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第5話

Author: 観月明
「和也さん、信じて。私、本当にわざとじゃないの。

あなたに約束したでしょう?彼女を受け入れるって。でも、彼女があんな写真を神代家に送りつけてきて、妊娠検査の報告書まで見せつけて私を挑発してきたの。だから……感情を抑えられなかっただけ」

全部、でたらめだった。少し調べれば嘘だと分かる話なのに。

でも、和也は調べようともしない。

彼は低い声で、ただ一言だけ告げた。

「分かってる」

私は病室のベッドに横たわったまま、シーツを強く握りしめた。

大丈夫、子どもはもういない。これで私は自由になれる。

そう何度も自分に言い聞かせた。

けれど、晴は私を逃がすつもりなんて最初からなかった。

彼女は和也の腕を揺らしながら、甘えるように言った。

「和也さん、このままだと彼女、きっとまた別の手を使ってあなたに付きまとうよ。私、本当に怖いの」

少し間を置いて、意味ありげに続けた。

「……あの人の母親みたいにね」

その言葉を聞いた瞬間、和也の表情が引き締まった。

晴はタイミングが来たと見て、唇を噛みしめながら口を開いた。

「和也さん、琴葉に避妊手術でも受けさせよう?

そうすれば、もう子どもを利用してあなたを縛れなくなる」

「ふざけないで!」

私は無理やり上半身を起こして叫んだ。

その反応に晴の表情が冷え切った。

「ほら、全然反省してない。和也さん、絶対に情けなんてかけちゃダメよ」

和也は私をじっと見つめた。

そして彼は固く握っていた拳をゆっくりほどき、静かに言った。

「お前の言う通りにしよう」

その一言に、晴は勝ち誇った顔をしてみせた。

彼女はすぐ病室の外へ向かって叫んだ。

「入って!」

ドアが勢いよく開き、大柄なボディガードが二人、病室へ入ってきた。

そして、まっすぐ私のベッドへ歩み寄った。

「押さえて。鎮静剤を打って。大人しくなったら、そのまま手術を始めて」

命令が下ると同時に、二人は左右から私の肩と腕を力任せに押さえつけた。

私は必死にもがいた。

だが、流産したばかりで衰え切った体では抵抗できるはずもなく、あっという間にベッドへ押さえ込まれてしまった。

「離して!離してよ!」

私は叫びながら、和也だけをじっと見つめた。

けれど彼は、ほんの少し眉をひそめただけで、静かに顔を背けた。

やがて医師が注射器を手に病室へ入ってきた。

冷たい針先が照明を反射し、不気味に光っていた。

迫ってくる注射針を見た瞬間、生きたいという本能が全身を突き動かした。

どこからそんな力が湧いたのか、自分でも分からない。

私は力いっぱいボディガードを振り払い、そのまま病室を飛び出した。

体の痛みも構わず、よろめきながら廊下を駆け抜けた。

「早く!逃がさないで!」

晴の鋭い叫び声が背後から響いた。

ボディガードたちがすぐに追いかけてきた。

私は全力で走った。

一歩踏み出すたび、激痛が走る。

それでも止まるわけにはいかない。

病院の長い廊下を駆け抜け、医師や患者を避けながら、階段へ飛び込んだ。

背後の足音はどんどん近づいてくる。

下腹部は引き裂かれるように痛み、額の傷口からは再び血が滲み始めていた。

冷たい手すりにつかまりながら、一段、また一段と階段を上る。

そして最後の力を振り絞り、ようやくたどり着き、ふらつきながら屋上へ飛び出した。

すると追いついた和也が、初めて取り乱したように叫んだ。

「琴葉!戻れ!」

――もう遅い。

私は一度も振り返らなかった。

誰もが想像していた、屋上から飛び降りるということもしない。

そのまま一直線に駆け出し、屋上で待機していたヘリコプターへ、迷うことなく乗り込んだ。

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