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第4話

Author: こなみ
ある日の午後、夕奈がソファでくつろぎながら携帯を見ていると、友人のライブ配信の通知が届いた。ライブ名は「幸せな瞬間」だった。

なんとなくタップしたその瞬間、動画に映し出された景色を見て、夕奈は凍りついた。

沈む夕日に照らされる砂浜。

白いベールが風に揺れ、地面一面には淡いピンク色のバラの花びらが敷き詰められている。

決して豪華絢爛というわけではないけれど、言葉にできないほどロマンチックだった。その側では何人かの友人が、笑顔で拍手を送っている。

その中心にいるのは、白いロングドレスを身にまとった杏。長い髪を風になびかせている姿は、まるで御伽噺の中から抜け出してきたお姫様のようだった。そして、その瞳には感動の涙が浮かんでいる。

そして瑛介は――彼女の前で膝をついていた。

手には真紅のバラの花束。スーツを完璧に着こなし、夕奈が一度も見たことのないほど優しく、そして真剣な表情を浮かべている。

こんなにもロマンチックなプロポーズ……夕奈がずっと夢見てきたものだった。

けれど、その夢が叶うことは一度もなかった。

あの頃、まるで契約を結ぶように、二人の結婚は両家の話し合いで決められた。

眠れぬ夜、夕奈は何度も思い浮かべた。もし瑛介が自分に改めてプロポーズしてくれたら……それがたとえ形式だけのものだったとしても、自分は涙が出るほど幸せに包まれるのだろう、と。

しかし現実は厳しく、結婚式の日取りが両家の食事会で淡々と決められていくだけだった。

それもそうだ。

瑛介は自分のことなど愛していないのだから、プロポーズをする必要なんてないのだ。

最初から最後まで、この結婚を望んでいたのは自分だけ。

配信のカメラがふたりのアップに切り替わり、瑛介がポケットからダイヤモンドの指輪を取り出した。

その瞬間、夕奈の瞳が大きく見開かれる。

それは深山家に代々伝わる、ルビーがあしらわれた指輪。深山家の妻となる女性の証だった。

自分たちの結婚式の時、瑛介は失くしてしまったと言っていたのに。

失くしてなんかいなかったのだ。

彼はただ、最初から自分に渡すつもりがなかっただけらしい。

夕日にきらめくその指輪は、あまりに眩しくて、見ているだけで目が痛い。

夕奈は携帯をそっと消した。

手に持っていたブランデーをあおる。

刺激的な液体が喉を通り、胃が焼かれているのではないかというほど熱くなったが、凍りついた心までは温めてくれなかった。

痛み、屈辱、言いようのない悔しさ……それらをアルコールで奥深くまで沈めていく。

夕奈が深い眠りから引き戻されたのは、激しく身体を揺さぶられた時だった。

夕奈が目を開けるよりも先に、襟首を掴まれ、ソファから引きずり出される。

目の前には、目を真っ赤に充血させた瑛介がいた。

「夕奈!どうして杏の薬をすり替えたんだ?杏が死ぬところだったんだぞ!」

激しく揺さぶられ、夕奈の頭はくらくらした。耳の奥では、絶え間なく耳鳴りが響いている。

なんとか相手の言った言葉を理解した夕奈は、必死に首を振った。「何言っているの?薬なんか触ってすらないから」

「まだしらを切るのか?」瑛介の手にさらに力がこもる。彼は夕奈の首を掴み、その身体を壁へ押しつけた。

彼の瞳に浮かぶのは、隠しようのない嫌悪と怒り。「杏の薬はここ数日、ずっとこの家に置いてあった。お前以外に、誰が触れるっていうんだ?」

酸素が少しずつ奪われていく。顔は赤く染まり、息も絶え絶えになった……

必死に瑛介の腕を叩き、かすれた声で訴える。「この家には……防犯カメラがあるでしょ……まずは映像を確認して……本当に私が触ったのかどうか……」

苦しそうに喘ぐ夕奈を見て、瑛介はわずかに手の力を緩めたが、それでも完全には放さない。

瑛介が冷たく鼻で笑う。「夕奈。俺が、お前の考えていることが分からないと思っているのか?お前はただ、杏に嫉妬しているだけ。俺は、お前が本当に俺のためを思ってくれていると信じたから、偽装離婚を受け入れた。でもまさか、杏を追い出すのが目的だったとはな!」

ようやく瑛介の手が離れ、夕奈は床に崩れ落ち、激しく咳き込んだ。

「瑛介……本当に私は薬なんて変えてない!」

瑛介は氷のように冷めた瞳で、俯いた彼女を見下ろした。「今も杏は集中治療室にいるんだ。もしあいつになにかあったら、お前に責任を取ってもらうからな」

続いて使用人に命じる。「妻がいつも飲んでいる薬を全部持ってこい」

使用人は少し戸惑ったが、結局は瑛介の言葉に従った。

しばらくして、夕奈の薬がテーブルの上に並べられた。それは彼女の喘息を抑えるために常備している命綱。

しかし瑛介は躊躇なく、それらをゴミ箱の中へと払い捨てた。

夕奈の瞳が大きく見開かれる。すぐに床を這ってゴミ箱に向かった。「何してるの!これは私の大切な……」

「お前の……何だって?」そう言って瑛介は夕奈を強引に起き上がらせ、寝室に放り込むと外から鍵をかけた。

ドアの外から、瑛介は冷たく言い放つ。「お前が杏の薬をすり替えたんだろ?お前にもあいつと同じ苦しみを味わわせてやる」

夕奈は死に物狂いでドアを叩いた。

「ここから出して!瑛介、お願いだからドアを開けて!」

しかし、返事はない。

夕奈は部屋の隅で丸くなり、自分の肩を抱きしめた。その瞬間、呼吸が荒くなってきていることに気がつく。

発作が始まった。

胸に重たい石がのしかかるように、一回息を吸い込むだけでも、まるでナイフで喉を削られるような痛みに襲われた。

ドアまで這いずり、なんとか力を振り絞ってドアを叩き続ける。「お願い……助けて……誰か……」

外にいた使用人たちは中の異変に気づいていたけれど、誰も助けることができなかった。

彼らは瑛介の非情な性格を知っていたから、逆らう勇気などなかったのだ。

夕奈の声はしだいに弱くなり、最後には完全に消えた。

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