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Author: 妄夢
last update publish date: 2026-07-03 16:31:56

ディートハルトから!?

私はあわてて手紙を開いた。

『愛しいアーシュへ

 アーシュ元気にしてる?

 なかなか会えず、寂しい思いをさせてしまって申し訳ない。

 夜はちゃんと寝てる?魔道具作りに没頭してご飯を抜いてない?

 ちゃんと夜は寝て、ご飯もしっかり食べるんだよ。

 一週間後に王家主催の夜会があるね。ぜひ、エスコートさせてほしい。

 ドレス一式送らせてもらうね。(きっと君の事だから、仕事に熱中してドレス注文してないだろうから)

 では夜会で。アーシュのドレス姿楽しみにしてるよ。

 君のディーより』

うわぁ……、全てバレてる……。

実は監視されている……? 私は周りをキョロキョロ見た。

騎士団は忙しいと聞いていたけど、今回の夜会には出席するのね。

届いた箱に視線を向ける。

眠りたい気持ちを押し殺して、一番大きな箱を開けてみる。

黒と赤を基調にした豪華なドレスだった。

レースや刺繍、スパンコールにビジューと、眩しいくらいに装飾が施されていた。

こんな豪華なドレス着たことないわ……。

いったいいくらかかったのかしら……。

途中まで計算してみたけれど、怖くなってやめた。

小さい箱を開けるとネックレスと、ブローチが入っていた。

彼の瞳の色と同じ翡翠色の宝石だった。

ちょっと恥ずかしいなぁ……。

夜会……中止にはならないわよね……。

でも、私のサイズなんでわかったんだろう……?

まぁ、深く考えるのはやめよう……。

◇◇◇

あれから仕事に没頭して、あっという間に夜会当日になった。

侍女はいないため、女性のコンシェルジュに手伝ってもらった。

着なれないドレスを着て、いつもの玄関口を出る。

そこには光沢のある黒と赤のタキシードに身を包んだ紳士が立っていた。

「アーシュ!」

ディートハルトの笑顔が満開で、私までつられて笑顔になってしまった。

「すごくきれいだね!」

「ありがとう……」

ディートハルトにエスコートされながら、王宮の会場まで歩く。

社員寮から会場まで徒歩5分だが、ヒールが高く思うように歩けなかった。

「ちゃんと会うのは3年ぶりだね」

「そうね……」

3年ぶりに会うディートハルトは、肌の色が焼けていて少し男らしく感じた。

背はもともと高かったが、さらに筋肉がついて屈強な騎士団員という感じだ。

正装姿……、なんてかっこいいんだろう。

これではまた、ご令嬢に囲まれるわね。

胸元には赤い宝石のブローチがつけられており、頬が熱くなった。

幼なじみのはずなのに——まるで知らない人みたい。

胸がズキッと痛み、手で押さえた。

「あの……、ドレスとか一式ありがとう……。ディートハルトのいうとおり、仕事ばかりしちゃってて……、本当に助かったわ」

 「アーシュは本当に変わらないね……」とディートハルトはクスクス笑った。

 「でも、呼び方……。寂しいな……」

優しい声でささやかれる。

トクン……。

形だけでも、婚約者として……行くんだもんね。

 「うん、ごめんね。ディー」

 「うん」

ディートハルトは満足そうに私の手に自分の手を重ねた。

こんな素敵な人が婚約者だなんて……。

彼のためにも、今日は話し合わないと。

 「ディー、夜会の後なんだけど……。少し時間もらえるかな?」

彼の金色の髪が揺れ、視線が下りてくる。

 「うん、もちろんだよ……。俺も話したいことがあるんだ」

 「そっか……。分かったわ……」

ディートハルトからも話したいことがある……。

きっと婚約破棄のことよね……。

ドクン……。

「——アーシュ? どうしたの?」

「なんでも、ないわ……」

その美しい翡翠の瞳に見つめられると、うまく息ができなかった。

大人になってしまった幼なじみに、心臓がうるさく鳴った。

 「ディートハルト様よ……」

 「本当だわ……」

 「前は美少年だったけど、すっかりたくましくなられて……さらに素敵ね……」

 「確かまだご結婚されていないわよね……」

 「でも、確か婚約者はいたような……」

 「あ、あの赤髪のご令嬢じゃない?いかにも悪女って感じの」

 「学生時代から、良い噂を聞かないわよね。今も夜遅くまで遊び歩いて、男性もとっかえひっかえしてるらしいわよ……」

 「まぁ!見た目通りじゃない!」

 「ディートハルト様が騎士団で頑張ってらっしゃるのに……」

 「ディートハルト様……、おかわいそう」

王宮の夜会会場で、もう噂話をされている。

確か同じ王立学園の生徒だったご令嬢たちだ。

もう結婚している人もいれば、まだの人もいる。

女性も仕事をする人が増えて、昔よりは結婚の年齢が上がってきている。

遅くに帰っているのは、仕事なんだけどね……。

やっぱり髪が赤毛で、顔が派手なのがいけないのかな……。

思わず顔に手を当てる。

今ディートハルトが騎士団の仲間たちに挨拶をしているので、私は笑顔で終わるのを待っているところだ。

「アーシュ!」

振り向くと、イヴェッタが彼女の兄と共に立っていた。

知った顔に会えて、緊張がゆるむ。

二人は水色を基調としたドレスとタキシードで、ピンクの髪によく合っていた。

私はイヴェッタの兄のバーデン様に一礼した。

「君が作った耐炎の白衣と万年筆、すごく重宝しているよ。君は本当にすごいな」

「本当ですか!? 使っていただけてうれしいです!」

「あぁ、こちらこそありがとう。これからも期待しているよ。では、私は同僚に挨拶してくる」

「はい」

バーデンが手を振り、私も手を振った。

「はぁ……、素敵……。なんてクールなのかしら」

イヴェッタが「どこがよ」と言わんばかりの目を向けてきた。

「ところで、また悪目立ちしてるわよ」

「うん。知ってる」

私は白ワインを口に含んだ。

「アーシュって、見た目が派手だから、昔から女性に敵作るわよね。逆に言えば、きれいで羨ましいのよ」

「はっ?私がきれい?魔道具しか作ってないのに?まぁ、今日はきれいにしてもらったけど……」

「はぁ……」

イヴェッタが大きなため息をついた。

「騎士団の人たちも、アーシュのことを熱いまなざしで見てるわよ」

「……?」

後ろを振り向くと、何人かの団員たちと目が合い、頬を赤らめていた。

 「みなさん、ワインの飲みすぎかな……?」

「こりゃダメだ……」

イヴェッタがおでこを触りまたため息をついた。

騎士団員たちの中に、私に対して鋭い視線を向けている人がいるなんて、その時の私は全く気づかなかった。

中央ホールには楽器を持った楽団員たちがゾロゾロと決まった席に着く。

騎士団員との挨拶が済んだのか、ディートハルトが戻ってきた。

イヴェッタと久しぶりに会ったので、軽く挨拶している。

 「アーシュ、そろそろファーストダンスの時間だよ。私と踊って頂けますか?」

ディートハルトがそう言って、私に手を差し出した。

どうしよう……、ダンスなんて全然練習してこなかった……。

これは誰でも踊れる靴でも発明しないといけないかも……。

 「……はい、喜んで……」

私はそう答えて、上がった口角がひきつった。

 「ねぇ、ディー……、私……学園を卒業してから全然踊ってないの!大丈夫かな?」

中央ホールに向かう中、私は小声でディートハルトにそう伝えた。

それはダメだねって、引き返してくれないかな……。

「大丈夫、俺がリードするから……。それに体が覚えているものだよ」と笑った。

──散々だった……。

私はガクンと肩を落とした。

「アーシュすごかったね……」

私は今バルコニーで、先ほどのダンスでグネった足を休めている。

隣ではおなかを抱えたディートハルトが声を殺して笑っている。

「だって、あんなに踊れないって……」

彼は先ほどのダンスシーンを思い出したのか、またケラケラと笑い始めた。

はぁ……、本当に最悪だ……。

もう会場に戻りたくない……。

ディートハルトが目じりの涙を指で拭っていた。

「こんなに笑ったの、久しぶりだよ。やっぱり、ディーは最高だね」

淑女として終わってるよね……。

「そんな顔しないでよ、アーシュ。ごめん、ごめん」

ディートハルトが私の頭を撫でてきた。

でも、やっと肩の力を抜いて、彼と話せた気がした。

うん、やっぱり私たちの関係はこうじゃなきゃ!

よし、今なら婚約解消の話もできそう……。

──そう思った矢先。

「母さんが、屋敷に遊びに来いって……」

彼が苦笑いを浮かべてそう言った。

「へ……? お母様が……? それはどういったご用で……」

学園を卒業してから、ディートハルトの実家には行っていなかった。

「最近俺も顔出してなかったし……。寂しいのかもね……」

「でも、弟くん結婚されたのよね? じゃあ、寂しくないんじゃない?」

「うーん。俺……、愛されてるからかな……」

それは確かに……。

でも、もしかしたらお母様の方から婚約解消の提案があるかもしれない……。

「分かったわ、今週末なんてどう?」

「ありがとう。じゃ、迎えにいくよ」

視線を感じて近くの窓を見ると、何人ものご令嬢がこちらをチラチラ見ていた。

「ディー、私はもう大丈夫だから、あなたを待ってるご令嬢とダンスを踊ってきたら?」

そう言った瞬間、ディートハルトの顔から温度が消えた。

「俺が女性苦手なの知ってて、言うんだ……」

ディートハルトの力強い腕が私の腰を持ち、ぐっと引き寄せられた。

そして、反対の手は後頭部に回され、頬と頬が触れ合った。

私の心臓は痛いほどに鳴り響いた。

彼の息づかいに耳が火照り、私は耐え切れず目を瞑った。

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