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33.新しい出逢い

last update Dernière mise à jour: 2025-11-02 18:03:40

佐奈side

「佐奈ちゃん、おまたせ――――」

家まで迎えに来てくれた蓮のポルシェのSUVに駆け寄って、助手席のドアを開けると、アクアマリンの爽やかな芳香剤の香りと、革張りの重厚感のあるシート、それにケーブルで繋がれたスマホから流れる最新のヒットソングが私を出迎えてくれた。

「蓮さん、迎えてきてくれてありがとうございます。」

「いいよ、気にしないで。今日は、遠くにドライブでも行こうと思っているんだけど、時間は大丈夫かな?」

私が頷いて助手席のシートベルトをつけたのを確認してから、蓮は軽快にアクセルを踏んで首都高に乗るために走り出していく。背が高く栗色の明るい茶色の髪に緩くかかったパーマはおしゃれで、鼻が高く掘りの深い顔はサングラスをかけると海外のモデルのようでよく似合いかっこいい。ハンドルを握る蓮の横顔を見ながら、私は流れてくる曲を小さく口ずさんでいた。

蓮は、私より三歳年上で父と行った財界のパーティーで知り合った。パーティーも含めると今日で会うのは五回目、二人きりだと三回目のデートになる。

颯に一方的に別れを告げられてから二年半が経ち、実家に戻った私は何度も父に連れられて様々なパーティーに参加していた。時には、縁談をしたり、相手の男性と二人だけで出掛けることもあったが、会話のテンポや考え方などちょっとしたことで相手に興味を持てなくなり、一、二回会って終わりの人が多かった。五回も会うのは蓮が初めてだった。

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