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第276話

Author: るるね
last update publish date: 2026-10-10 23:58:02

 慎一の口づけはあまりにも突然で、それでいて紗月にわずかな隙さえ与えないほど強引だった。

 腰へ回された腕にきつく抱き寄せられたまま、慎一が数歩前へ進む。紗月はその勢いのまま壁へ押しつけられ、彼の腕の中に閉じ込められた。

「んっ……や、め……」

 唇がわずかに離れた隙に、紗月はか細い声を漏らした。

 拒絶の言葉を最後まで口にするより早く、慎一の唇が再び重なり、その声ごと塞いでしまう。

 しばらくの間、部屋の中に響いていたのは、二人の唇が重なる湿った音と、次第に荒くなっていく呼吸、時折紗月の喉から漏れる苦しげな声だけだった。

 慎一に口づけられるたび、あの馴染み深い息苦しさが少しずつ紗月を包み込んでいく。

 腰を掴む手にも強い力が込められ、やがて痛みさえ覚え始めた。脚からも次第に力が抜けていく。

 慎一がもう一度唇を離した瞬間、紗月はようやく隙を見つけ、反射的にその頬を思いきり叩いた。

 実際に慎一へ手を上げたのは、おそらくこれが初めてだった。

 乾いた音が響いたあと、慎一だけでなく、叩いた紗月自身も一瞬その場で固まった。自分が本当に手を上げたのだと、少し遅れて実感したように、振り抜い
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