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悲しみの白髪

悲しみの白髪

By:  しょうの笛Completed
Language: Japanese
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再婚して一年が経った記念日。朝倉彩葉(あさくら いろは)は花束とプレゼントを持って、夫の五十嵐望(いがらし のぞむ)にサプライズを仕掛けようと、彼が出張中に滞在しているホテルまで行く途中に、交通事故に遭ってしまった。 そして病院で医者から流産の兆候があると告げられてしまった。「朝倉さん、あなたは以前一度人工流産されていますよね。それに腎臓の摘出手術を受けられていて、片方しかありません。今お腹の中にいらっしゃるお子さんは、危険かもしれません」 それを聞いた瞬間、彩葉は驚いた。「先生、カルテを他の方と間違えていらっしゃるんじゃないですか?私、今回初めての妊娠ですし、腎臓摘出手術なんて受けたことはありません」 「間違いないです。これは朝倉さんの過去のカルテです。それから旦那さんがサインしたご家族の手術同意書です」 彩葉がそれを見てみると、半年前に起きた事故の日付であることが一目で分かった。 「あの時、朝倉さんは昏睡状態で、旦那さんが腎臓の臓器提供書類にサインなさっていました。それに、手術が無事に成功するように、お腹の中のお子さんの中絶手術にも同意されましたよ。朝倉さんはご存じなかったのですか……」 彩葉には医者のその後の言葉は一言も聞こえていなかった。 彼女はじっとその書類に力強く書かれているサインを見つめていた。その一画一画しっかりと書かれた筆跡には嫌になるほど見慣れている。

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Chapter 1

第1話

再婚して一年が経った記念日。朝倉彩葉(あさくら いろは)は花束とプレゼントを持って、夫の五十嵐望(いがらし のぞむ)にサプライズを仕掛けようと、彼が出張中に滞在しているホテルまで行く途中に、交通事故に遭ってしまった。

そして病院で医者から流産の兆候があると告げられてしまった。「朝倉さん、あなたは以前一度人工流産されていますよね。それに腎臓の摘出手術を受けられていて、片方しかありません。今お腹の中にいらっしゃるお子さんは、危険かもしれません」

それを聞いた瞬間、彩葉は驚いた。「先生、カルテを他の方と間違えていらっしゃるんじゃないですか?私、今回初めての妊娠ですし、腎臓摘出手術なんて受けたことはありません」

「間違いないです。これは朝倉さんの過去のカルテです。それから旦那さんがサインしたご家族の手術同意書です」

彩葉がそれを見てみると、半年前に起きた事故の日付であることが一目で分かった。

「あの時、朝倉さんは昏睡状態で、旦那さんが腎臓の臓器提供書類にサインなさっていました。それに、手術が無事に成功するように、お腹の中のお子さんの中絶手術にも同意されましたよ。朝倉さんはご存じなかったのですか……」

彩葉には医者のその後の言葉は一言も聞こえていなかった。

彼女はじっとその書類に力強く書かれているサインを見つめていた。その一画一画しっかりと書かれた筆跡には嫌になるほど見慣れている。

彼女は右後ろの腰あたりに、痛々しく残っている傷口が再びズキズキと痛むような、そんな感覚に襲われてしまった。

しかし、その傷は彩葉が交通事故に遭った時に残ってしまった傷跡なのだと、望がはっきりと彼女に伝えていたのだった。

彼女はかすれた声で言った。「その臓器提供を受けた人は誰なんですか?」

医者は書類をめくった。「榎本花梨(えのもと かりん)さんですね」

それを聞いた瞬間、彩葉は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、目の前が一瞬真っ白になってしまった。

昔、望はなりふり構わず一度断られても諦めずに彼女を追いかけて、やっと結婚にこじつけたのだと周りは知っていた。

そして、花梨という女性は望が少年だった頃の憧れの人だった。しかも彩葉と望が一度離婚することになった原因でもある。

この時、突然携帯のバイブレーションの音が数回した。届いたのは望が彼女を騙すために、事前に撮っておいた動画だった。【会議に行ってくる。彩葉のことを想ってるよ】

彩葉はその送られてきたメッセージを見て、突然涙が溢れ、床に落ちていった。

彼女は当時、望と初めて出会った時のことを思い出していた。

彼は五十嵐グループの社長で、彩葉の通っていた大学が客員教授として招いた人だった。そして彼女は西海大学の三年生で、彼のアシスタントを担当した。

その日、大学の講義が終わった後、彼が彼女を呼び止めた。彼はスーツのジャケットを脱ぐと、彼女の腰に巻きつけて、突然生理が来て血がついている彼女の服を隠してくれたのだ。

その後、彼女は彼の服をクリーニングに出して綺麗にしてから返した。ちょうどその時彼は熱を出して苦しんでいて、彼女の手を掴み帰そうとしなかった。

その日から、彼は熱烈に彼女を追いかけるようになったのだ。

あの頃の彩葉は、彼と自分では立場的に差がありすぎると分かっていたものの、片田舎の町から自分の力だけで西海大学に合格し、大学院への推薦ももらっていたことで、ある種の自信を持っていたのだ。

望が一年かけて彼女を追い求め続け、ようやく恋人になれたのだった。

そして付き合って三年。望は彼女のことを目に入れても痛くないほど大切にしてくれた。

彼女が何気なく、「あのネックレス可愛いね」と言えば、その翌日には彼が億もするジュエリーを彼女に贈った。彼女が生理になり辛そうにしていると、かなりの額になる契約もほったらかして彼女のもとへ駆けつけ、生姜湯を作り彼女に飲ませてくれた。付き合いたての頃、彼はベッドで彼女の腰を掴み、「彩葉、愛してる」と囁き、彼女のことを魅力的だと言っていた。

そして、彼は「彩葉、愛してる」と囁き続け、「君はこの世で最高の暮らしが与えられるべき存在なんだよ」と言った。

彼女が大学院を卒業した年、彼女と結婚するためにご先祖を祭る祭壇の前で三日三晩も跪き、また家の掟を破ったため、99回も木の棒で血が床に流れるほど叩かれてしまった。それでも彼は無理に笑って大丈夫だと彼女を慰めていた。

その時、望が心の底から彼女のことを愛してくれているから、彼女自身の理想や夢を諦めても、彼と結婚する意味があると感じたのだ。

周りから彩葉は財閥家に見事嫁入りを果たしたと言われたが、彼女自身は本物の愛を手に入れたと確信していた。

だから、結婚して一年経ってから、彩葉は初めて望には憧れの女性がいて、自分はその女の代役だったのだと知ることになり、また望がその女とキャンドルディナーを楽しむのを目撃してしまった後、彼女は彼に離婚届にサインをさせて、彼から遠く離れていったのだ。

彼女はどんな些細なことでも、自分を無下にするようなら絶対に彼を許すことができなかった。

彩葉が去ってから三か月もせず、憔悴し、すっかりやつれてしまった彼が彼女の家の前に姿を現し、彼女のいない日々など死んだほうがましだと言ってきた。

彼は会社にも行かず、毎日毎日彼女の家の前で待っていた。そして、花梨とは何の関係もなく、彩葉のことを一度たりとも誰かの代わりとして見たことはないと何度も言い張ったのだ。

その頃、彼女はあまり仕事がうまくいっておらず、唯一の肉親である父親が癌を患い、かなり追いつめられた状態で眠れない日々が続いていた。

望は裕福な家庭の御曹司であるのに、毎日彼女の父親のお見舞いに病院に赴き、一言も愚痴をこぼさなかった。

そして父親が亡くなる直前、彼はベッドの前に跪き、必ず彼女のことを面倒見るから、安心してほしいと誓った。

その日、父親は震える手で彩葉の手を望の手に重ね合わせ、安心して永遠の眠りについたのだった。

望が彼女に代わって葬儀を終わらせてくれた後、彼女は彼との再婚に首を縦に振った。

再婚してからのこの一年間、彼は彼女を安心させるために、一日に十数回もメッセージを送ってきた。

しかし、結局どうなった?

この男は裏で、自分の好きな女性に私の腎臓を提供し、惜しまず自分の子供を殺すという選択肢を取ったのだ!

彩葉は体を震わせて泣いた。まだ現状を受け入れられず狼狽える中、望の出張先のホテルまで辿り着いた。

パーティー会場の隅のほうに、望が花梨を抱きしめている姿が目に飛び込んできた。彼女にダイヤモンドが散りばめられた誕生日のティアラをつけさせ、五十嵐家に伝わる大切なブレスレットをプレゼントにしていた。それから、彼自ら彼女にケーキを食べさせている。

彼は言った。「花梨、俺は君と結婚することはできないけど、永遠に俺の中で一番大切な人なんだよ。本当の妻は君一人さ」

望の兄弟たちが二人を囲んでお祝いの言葉を述べていた。望には大変だったなと声もかけているのだ。

「そうだよ、花梨さん、当時朝倉さんの腎臓がぴったり花梨さんの体に適合するんじゃなかったら、兄さんだってあそこまで苦労してあんな女追いかけ回してなかったんだ。仕方ないよな、だって夫という肩書がないと、臓器提供の書類にサインできないんだからさ」

「そうだよ、花梨さんが病気だって分かってから、兄貴はもう相当精神的にまいってたんだよ。一カ月で何キロも痩せちゃったもんだから、俺らもその様子見てて怖かったんだ」

「あの時さ、花梨さんを助けるために兄さんがわざと事故を起こして、さらに手術のために自分の子供まで諦めちゃったじゃないか。花梨さん、兄さんは本当にあなたのことを愛してるんだからね」

この時、彩葉は隅の方にいて、まるで魂を持たない氷の彫刻のように、呆然と立ち尽くしていた。

花梨がトイレに行くと、望は携帯を取り出した。するとすぐに彩葉の携帯が振動した。

彩葉は血の気が引き固まっていた体をようやく少し動かして、携帯を取り出した。

【ごめんよ、彩葉、今日は会議が長引いて遅くなりそうなんだ。君は先に休んで。明日帰ったら今日の埋め合わせをするからさ】

それを見た瞬間、笑いが込み上げてきた。

心臓が誰かに抉り取られるかのように、息もできないほどの痛みを感じたが、涙は一滴もこぼれなかった。

兄弟たちが集まってきて、「兄さん、あの女なんかに気を使ってんの?どうしてさっさと離婚して、花梨さんと結婚しないんだよ?」と言った。

「そうだよ、どうせ最初はさ、あいつが花梨さんにちょっと似てたから、代わりにしてただけじゃん?

しかも、妊娠までさせちゃうなんてさ」

望はここにいる数人をギロリと睨みつけ、グラスのワインを一気に飲み干した。「彩葉のことを、一度だって誰かの代わりだなんて思ったことはない。

もしかしたら、最初は彼女に花梨を重ねて見ていたところがあったのかもしれない。だけど、だんだん彼女のことを本気で愛するようになったんだ。ただ花梨は……彼女のことも手放すことができないんだよ。

彩葉の子供の件は、俺も申し訳ないと思ってる。それに、花梨は体が弱くて子供が生まれないしな。五十嵐家には跡取りが必要だろう。

だけど、彩葉はプライドの高い女性だ……もし、このことを知れば、絶対に俺から離れていってしまう」

そして望は警告するような目つきで周りを見まわした。「お前らしっかり秘密にしておくんだぞ。一生彼女に知らせてはいけないからな!」

ここまで聞いて、彩葉は一歩踏み出そうとした足をピタリと止めた。

彼女は自分のお腹を押さえた。五か月になる子供が、ちょうどお腹を蹴って、彼女の手のひらにその感覚が伝わってきた。

一回、また一回と、まるで何も知らずに無邪気に遊んでいるようだった。

彼女は突然、横にあったドアから駆けだしていった。かなり遠くまで逃げるように走ってきて、ようやく壁に手をついて、悲痛な声で泣き叫んだ。

その日の夜は一睡もできなかった。

そして翌日、彼女は朝早くに、ある三つのことをしに出かけていった--
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松坂 美枝
松坂 美枝
本人の同意無しに腎臓やら中絶やらさせて平然と離婚再婚するような男とはやっていけないよな怖いもん クズ男の両親は仲睦まじかったのに何故息子がこんなんだったのか 主人公の新旦那さんが丁寧にクズ男を諭す所良かったわ
2025-11-20 10:48:32
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ノンスケ
ノンスケ
自分が意識のない間に、勝手に中絶させられ、腎臓移植までされていた妻が、その後の愛人からの仕打ち、夫の態度で心身の限界を迎えて離婚してでていく。それが精一杯の自分を守る術だったと思う。だからたとえ自分を庇って昏睡状態になったとしても、感謝はできないよね。元夫の親も理屈を考えればわかるでしょ。
2025-11-22 13:37:02
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