え?ちょっと待って……私まで公開告白をさせる気じゃないでしょうね? 動揺する私にローランドはさらに追い打ちをかける。 そして誰にも聞き取れないほどの小さな声で囁いた。 「———アオイ」 「え?」 「お前の魂がすでにアデリナじゃないのは分かってる。 だが、その事も全て含めて愛してる。 お前はアデリナであり、アオイでもある。 そんなお前を丸ごと愛しているんだ。 だから、私をこれ以上困らせないでくれ。」 え………ちょっと……… え?えええ!!! 予想外の展開過ぎる………!!! 私が上坂葵だって、正体がバレてたの!?? 一体、いつから………??? 顔を持ち上げたローランドは私の前髪をすくい、額にそっとキスをした。 「り、リジーは?リジーはどうなったの?」 「リジーはお前の悪い噂を言いふらした証拠と、自作自演で毒を飲んだ証拠を突きつけてサディーク国に送り返した。 厳しい修道院に送ったから、もう二度と出ては来れないだろう。」 「彼女と恋に落ちて…… 愛した、はずでは………」 物語の強制力は? ヒロイン補正は? それで恋に落ちたはずでしょ? 「すでに愛する妻がいるのに……?」 そう言ってローランドが優しい微笑みを浮かべる。 その時、久しぶりにウィンドウが出現した。 ずっと見れなくなっていたローランドの親密度の文字が……レインボーカラーに。 [ローランド 現在の親密度▷▷▷ すでに【真実の愛】に到達しています
ふと兵の間にいたランドフルに目線をやると、その通りですという風に頷いた。 え…………? 「いいか、アデリナ。 よく聞け。 私が愛しているのはお前だ……! 他の誰でもない。 私はお前を愛しているんだ………!! 私はアデリナ・フリーデル・クブルクを心の底から愛している…………!!!」 「え…………?」 え? その場がシン、となる。誰もがローランドの叫んだ言葉に、理解が追いつかずに。 だってこの人「氷の王」だから。 そんな人からこんな情熱的な告白が聞けるなんて誰も思ってなかったから。 「全く。お前が居なくなったのを知った時、私がどれだけ心臓を潰されるような思いをしたか。 これ以上、私をおかしくさせないでくれ。 お前は間違いなくクブルクの王妃だ。 そして私の愛する唯一の妻。 だから、早く私達の子を連れて、私の元に戻ってきてくれ……」 私の……愛する……唯一の……妻? 「頼む。もうこれ以上、気が狂いそうなんだ。」 ローランドの掠れた声が、私の耳元で聞こえた。 なぜならローランドが私を抱き寄せ、私の肩に蹲るように顔を埋めたから。 ええええええええええええええ? 今の……公開告白!?? こんなに大勢のクブルク兵や町民達の前で? 何それ、何その潔さ。 何よりそれ、本当なの? 「ローランド?……貴方が私の事を愛してるって……それ、本当に?」 「ああ、本当だ。嘘など言って
確かにローランドとの間には、信じられないくらい色々な事があった。 最初は1秒でも早く離婚したかったからずっと避けてたのに、なぜかローランドの方から近寄ってくるようになった。 私もいつの間にか、戦争によってローランドが苦しむのは嫌だと思うようになった。 だって戦争が起きれば、ローランドは戦場で瀕死の重傷を負う。 いくらリジーに会うためとは言え、すでにローランドは私にとって小説の中の人では無くなっていたから。 傷ついてほしくなかった。 それに戦争が起これば自国だけじゃなく、相手国でも多くの兵や国民達が死ぬ。 分かっていたから未然に防ごうとしてしまった。 何よりアデリナがローランドにずっと誤解され続けているのも嫌だった。 アデリナはとにかく不器用すぎた。 けれど確かにローランドを愛していたから。 それに本人に託されていたから。 私が変わった事でローランドは義務で私を大切にしてくれていたけれど、言われてみれば本当にそれだけだった? 私がこれまでに接したローランドは確かに生きて、笑って、時には人間らしく失敗だってしていたよね? ちょっと不器用な所もあったよね? アデリナに負けず劣らずツンデレタイプだったよね? 私がレェーヴ一派の山賊に襲われた時、助けに来てくれた。 あの時はめちゃくちゃ怒ってた。 ルナール達と交渉する時も、フィシに襲われそうになった時も。 何かする度に私の側に居て、困った時は間違いなく側で守ってくれた。 何だかんだ甘くて優しく包み込んでくれた。 妊娠してからは特に…… 「でも……その信頼を裏切ったのはローランドじゃない。 リジーが毒を盛られたからと私を冷たく突き放したのも、北棟に閉じ込めたのも、あの時寝室でリジーと二人きりなのを見せつけたのも。 結局ローランドは私の事を政略結婚の相手としてしか見ていなかった。 そうなんでしょう? だからリジーと恋に落ち
私がリジー毒殺未遂の犯人扱いされた時、話も聞かずにあんな風に溜息を吐いたくせに。 心底呆れたって顔をして、私を北棟に閉じ込めるように言ったくせに。 それから一度も会いに来なかったくせに。 リジーが目を覚ましたからと、寝室に呼びつけといて。 中にはすでにリジーを呼んでいたなんて。 事前なのか事後なのかは知らないけど、無事にヒロインと恋に落ちました。 ハッピーエンドですって見せつけたのは、貴方でしょ? どうしてヴァレンティンが産まれるまで待ってくれなかったのよ……… 「アデリナ……」 「来ないで………!」 「アデリナ……違っ、話を」 「来るなって言ってんでしょーが! このっ……最低の浮気クズ野郎が!!」 弱々しく近づいて来るローランドにブチ切れる。 周囲の兵達は困惑を隠し切れない。 また、隣のレェーヴはなぜか……肩を震わし笑っていた。……おいっ! 「何しに来たのよ?ローランド。 もう私に用はないはず。 私達はきれいさっぱり離婚したんだから。」 腕を組んでローランドを睨みつけてやる。 「離婚……? ああ、あの紙切れの事か? 残念ながらあの紙切れは破り捨てた。」 「え………?」 「アデリナ。お前と私の婚姻関係は今も継続中だ。知らなかったのか?」 「し……知るはずないでしょ! 何で?ローランドにはもうリジーがいるじゃない!」 だって貴方にはリジーがいればいいんでしょ? だって貴方はそういう人だもんね? 結局は原作通りにアデリナとヴァレンティンを
「おーい、火事だ!」 「向こうで火事だぞ!」 「大勢の人達が閉じ込められてる!」 ライリーを筆頭に、精鋭部隊訓練生の少年達が、兵達の前で一斉に叫び始めた。 中にはラシャドの姿も。目が合ったラシャドは笑顔で、私に目で軽く合図した。 「アデリナ様。ここは俺達にお任せ下さい。」 口パクでそう言っている。 ラシャド……!ありがとう!! 火事だと言いながら向こう側に走っていく彼らを、兵達は戸惑いながら追う。 後尾にいたライリーもまた、逃げる瞬間に私に目線で合図をしてきた。今です!と。 さすがはライリー!私の第二の推し……! 皆、本当にありがとう………!! 私とホイットニーはライリー達が注目を引きつけてくれている間に、レェーヴが働いている自警団に向かった。 その日はたまたまレェーヴが会社にいてくれて本当にラッキーだった。 成り行きを説明すると、レェーヴがすぐにヴァレンティンを抱き上げた。 「ならさっさとここから逃げるぜ。」 「ええ……!」 ここにいたら間違いなく、ローランドに捕まってしまう。 戦争もなくなり、愛するヒロインとも一緒になれたローランドが、今さら私を追ってくる理由はただ一つ。 ヴァレンティンだ……!! 悪いけど絶対、ヴァレンティンだけは貴方には渡さない!! 死んでも我が子は守る!! 私達は国を出るため、港に向かって走り始めた。 だけど追っ手が……… そしてついに私達はクブルクの兵達に取り囲まれてしまった。 その中に彼が。 ローランドがいた。 「アデリナ…………」 数ヶ月ぶりに会うローランドはなぜか凄く窶れ
何でクブルクの兵がこんな所に……? 穏やかないつもの午後。 休日だというホイットニーにヴァレンティンを預けて、私は夕食の材料を買いに町に来ていた。 そこでこの騒動。 中には王宮で何度か顔を合わせたクブルクの兵もいる。咄嗟に壁際に隠れてやり過ごした。 王宮の兵という事は、私達を探してるのは間違いなくローランドだ。 何で今さらローランドが私を探してるの? 私達はもう離婚したのよ? あの後ローランドは、リジーと幸せになったはずでしょ? なのに私とヴァレンティンを探してるって事は………やはり物語の強制力というやつで!? 本来なら私もヴァレンティンも死ぬはずだから、その未来通りに! ……逃げなきゃ! ヴァレンティンを守らなきゃ!! 何とか兵達に見つからずに無事に家までたどり着く。 ホイットニーに状況をうまく説明する間もなく、私は荷物をまとめ始めた。 「ホイットニー、悪いんだけど、今すぐ家を出る準備をして!」 「え?一体どうされたのですか? アデリナ様!?」 「ローランドが……私とヴァレンティンを探し回っているみたい。」 「え……ローランド様が?なぜ今さら? もうお二人は離婚なされたはずでは……」 「分からないけど…… もしかしてヴァレンティンの王位継承とかの問題をめぐって、殺すためかもしれない。」 下手したらリジーに子ができた可能性もある。 その為に邪魔なヴァレンティンを狙っているのかも。 「そんな……果たして本当にそうなのでしょうか?」 「分からないけど、今は確認してる暇はないの! とにかく必要な物だけまとめてくれる?」