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愛されし者の囚われ
愛されし者の囚われ
Author: 福まみれ

第1話

Author: 福まみれ
「市村さん、覚悟を決めたわ。ハリウッドでやっていく。あなた専属の脚本家として、この月末にはそっちに飛ぶ」

吉永凛音(よしなが りおん)は妊娠検査の結果を握りしめ、撮影現場の隅で電話をかけていた。

寒さが厳しく、彼女は足を踏み鳴らしたが、それでも手足の冷たさは和らがなかった。

電話の向こうからは、低くて心地よい男性の声が響く。「君の才能なら、もっと大きな舞台に立つべきだとずっと思ってたよ。だけど草野のために、この八年間で僕の誘いを九十九回も断ったんだ。今回は本当に彼を置いていけるのか?」

「うん、もう彼はいらない」

凛音は妊娠検査の紙を握りしめながら、苦笑いを浮かべた。

電話を終え、撮影現場に戻った。他のスタッフと一緒にモニターで撮影を見守る。

カメラが向いている先では、彼氏の草野拓斗(くさの たくと)が志賀芽衣(しが めい)とキスシーンを撮っていた。

芽衣にキスする拓斗は、まるで本当に恋しているかのように深く情熱的だった。

あんなに切なく、愛おしそうな表情を、凛音は一度も見たことがなかった。

芽衣が現れる前は、凛音を気遣って、拓斗は一切ラブシーンを受けなかった。彼女の前で他の女性と親密な演技なんて、絶対にしなかったのに。

凛音は過去のことを思い出すと、胸が苦しくて息もできない。

「カット!今日はここまで、お疲れ様でした!」

監督の声が響くと、現場は一気に明るくなった。

拓斗のアシスタントたちがすぐに駆け寄り、上着をかけ、保温ボトルを渡す。

凛音は、拓斗が芽衣と楽しそうに話しながらこちらに歩いてくるのを見て、無意識に道を譲った。

かつて彼が言った「人気に影響するから」との一言で、彼女は八年間も秘密の恋人でい続けた。

この事実を知っているのは、彼のマネージャーと、数人の親しい友人だけ。

拓斗は凛音を徹底的に隠し、存在すら匂わせなかったくせに、芽衣とは堂々と仲睦まじく振る舞っていた。

芽衣のことでは、凛音は何度も拓斗と衝突してきた。

でも彼はいつも、「仕事の一環だ、無駄に騒ぐな」と冷たく言い返すだけだった。

そのとき、制作担当の竹内香織(たけうち かおり)が近づいてきて、噂話を始めた。

「草野くんと志賀さんのキスシーン、ほんとリアルだったよね。ホントのカップルみたい!業界でも付き合ってるって噂になってるけど、凛音ちゃんはどう思う?」

「……さあ、わからない」

「え、全然気にしてないの?まあいいけど、凛音ちゃんは人気脚本家なんだし、草野くんとは距離取った方がいいよ?TwitterでCPオタにめっちゃ叩かれてるよ。『図々しい、不倫女』とか言われてたけど、気にしてないの?」

気にしてないわけがない。

あまりの誹謗中傷に、凛音は鬱になりかけて、布団の中で何度も泣いた。

拓斗に「交際を公表してほしい」と頼んだこともある。

でも彼は拒否した。

「何騒いでるんだよ?公表しないのはお前を守るためだろ?ブスで、欠点だらけで、情緒不安定で面倒くさいお前が本命だってバレたら、ファンに毎日監視されるぞ。耐えられるのか?」

本当に守るためだったの?

自分は彼の言うように、そんなにダメな人間なの?

もしかして、ただ拓斗が自分を愛していないだけなんじゃないかと、凛音はそう思った。

でも、そう言い捨てた彼が、後から優しく抱きしめて、プレゼントを山ほど買ってきて、「愛してるよ」と囁くたびに、自分が悪かったのかと思ってしまう。

凛音は彼を疑ったことに、罪悪感すら覚えていた。恋に溺れ、自分を見失っていた。

でも数日前、拓斗が酔ってうっかり漏らした言葉で、凛音はすべてを知った。

彼にとって自分は、芽衣の代用品でしかなかったことを。

ブンッ。

スマホのバイブ音が、思考を遮った。

拓斗からメッセージだ。【凛音ちゃん、会いたいよ。ちょっと来て】

凛音は唇を引き結び、少し迷ったあと、彼の元へ向かうことを選んだ。

彼女が十七歳のとき、父が失業し、母が癌になり、家庭は崩壊寸前だった。

そんな時、拓斗が2000万円を出して母の治療費を出し、父に仕事を用意してくれた。

大学入試の直前、酔っぱらいに右手を潰されかけた時も、彼が助けてくれた。

彼は、凛音にとってずっとヒーローだった。

ただし、彼氏としては失格だった。

凛音は深く息を吸って、スマホをしまい、拓斗のトレーラーへと向かった。

入った瞬間、彼がいきなりキスしてきた。

凛音は彼の様子を見て、芽衣がまた彼に冷たい態度を取ったのだと悟った。

芽衣に冷たくされたとき、拓斗は決まって凛音に甘えてくる。

凛音の目元は芽衣にそっくり。だから、顔の下半分を隠すと、彼にとってはちょうどいい代用品になる。

吐き気がこみ上げ、彼女は本能的に彼を押しのけた。「やめて……そういう気分じゃない」

もう、代用品としての愛には耐えられなかった。

拓斗は動きを止めた。

そして彼女を抱きしめたまま、肩に顔を埋めて甘えるように言った。「お前がいてくれてよかった。お前だけは、絶対に俺のそばから離れないでくれるもんな」

凛音は、何も答えなかった。

だって、あと七日で彼の元を離れるつもりだから。永遠には、いられない。

拓斗は気にした様子もなく、彼女の手を握りしめた。「なんでこんなに手が冷たいの?佐藤、マンゴーミルク持ってきて、凛音が温まるように!」

凛音はマンゴーアレルギーだった。

それは何度も彼に伝えていた。けれど、彼は一度も覚えたことがない。

彼の優しさを断れず、いつもアレルギー薬を飲みながら、マンゴーミルクを飲んでいた。

でも最近になって、ようやく気づいた。

彼が覚えていないんじゃなくて、芽衣がマンゴーミルクを大好きだったからだと。

凛音は目を伏せ、嫌悪を隠しながら静かに言った。「いらない。飲みたくない」

でも拓斗は聞いていなかった。

すぐに佐藤がマンゴーミルクを持ってきて、ついでに伝言をした。「草野さん、志賀さんがラブシーンの確認でお呼びです」

「うん、すぐ行く!」

拓斗の目が輝き、急いで立ち上がった拍子に凛音を押し倒しそうになった。

彼女のバッグが床に落ち、中身が散らばる。

彼は慌てて彼女を支え、床に落ちた荷物を拾った。

そして、拓斗は折りたたまれた妊娠検査の診断書を見つけて、手を止めた。「これ、何だ?」
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