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18.卑下からの脱却

last update Dernière mise à jour: 2025-06-18 22:22:27
「例えばさ、僕が凄く素敵な花を見つけて君に見せたかったとする。君はなんて答える?」

「わぁ、本当。すごく綺麗ですね、とか?」

「そうでしょ?でも、もし『そんなことない』って返されたら綺麗だと思っていた花がさっきまでより綺麗に思えなくなると思わない?同時に、僕の綺麗と思う目っておかしいのかな?って少し寂しくならない?」

「……そうですね。」

「それと同じで、僕が『葵は本当に綺麗だね』って言ったら、葵は『とんでもないです』って返すけど、それって僕の目がおかしいとか、嘘を言っているって言われているみたいで、ちょっと寂しいんだ」

「お花は分かりますが、私への言葉も同じなんでしょうか?」

「そうだよ、僕はそう思っている。」

「それに誰かに褒められたらさ、『ありがとう』って言われた方が嬉しいと思わない?」

彼の言葉に含まれる真剣な響きに私はハッと息をのんだ。彼らは、心からそう思って言ってくれている。その純粋な気持ちを私は無意識のうちに否定していたのだ。

ルシアンの問いかけに、私の胸の中で何かが音を立てて崩れるのを感じた。それは、長年私を縛り付けていた、日本の「謙遜」という名の呪いだったのかもしれない。

(そうか、私は、彼らの純粋な好意を無意識のうちに跳ね返していたのか!!)

「ありがとう」。たったそれだけの言葉が、こんなにも重い意味を持っていたなんて。彼らにとって、それは決して喜びではなかっただろう。

ルシアンの問いかけは、私に今までの自分の態度が彼らの愛情に対しどれほど失礼なものだったかを突きつけた。私は、彼らが私に注いでくれる限りない愛情にどう応えればいいのか初めて真剣に考え始めた。

「葵、葵は自分が思っている以上に魅力的で素敵な女性なんだよ」

「……ありがとう、ございます?」

小さく掠れた声だったけれど、私は生まれて初めて感謝を彼らに向けて口にしていた。ルシアンは、その言葉に満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、太陽のように眩しく私の心を温かく照らしてくれた。

「ふふ、よく出来ました。葵はとってもキュートだよ、可愛い」

そう言って子どもを褒めるように私に目線を合わせて頭をよしよしと撫でるルシアン。

(……キュート?もしかしてからかわれた?)

しかし、この相手からしてもらった尽くしを嬉しく受け止めることをきっかけに葵の心にも、そして王子たち、ひいてはこの国の未来を変えていくこと
中道 舞夜

愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~ 尽くす側から尽くされる側へ、そして転生は偶然ではなかった? 毎日22:22に更新中!気に入って頂けたら本棚登録してもらえると嬉しいです。

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