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第10話

作者: 安田徹
和歌奈は反撃しようとしたが、視界の端にドアの外に立つ翔悟の姿が映ると、すぐに態度を変え、わざとらしく静野を支えにいった。

「ちょっと、何してるの?落ち着いて。あなた、さっき子どもを失ったばかりなのよ?そんなに興奮しちゃダメでしょう?」

「消えてって言ってるでしょ!気持ち悪い......あんたたち、全員気持ちが悪いよ!」

静野は手を振り上げ、再び和歌奈の頬を何度も強く叩いた。

「静野!」

ドアを押し開けて入ってきた翔悟は、その光景を見るなり激昂し、彼女に向かって思いきり平手打ちを浴びせた。

「何を騒いでいるんだ!言っただろ、和歌奈とはそういう関係じゃないって!それなのにまだ彼女に手を出すのか!?」

その一撃が、静野の心に残っていた最後の支えを完全に打ち砕いた。

彼女はその場に立ち尽くし、ただ呆然と目の前の男を見つめる。

もう何の反応もできなかった。

「きっとショックが大きいからよ......さっき子どもを失ったばかりだもの。翔悟、私は大丈夫だから、そんなに怒らないであげて」

和歌奈が取り繕うように言うと、翔悟もすぐに気を取り直し、声を和らげて彼女をなだめた。

「......ごめん、ちょっと言い過ぎた。でも言っただろ?もう彼女を叩くなって」

静野は何も答えず、ただ彼を見つめるだけだった。

その視線に、翔悟は一瞬胸を痛めたような表情を見せ、彼女を抱き上げてベッドに戻す。

「祖母にはもう話してある。3日後に退院したら、そのまま結婚しよう。この数日、俺は用事あるから来てやれないが、ゆっくり休め」

布団をかけ終えると、翔悟は和歌奈を連れて部屋を出ていった。

去り際、和歌奈は振り返り、挑発するような視線を静野に向ける。

涙が頬を伝い落ちる。

静野は体を起こし、スマホを手に取って洋子に電話をかけた。

「おばあさま......もう3日です。私はもう、翔悟と結婚したくない......以前おっしゃっていた留学の件、まだ有効でしょうか」

「どういうこと?翔悟からは仲直りしたと聞いていたけれど......」

「彼はあの女のために、私の子どもを奪いました。もう許せません。だからおばあさま......どうか、私を助けてください」

「なんてことを......!泣かないで、静野ちゃん。結婚は取り消すわ。留学もすぐに手配する。もともと結婚後に行かせるつもりだったけど......今すぐ準備するから」

「明日、出発できますか?できるだけ早く行きたいんです」

「分かったわ。パスポートや必要な書類は、すぐに病院へ届けさせるから」

その夜、静野は一睡もできなかった。

スマホは鳴り続けていた。

翔悟からの着信やメッセージだろう。

だが、彼女は一切確認しなかった。

翌朝早く、洋子の手配した人が迎えに来た。

病院の入口に立つ静野のやつれた姿を見て、運転手は思わず声をかける。

「砂川様、お荷物はお持ちにならなくてよろしいのですか?」

「大丈夫です」

彼女は首を振った。

あの家に戻る気など、微塵もなかった。

「では、参りましょう。こちらがパスポートと書類になります」

車に乗る前、彼女はスマホを取り出し、そのまま病院の前のゴミ箱に投げ捨てた。

空港。

静野は搭乗ゲートに立ち、行き交う人々を一瞥することもなく、そのまま飛行機に乗り込む。

機体が滑走路を離れた瞬間、彼女は静かに目を閉じた。

「さようなら、翔悟。お望み通り、消えてやるわ」

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