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第2話

Penulis: 浅川夜
美陽はそっと圭を押し戻すと、震える足取りで立ち上がり、そのまま浴室へと向かった。

静まり返った部屋にドアの閉まる音がひどく鮮明に響く。それはまるで、外にいる圭との間に引かれた、明確な境界線のようだった。

シャワーを浴びながら、美陽は冷たいタイルの壁に寄りかかった。顔を叩く水流が、水なのか涙なのか、もう判別がつかなかった。

長い時間をかけて体を拭き、清潔で柔らかいパジャマに着替えてから、美陽はようやくドアを開けた。

リビングには薄暗いスタンドライトが一際灯っているだけだった。ソファに座る圭は寝室に背を向け、微動だにしない。

その指に挟まれた火のついていないタバコが、彼が懸命に何かを堪えていることを物語っていた。

美陽は圭に視線を留めることなく、そのまま主寝室へと歩を進めた。

カチャリ――

再び響いた鍵をかける音。

圭はそのままの姿勢でしばらく座り続けていたが、やがて寝室のドアの前まで歩み寄った。手を上げ、ノックしようとしたのか、あるいはただドアに触れようとしたのか。

だが結局、その手は力なく垂れ下がった。

彼は背を向け、バルコニーのガラス戸を開けた。

冬の夜の冷気が一気に流れ込み、全身を刺す。

圭は手すりに掴まり、ぼやけたネオンとまばらな車の流れを見下ろした。冷たい風が胸を通り抜けていく。

自分が今、どんな感情を抱いているのかさえ分からなかった。ただ、今の局面をコントロールできず、どう解決すべきかも分からない。

これほどの窮地に立たされることは、彼の人生において稀だった。進むも退くも、そこには深淵が広がっている。

心のどこかで、まだ期待していた。彼女がもう少し待ってくれることを。以前のように、怒り、泣き喚いた後には、また笑顔で腕の中に収まってくれることを。

美陽は散らかった床を避け、乱れたシーツを整えると、明かりを消してベッドに潜り込んだ。

暗闇が視界を塗りつぶしていく。狂乱の後のひどい疲弊感に襲われ、彼女はただ、このままずっと目を開けたくないと思った。

不思議なことに、今夜の眠りはひどく穏やかだった。まるで音のない深い淵のように。

翌朝、カーテンの隙間から差し込む重苦しい光に、美陽は抗うように目を開けた。

圭に対するわずかな期待も、眠りとともに闇に葬り去られていた。身支度を整え、ゆったりとした清潔な服に着替えてドアを開けると、リビングの冷気に思わず身震いした。

圭はまだバルコニーに立っていた。凍りついた彫像のように、その背中は強張っている。

美陽は俯き、足音を忍ばせて彼を避けようとした。もう、彼の顔も見たくないし、言葉も聞きたくなかった。

「どこへ行くつもりだ?」

圭が振り返った。その目は血走り、顔には一夜を明かした疲労が色濃く滲んでいた。

「病院よ」

圭の喉仏が大きく動いた。

「……俺も行く」

「必要ないわ」

彼は数歩で詰め寄り、崩壊寸前の固執を込めた声で言った。

「意地を張るな。中絶手術は軽いことじゃないんだぞ」

その言葉に、美陽の心は完全に氷結した。

彼は疑いもしなかった。自分が「当然のように」子をおろしに行くのだと。自分は彼の心の中で、最初から大した重みを持っていなかったのだ。

美陽はそっと目を閉じ、沈黙したまま歩き出した。圭は上着を手に取り、その後ろを追った。

病院の中は、消毒液の匂いが冷たく鼻を刺した。

受付、待ち時間、検査……流れが不気味なほど淡々と進んでいく。

手術台に横たわると、背中から冷たい感触が伝わってきた。

静脈に麻酔薬が流し込まれ、ひんやりとした眠気が血管を伝って広がっていく。

意識が遠のく中、美陽の心だけは麻酔を拒むように、異様なほど冴えわたっていた。

父親に望まれず、あるいは人生の重荷を背負わされて生まれてくるような不運を、この子に与えるわけにはいかない。

圭が悪いのではない。間違っていたのは、自分なのだ。

愛があればすべてを乗り越えられると信じた甘さも、飛んで火に入る夏の虫のような愚かさも、この子が産まれる機会を奪ったのも。

おそらく、最初から始まらなければよかったのだ。

そうすれば、こんな無残な結末を迎えることもなかった。

自分はこの恋に、持てる力のすべてを使い果たした。

甘い期待から始まり、待ちわび、すり減り、そして狂乱へ……

今の自分は、自分でも見知らぬ誰かのようだった。

張り詰めすぎた糸が、ついに断ち切られる限界に達した。

もう、こんな生活は続けられない。

すべてを静寂に戻さなければならない。間違いをここで止め、泥沼から抜け出さなければ、本当に気が狂ってしまう。

火に飛び込むこともできるけれど、注いだ感情を一つ一つ取り戻すこともできるのだ。

麻酔が切れ、意識が混沌とした深海からゆっくりと浮上してくる。

美陽が目を開けると、天井がぐるりと回った。

「気がつきましたか?気分はどう?観察室で三十分ほど休んでくださいね」

看護師の声が、遠くから響いた。

美陽は無意識に下腹部へ手を添えた。体の奥底から、引きずり込まれるような鈍い痛みが伝わってくる。

彼女は何も言わず頷き、看護師に支えられて移動用ベッドに移された。

三十分後、世界は形を取り戻し、混沌としていた意識がようやく完全に引き戻された。

「もう行っても大丈夫ですよ」

看護師に支えられてベッドを降り、冷たい床を踏む美陽の足元はふらつき、胸の奥から突き上げるような痛みに視界が眩んだ。

観察室のドアが開くと、そこにはひどく顔色の悪い彼女が、下腹部を押さえながら一歩ずつ這い出すように現れた。

ドアの外でずっと待っていたのだろう、圭は美陽を見るなり眉を険しく寄せ、慌てて駆け寄ってきた。

「痛むんだろう……まずは家に帰って休もう」

彼が手を差し伸べた。だが、美陽はその手を強く払い除けた。

「触らないで!」

美陽は冷たい壁を支えに、一歩、また一歩と前へ進んだ。

――自分の足で歩かなければならない。

この三年間、自分はあまりにも圭に依存しすぎた。彼の世界、そして「待つこと」という檻に自分を閉じ込めていた。

今、ようやく目が覚めたのだ。たとえ骨身にこたえる痛みがあろうとも、耐えて、一人で歩いていく。

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