よ、あの大群は…。」 カレンとエバルフの目の前には悪魔の集団がゾロゾロと歩いてきた。 その1番先頭には今回西地区で通りすがりの人を殺し、大量殺戮のきっかけを作った男性の悪魔だった。 「おい、10騎士長。あの先頭にいる奴、他の悪魔とは違う雰囲気だぞ。」 「そうね。いかにも強いぞってオーラが出てるわ。」 悪魔の集団を引き連れた男性の悪魔は10メートルくらい離れたところで立ち止まると後ろの悪魔の集団もそれに合わせて立ち止まった。 先頭の悪魔は服装だけ見たらどこにでも居そうな青年だが顔には黒いひび割れ線が所々に入っていた。 「これは参ったな…騎士長2人が組んでやがる。…うっとうしい、消えな。」 最後にそう付け加えると後ろにいた悪魔たちが一斉に襲いかかった。 とても2人では相手しきれない悪魔の数を剣で立ち向かうがやられるのは時間の問題だった。 あまりにも悪魔の数が多すぎたのでエバルフは魔法を使用した。 「消えろ!悪魔どもめ!」 エバルフは風を纏った剣を振ると突風の斬撃が悪魔達を次々に薙ぎ払った。 しかし、戦闘しながらの魔法は体への負担が大きいため持久戦には向いていない。 エバルフは魔法を使用したことでさっきよりも苦しそうな顔をしている。 「はぁ、はぁ、早くこいつらを殺さないと俺たちが危ない…」 すると突然エバルフの背中に激痛が走った。 「ぐっ…ヤバイ!…背中を斬られた……」 悪魔の爪がエバルフの背中を引っかき、背中からはおびただしい量の血が流れていた。 一方、カレンは少しだけ魔法で身体強化はしてるものの悪魔をスムーズに斬り倒していくがこちらも体力の限界が目に見えていた。 「なんでこんなにも多いのよ!これじゃ切りがないわ!」 「全くだ!…他の騎士長や騎士達はまだ来ないのかよ!」 エバルフは愚痴を吐きながら剣を構えている。 するとさっきから戦いに参加しないヒビ割れの悪魔が引き笑い気味で笑いながらとんでもない事を言った。 「他の騎士達なら多分来ないと思うよ。確かさっき南地区に現れた謎の悪魔をなんとかせねばとか言うてたかなー?」 南地区にも悪魔が?どうなってるんだ。 この事件はこのヒビ割れの悪魔が東地区で起こし人間を殺してるから悪魔が誕生しこの西地区で悪魔が出現するのは分かる それに悪魔が発生したこの西地区は事件が発生してから他の地区に侵入しないように閉鎖していて進入は不可能。 万が一を除いてもありえないが、その万が一があるとすれば。 「……まさか、お前以外にもう1人悪魔がいるのか?」 「アハハハ!その通りだ。俺がこの事件の元凶?馬鹿め!その時点でお前らは負け決定なんだよ!」 「そ…そんな…嘘だろ…」 今回の騎士団への命令はこの西地区にいる悪魔を駆除するのみ。 戦力はほとんど西地区にとられてるのに南地区にいきなり現れたら多くの人達の命を失うことになる。 そう考えるとエバルフは再び妹の事を考えてしまい、頭を抱えた。 「フハハハハッ!人間は馬鹿な生き物だ!わざわざ死にに来てくれるんだからな。さあ、お前ら今の内だ!その醜い人間を斬り殺せ!」 悪魔達はそう指示されるとエバルフに爪を向け、その多数の爪がエバルフめがけて伸びた。 カキィィン! もう少しで斬られそうになったエバルフの目の前でカレンは爪の攻撃をすべて剣で受け流した。 「何っ?」 カレンは攻撃の手を止めず、今度は両手に発生させた雷の魔力を3秒ほど溜めて悪魔達に目掛けて放った。 落雷の如く一直線に突き進み、悪魔達の3分の2程度が原型を留めることなく消滅していった。 「この女…なんて威力だ!」 ヒビ割れの悪魔はあまりの威力で砂ぼこりが舞い、思わず腕で顔を隠した。 「ウア"ッ!…あがっ…あぁ…ああぁ!…」 バタッ カレンはさっきの魔法が体にきたのか体を疼くませながら横向きに倒れた。 エバルフは慌ててカレンのそばにしゃがみ込んで体を揺さぶった。 「カレン!おい、大丈夫か!?…なんであの魔法を…あれは体への負担が大きすぎて使うなって団長に言われただろ!?」 するとカレンの口元からかすれるくらいの小さな声が聞こえた。 「…悔しい…」 「えっ?」 「悔しい…悔しいよ、エバルフ…。この国を愛する人たちがどうして人を殺しているの?しかもそれを守れない私たち騎士団はもっと悔しいよ!」 カレンの目からは涙が流れていた。 周りをよく見ると人々は悪魔に襲われ、逃げ惑っていた。 襲ってる悪魔のほとんどが元々この国の市民。 だったがこいつらのせいで殆どの人が悪魔化し、普段なら自分の子供、仲の良い友人、恋人だったはずの人たちを容赦なく殺していく。 こんな地獄、もう体験したくない! 変えなければ…これ以上、悲劇を生んではならない! 「10騎士長…いや、カレン。あとは俺に任せろ。こんな地獄、さっさと終わらせてやる。」 エバルフはカレンの体を持ち上げ、戦いに巻き込まれないよう隅っこに寝かせた。 「さあ、覚悟しろ害虫(悪魔)ども!今から纏めて駆除してやる!」 それを聞いたヒビ割れの悪魔は眉を吊り上げながら。 「ハァ?何言ってんだよ、お前。駆除されんのはお前ら人間の方だよ!」 それと同時に悪魔たちは一斉にエバルフを襲った。 ビュッ! 一瞬の風が悪魔の集団の間を吹き抜ける。 エバルフの周りから輝かしい風が竜巻の様に発生していた。 「吹き抜けろ、逆境をも覆す神の風ー」 そう唱えた直後、悪魔の体から徐々に斬り傷が入りそして一気に上半身が吹き飛んだ。 それは全ての悪魔だけに同じ反応が起こり、それ以外の人間は何ともなかった。 「なっ!?…ば、バカな!」 ヒビ割れの男はどういう訳かその攻撃をかわしていたので助かっていたがそれ以外の悪魔がやられたのを見て驚きを隠せなかった。 「次はお前の番だ。」 「くそ!人間如きが呪文を唱えやがって!」 「人間如き?…1つ教えてやろうか、悪魔野郎。」 「何だ!」 「俺はお前らと違って、大切な誰かを護る時にとてつもない力を発揮する。そして…この大切な国を潰そうとするお前は俺の敵だ!消えろ!!」 エバルフは風魔法で一気に詰め寄ると、剣を下から斜め上に斬りつけ、ヒビ割れの悪魔から大量の血が吹き出て、その場に倒れた。 エバルフは息を切らしながら隅っこに置いたカレンのそばに行った。 寝てるカレンにエバルフは笑顔でこう言った。 「はぁ、はぁ、カレン…護ってやったぞ…あとは、団長に任せよう。」 そしてエバルフもその場に倒れこんだ。その後、城は今回の魔導兵器との戦いで侍達が寝泊まりする事になる。その為、グレン達は一旦戦争の被害を受けていないカイルの自宅へと移動した。人数は多いが、グロードとグレン、ネルと空間移動出来る者が3人も居た為、特に問題なく転移出来た。初めてカイルの家に来たグレンは一言。「…デカいな。」「反応薄っ!」グレンのあまりにも薄いリアクションに思わずライクが突っ込みを入れた。「ライクは初めてカイルの家に来た時、ずっと圧倒されてたもんね。」「されてねえよ!てか一々そんな事言わなくて良いんだよニケル!」2人はいつもの言い合いをしてるとグレンがボソリと。「家はデカいのにな…。」その言葉に今度はカイルが聞き逃さなかった。「家は?デカいのに…何だよ?」カイルはグレンに詰め寄るも、身長差がある為グレンの顔を見上げながら言った。額には青筋が浮かんでいる。「…いや、何でもねえ。」「あるだろ!どうせ家はデカいけど俺は小さいとか思ってんだろ!?」「…言ってねえ。」「言ってる様なもんだ!それは!」低身長がコンプレックスのカイルは、身長に関する事を言われると過剰に反応してしまう。頭を掻きながら「めんどくせぇ。」と心の中で思うグレン。そんな中、更に火に油を注ぐ発言をする者が居た。「あ、やっぱりカイルはチビで合ってたんだ。僕だけがそう思ってたのかと思ったよ。」ネルは悪気なくチビ発言をしてしまい、その場に居る全員が思わず「あっ」と発してしまう。カイルの前では絶対に言わないと必死に我慢していたのが、ネルが言ったせいで思わず出てしまった声に本人は感じてしまう。「合ってたとか言わなくて良いんだよネル!皆んなそうやって俺の事チビって馬鹿にするんだ!もう家に入れてやんねえからな!」全員からチビ認定された事に悲しみアピールをするカイルをエミルとミーナが慰めていた。「ほら、泣かないの。」エミルがカイルの背中を撫でながら慰める中、ミーナも同様に慰めようとするのだが。「カイル君はちっちゃくても…大っきいよ、懐が!」以前エミルの服を全額払ったカイルの懐の大きさだけを褒めるミーナ。(第30話参照)最早言わない方が良いレベルのフォローに更に落胆するカイルであった。「入るならさっさと家に案内してくれ。全員疲れてるだろ?」事の発端を作った張本人のグレンは落ち込むカイルを
ライクとニケルは城の裏側にある人気の無い場所へと移動した。 後ろから尾行していたロゼアは壁に隠れながら、ライクとニケルが話をしているのを覗き込んでいた。 …側から見れば只のストーカーにしか見えない。 壁の向こうではライクから先に声を掛けていた。 「で?どうしたんだよ。さっきも、お前一言も喋らなかったし。」 先程の会話でも、ニケルは浮かない顔をしながらグレンやグロードの話を聞いていた。 その理由は。 「…僕達とグロードさんの関係って、これからどうなるのかなと思って。」 「グロードとの関係?」 何を言ってるのか分からないライクだが、ニケルはそのまま説明を続けた。 「大恩あるグロードさんの事を、僕はずっと亡くした父親の様に思ってた。本当の父親じゃ無い事は分かってる。だけど、まるで親子みたいな今の関係性が僕は好きだったんだ。」 「けど、生き別れた本当の息子であるグレンが戻って来たら、もうそんな関係には戻れないのかなって…。」 ニケルの悩み。それは本当の息子であるグレンが戻ってきた以上、自分達はグロードの息子の代わりにはなれないという事である。 また今までの関係性も変わってしまい、もうグロードに相手にされないのでは無いかという不安もあった。 「勿論、グレンと再会出来た事は僕も嬉しいけど。…やっぱり良いな。本当の親が生きてるのって。」 月の民殲滅戦で両親を亡くしてるライクとニケル。特にニケルは子供の頃は甘えん坊であった為、親への未練はライクよりも強い。 親の居ない2人にとってグロードは父親同然。しかし、本当の父親になる事は出来ない。 そう思うとニケルは、少し寂しく感じていた。 それに対してライクは。 「ニケル…お前の言う様に、あいつは俺達の父親じゃねえし、俺達があいつの息子代わりになる事も出来ねえ。」 「……」 「でもよぉ、俺達とグロードとの関係性は何も変わらないと思うぜ。」 「…え?」 落ち込み俯いてたニケルはライクの顔を見た。 「俺もあいつの事は父親みたいに思ってたけど、どっちかと言えば師匠に近い感じだな。それに、あいつは面倒見が良くて、いつも丁寧に俺達の修行に付き合ってくれた。」 「優しい奴だからさ、例え息子が居ようと俺達との師弟関係まで変わる事はねえよ。」 「ライク…
魔導兵器ラウスを倒した事と、北の軍事兵器もグロードが破壊した事により、北の大国が今後攻撃してくる事は無いだろう。北の大国は多くの軍人と軍事兵器を失った事により、いずれ国の財政が崩れ破綻に追い込まれる事となる。戦う力を失った北の大国ウンディーネは結果的に敗戦国となり、これにより東北魔導大戦は事実上終結する事になる。しかし東の大国も無傷という訳にはいかず、今回の魔導兵器ラウスとの戦闘によって沢山の死傷者が出ていた。それだけではない。東の大国の主戦力が戦っている間、手薄になった城内にて更なる事件が起こってしまう。ノーム王の暗殺。戦いが終わった後、城内へ行くとそこは戦場と同じくらい凄惨な状況となっていた。医療班の人も殆どが殺されており、警備の者達に関しては、肉体が残っていれば運が良かったと思えるくらいバラバラに殺されていた。一体誰が実行したのかは不明。しかし、こんな事をするのは1人しか居ないとグロードは気付いていた。「…ベリエル!」見たところ胸部を刺殺(しさつ)されて殺されている様に見えるが、医療知識が豊富なグロードはノーム王の身体を少し触れただけで他の殺害方法で殺されたのだと判断する。「…内臓が全て潰されている。まるで身体の中をかき混ぜられたかの様に……許せない。」あまりにも残酷な殺し方をされている為、グロードは沸々と怒りを覚えた。この場には他にグレン、ミーナ、エミル、ライク、ニケル、フィナ、ネル、そして八握剣(やつかのつるぎ)のギンジが居た。カイルとロゼアとアルバスは意識を取り戻したが、戦いで受けたダメージが大きく、今は休んでいる。他の八握剣(やつかのつるぎ)も同様に、命に別状は無いが大掛かりな治療が必要な状態である為、カイル達同様にこの場には居なかった。ノーム王が殺されている姿を見て先に悲しんだのは、当然八握剣(やつかのつるぎ)のリーダーであるギンジであった。「ノーム王…くっ…何で、こんな事に!」ギンジは両手を握りしめ、悔しさと悲しみで顔を横に向きながら涙を流していた。王の懐刀である八握剣。そのリーダーともあろう者が他のメンバーを救えず、更には王の命さえも守る事が出来ず、ノコノコと生き残ってしまった。ーー俺のせいで…役立たずにも程がある!しかし、それに対してミーナが。「ギンジさん。自分のせいだなんて思わないで下さい。皆んな
そして更に4年後。ラウスは18歳になり、ルーファスは9歳となる。ラウスは高校3年の学年となり、全ての成績において優秀な成績を収めていた。幼い頃から教えられた事は殆ど完璧にこなすその姿を見て、いつしかラウスは神童と呼ばれ将来を期待される様になる。しかし、ラウスは魔法を仕事にする道は選ばずそのまま農作業を営み続ける道を選んだ。当然教師はラウスを説得するもキッパリと断った。自分の将来の夢よりも、ルーファスの側にずっと居る事の方が大事だったからである。こうして学生の頃はそれなりに有名だったラウスは、突如として公の場から姿を消したのだ。一方、ルーファスもラウス同様に成績が良かった。ラウスが合間を縫って勉強を教えているのもあるが、どうやらルーファスも少し教えればすぐ覚える事が出来るのだろう。「(流石は俺の弟だな。)」勉強を見ていたラウスは心の中でルーファスを誉めていた。ある日、ルーファスはこの家に元々住んでいた老夫婦の写真が飾ってある仏壇を見て質問してきた。「兄さん。この人達って、僕達とはどういう関係なの?」あの頃、まだ赤ん坊だったルーファスはこの家に元々住んでいた老夫婦の存在を知らない。「この人達はね、俺達の親みたいな人だよ。本当の親じゃ無いけど、親のいない俺達の面倒を見てくれた人だ。」亡くなった老夫婦の事をラウスは自分の親だと思っており、ラウスにとっては生きていく術を教えてくれた恩師でもあった。「そーなんだ。…じゃあ、僕達の本当のお父さんとお母さんは?」1番聞かれたく無い質問をルーファスは悪気なく聞いてくる。当然である。ルーファスは親の事を何も知らない為、本当の親が気になるのは当然の事。…そっか、あの時お婆ちゃんはこんな気持ちだったんだ。そりゃ、言いたく無いよね。ラウスはルーファスに聞かれた事により、あの時のお婆ちゃんの気持ちが少し分かった。あの時から親の事はあまり思い出さない様に生きてきたラウス。正直、あまり親の事を聞かれても何て言ったら良いのか分からなかった。只、ラウス自身が抱いてる気持ちとして言った。「…ロクでも無い人達だよ。父親は俺と母親を置いて出て行き、残された母親も親の責任を放棄して出て行った。」まだ子供に言うべき事では無いのだろうが、ついつい自分の感情任せに言ってしまったラウス。「そうなんだ。…でも僕、少し会
お母さん…何で帰って来ないんだよぉ…。俺1人でどうしたら良いの?どれだけ待っても帰って来ない母親のヒスイ。既に半日以上待っていたのだが帰って来る気配が無い。ラウス自身、半日以上何も食べていない為、空腹が限界を通り越していた。「おぎゃー!!」泣き叫ぶ弟のルーファス。生後3ヶ月の赤ん坊。お腹も空くし、オムツもしてるから替えてあげないといけない。その他にも、身体を清潔にしないといけない。…どうすれば…。ラウスは寝室で泣いているルーファスの所へ行き、様子を見た。「おぎゃー!おぎゃー!」「凄く泣いてる…こんな時、お母さんどうしてたっけ?」ラウスは普段、母親がどうやってルーファスの世話をしていたのか思い出していた。そしてヒスイが何をしていたのか思い出したラウス。「…まずは、オムツかご飯か。どっちかだけど…嫌だなぁ、オムツの匂いを嗅ぐのは…」それでも我慢してオムツの匂いを嗅ぐラウス。「…多分こっちじゃ無いか。じゃあミルク作らないと。」ラウスは台所にルーファス用のミルクが保管されている所を覚えていた為、そこに行ってミルク粉と哺乳瓶を取り出す。「えっと…先にお湯を温めるんだっけ?」初めての事でどうすれば良いか分からないラウス。しかし、取り扱い説明書があったので、それを見ながら何とか作って哺乳瓶に入れる事が出来た。「よし!後は水で冷まして…よし!」人肌まで冷まし、ラウスはそれをルーファスに飲ませる為、ベッドから起こした。「おーよしよし!ミルクだよ〜。」ヒスイが言ってた様に真似しながら、ルーファスにミルクを飲ませてあげるラウス。ルーファスは勢いよくミルクを飲んでおり、よっぽどお腹が空いていたのが見て分かる。半日、何も食べなければ大人でもお腹が空くに決まってる。「俺も何か食べないと…。」そう言ってラウスは戸棚にある非常食を取り出し、空腹を埋める為にそれらをお腹に詰め込んだ。見たところ、非常食やミルクの量から数日は持つだろうと判断した。しかし、この食料が無くなったらどうしようかと。ラウスはそれが恐怖で堪らなかった。「どうすれば…後、お金だけど。お母さんの貯金でどれだけ過ごせるのか…。」勝手にお金を使う事に抵抗感があるも、生きる為には仕方ないとヒスイが管理してる通帳を確認する。子供では見た事の無い数字に驚くラウスであったが、実際の
真っ暗な暗闇の中。1人の女性が下を向きながら何かを覗き込んで泣いていた。「…ラウス……ルーファス……どうして、こんな事に…。」その女性はヒスイであった。ここは死後の世界であり、この暗闇の空間は死後の世界へ行く前の道。死後の狭間である。ヒスイは死後の世界へは行かず、死後の狭間にある暗闇の空間で家族を見守りながら待ち続けていたのだ。そして現世を見ながら自身の息子達が戦う姿を見て涙を流していた。すると後ろから。「…2人が戦っているのか?」その声の主はヒスイの父親であり、グレンに龍技の真髄を教えた竜の民のドグマであった。後ろからドグマに言われたヒスイは、涙を流しながら振り返る。「…お父さん。」「ヒスイ。…お前も辛いのは分かるが、今の俺達には見守る事しか出来ない。」そしてヒスイの隣に座り、現世で戦うグレン(ルーファス)とラウス。2人の戦いを覗き込む。「信じるしか無い。グレン…いや、ルーファスの事を。そして、あいつの強さを。…きっとあいつが兄を救ってくれる筈だ。」ヒスイはグレン(ルーファス)が生後3ヶ月の時にこの世を去った。ドグマもヒスイが家を出てから、自分に孫が居る事も知らずに30年間虚しく過ごしてきた。しかし、その孫であるグレン(ルーファス)は偶然にもヒスイの父であるドグマと出会い、龍技の真髄を教えてくれた。運命が知らない内に引き合わせてくれたのだ。そして今、ドグマに教えられた龍技の真髄によりグレンは、魔導兵器となり殺戮の呪縛に囚われた兄ラウスを救う為に戦っている。自分の弟子であり、孫でもあるグレンをドグマは信じていた。「(グレン。お前の生き様を、今こそ見せてくれ。)」ドグマの墓前で言ったグレンの誓いに対し、心の中で返答した。信じる事しか出来ないヒスイとドグマは、ラウスとルーファスの行く末が少しでも救われる様に、両手を合わせて祈る。あの世でヒスイとドグマが見守る中、現世ではグレンとラウスの死闘が繰り広げられている。戮力体竜変(りくりょくたいりゅうへん)によって竜人化したグレンは先程とは違い、身体機能が大幅に強化される。自然魔力を体内に取り込む戮力体竜変。それにより身体に現れた竜の鱗は鋼をも上回る強度を誇る。その拳でラウスの胸部を殴る。バコォォォン!!!グレンの拳により、ラウスの硬い胸部は拳大の大きさに凹んだ。グレ
あの日、私とその親友であるカイル・エリオンは家へ帰る途中で何者かに誘拐された。そして気づいた時はもうどこか分からない暗い暗い檻の中に閉じ込められていた。なぜ閉じ込められていたのかはあまり覚えていないけど、多分親から身代金としてお金を手に入れる為に利用しようとしたのだと思う。自分の親は確かに裕福だった。それは認める。けど裕福は幸せとイコールではない。お金があるから周りから違う目で見られ誰1人して私を対等に扱おうとした者はいなかった。親もお金が全てという考えの人でお金で私の人生を奪おうとした。私は小さい頃から一人ぼっちだった。檻の中にいる時、既に私は全てを諦めてしまっていた。意
時は少しさかのぼり、現在ミーナとハンジはグレンの部屋に向かおうとしていた。 「グレンの部屋は確か…こっちです!」 ミーナはハンジをグレンの部屋へと誘導していく。 そして、グレンの部屋の前まで着いた。 「グレン、大変だよ!カイル君が盗賊に…って、あれ?」 部屋を開けるがどこにもグレンの姿が見当たらなかった。 「…いないみたいね。」 「本当に、グレンは…」 こんな時でも勝手な事をするグレンに呆れるミーナ。 「どこ行ったのでしょうか?」 「分からないです…でも、あまり自分から動かないグレンが自分から動くって事は何かあるって事だと思いますよ。…何か、嫌な事が起こ
あれから数日後、助かったイフリークの国民達は他国の騎士団に救助されることになった。 絶望、それは誰しもがそう感じているだろう。 つい数日前まで、人と魔法で賑わっていたイフリークは見る影もなかった。 救助に来た他国の騎士団はイフリークの国民達を自分たちの国である南の大国 シルフに連れて行く事になり、カイル達も含めた騎士団や国民達は用意された100台以上ある馬車に乗せられた。 そこにはどういう訳かグレン達も乗る事になり、当然カイルはグレンに睨みを効かせる。 「おい…なんでお前がここに乗ってんだ?」 するとそれに対して軽く受け答えするグレン。 「俺たちは次に目指すところは
そして現在、俺はこの国の危機を守らなければならない!そのために俺が…俺が…!! 「うわぁぁぁぁぁあ!!!!」 カイルが思いっきり剣を振ると黒い根っこは根元から一気に切り落とされ、切られた部分が霧散していった。 多少時間を稼げるが再生を続けるこの黒い根っこは10秒もあれば元どおりの状態に戻れた。 「このままじゃ…このままじゃ…」 諦めるな!カイル! エミルの声が頭の中で蘇った。 「そうだな、よし!俺も本気出さないとな。」 するとカイルの剣が黒く変色し、瞳が黒から赤く変わった。 「一発で止めてやる!」 カイルは縦に思いっきり振ると根元まで一直線に切れていった







