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第4話

Author: 結奈々
「奥様、お帰りなさいませ」執事がいつも通りに挨拶した。

遥真と玲奈が振り返る。玲奈は柚香の姿を見ると、一瞬ためらいながらも声をかけた。「柚香」

柚香は彼女を一瞥もせず、視線を逸らしたまま真っすぐ階段を上がっていった。

もし彼女の顔を見たら思わず怒鳴りつけてしまいそうだ。

「玲奈が挨拶したの、聞こえなかったのか?」遥真の冷たく淡々とした声が響く。「それとも、橘川さんはそんなに礼儀知らずな人間なのか?」

柚香の足が止まった。

――橘川さん?

振り返ってふたりを見据え、皮肉が口をついて出た。「不倫相手を家にまで連れ込んでおいて、私に礼儀を求めるの?」

「ここは俺の家だ。どう過ごそうが俺の勝手だろ」遥真は淡々とした口調で言う。「気に入らないなら、出ていけばいい」

柚香の手がぎゅっと握られる。

彼の気持ちがもう自分にないことなんて、わかっていた。それでも、実際に口にされると、胸の奥が締め付けられた。

「ここは君の家でもある。俺のものは全部、君のものだ」と、昔彼は自分に言ってくれたのに。

「遥真、柚香はあなたの奥さんなんだから。そんな言い方、あんまりじゃない?」玲奈がなだめるように言った。

「チャンスはやった。でも要らないって言ったのは彼女の方だ」遥真はそう言いながら、柚香を見た。

柚香もまた、彼をまっすぐ見返す。

どちらも一歩も引かない。

「柚香、遥真にちゃんと謝ったら?本当はあなたのこと気にしてるんだし、きっと許してくれるわ」玲奈は穏やかな笑みのまま、静かに油を注いだ。

「言われなくても出ていくつもりよ」柚香は一切取り合わず、声を強めた。「こんな、ろくでもない男と女の匂いしかしない場所、もう一秒もいたくない」

そう吐き捨てて階段を駆け上がる。まるで、汚れた空気から逃げるように。

「ドンッ!」扉が勢いよく閉まる音が響いた。

部屋に入るなり、柚香はスーツケースを引っ張り出して荷造りを始めた。遥真の挑発だとわかっていた。それでも、もう我慢できなかった。

身分証や重要な書類をまとめ終えると、彼女はクローゼットへ向かった。

無数の服やバッグ、アクセサリーが並ぶ中で、一瞬だけ手を止める。

けれど次の瞬間、迷わずジュエリーコーナーへと向かった。

――今はお金が必要だ。これを売れば、しばらくはなんとかなる。

箱を取り出そうとしたそのとき、遥真が玲奈を連れて入ってきた。

「柚香、そんな扱い方したら、ジュエリーがかわいそうだよ……」

玲奈は、数え切れない限定品やオーダーメイドのジュエリーを見て、目を輝かせる。「まさか、売るつもり?」

柚香は冷たく答えた。「あなたに関係ないでしょ」

玲奈はちらりと遥真を見てから、さらに言葉を重ねた。「でもそれ、全部遥真があなたに贈ったものよ?どうして売るなんてことができるの?」

「黙ってて」柚香が怒り出すと、その名前から想像する穏やかさはどこにもなかった。

そのやり取りを黙って見ていた遥真が、ようやく口を開く。「人の宝石を盗む趣味まであったとはな」

柚香の手が止まった。

――盗む?

「もし警察に届けたら、何年くらい刑務所に入るんだろうな」遥真は静かに言った。

「まだ離婚は正式に成立していないし、それにこれらはあなたが私に贈ったもの。どう考えても『盗み』じゃないでしょ?」柚香は言い返した。

遥真は一歩、彼女に近づく。穏やかな声のまま、容赦のない言葉を放つ。「じゃあ証拠を見せろよ。これが贈り物で、俺のコレクションじゃないって」

柚香は息を呑んだ。

――そうか。彼は、何ひとつ持ち出させる気がないんだ。

自分の逃げ道を、徹底的に塞ぐつもりなんだ。

「持っていくなら止めない。ただし、離婚が成立したその日に、家に泥棒が入ったって、通報する」遥真は容赦なくそう言い切った。
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