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ローランドの長い夜.知らなかった感情

Author: Kaya
last update Last Updated: 2025-07-08 18:19:00
 結婚してから一度も愛する事ができず、アデリナがやる事の大半に目を瞑ってきた。

 王室の評価を下げ、バカな事ばかりする彼女への興味は完全に失っていた筈なのに。

 つい最近まで、ずっと目を逸らし続けていたのに。

 最近ではアデリナに、こんな風に監視をつける必要も感じてなかった。

 だが……………………。

 ◇

 「あははは、もう〜降参!

 皆、足速すぎだから!鬼ごっこなんていつ以来かな!もー無理!疲れ過ぎて死んじゃう!」

 案内されたのは、アデリナが私に内緒で購入したという、人里離れた山中にある教会跡地だった。

 驚くべき事に、跡地は人が住める様に綺麗に改装してあり、外には軍の訓練所のような場所も作られていた。

 確かに、その場には幼い子供や少年達が数多くいた。

 何やらアデリナは、ホイットニー、そして見知らぬ白髪頭の男と共に、子供達と楽しそうに戯れている。

 見つからないよう私は建物の影に隠れ、兵達を近くに待機させてその様子を伺った。

 「……アデリナは何をしているんだ?」

 「分かりません……一見すると子供達と戯れてるようですが。」

 そうだ。馬から降り、隣で待機している側近の言った通り。

 「……あれが、奴隷達に虐待を加えたり、怪し気な実験をしているように見えるか?」

 「……見えません。」

 素直に側近はそう吐き出した。

 ———そうだ。アデリナは笑っていた。

 眩しいほどの笑顔で。

 いつか見たあの時の光景の様に。

 無邪気な顔で。

 私には一度も見せた事のない笑顔で。

 どうして私にはあの顔を見せてくれない…?

 え……?いや、私は一体何を………

 「アデリナ様!ほら、まだ鬼は終わってませんよ!早く早く!」

 そう言って嬉しそうにアデリナの手を引いたのは、あの時王宮に連れてきた奴隷の少年だった。

 鮮やかな黄色い髪。驚くほど小顔。

 ぱっちり開いた両目。薄いブラウン色の瞳の。

 王宮に連れてきたあの時とは、全く雰囲気が違う。

 痩せ細っていた体はふっくらと健康的に見え、何よりあの時は薄暗くて不気味だったのに、今は弾けるように笑顔だった。

 そうして少年はアデリナの手を引き、顔を赤く染めながら彼女の頬にキスを。

 ………何をしている!?

 彼女は私の妻だぞ……!!!

 「陛下……!?」

 咄嗟に体が動き、危
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