共有

第52話

作者: 結奈々
「それが『事情』って言うなら、今すぐ私と一緒に病院へ行って、お母さんに土下座して謝って」

柚香の言葉は、容赦なくはっきりしていた。

父は手にしていたグラスを置き、ゆっくりと立ち上がる。

柚香は、てっきり一緒に来るのだと思った。

ところが次の瞬間、さっきまでの沈んだ様子が嘘のように消え、顔つきが一変する。鋭くて、陰湿な色さえ帯びていた。

「俺に頭を下げさせる?あの女に?笑わせるな」父は一歩ずつ近づきながら、ようやく本性を露わにする。「忘れるなよ。俺がお前とあの女を京原市に置かなかったら、お前なんか一生、遥真みたいな身分の男と関われるわけなかったんだ」

その言葉で、柚香にも分かった。父が自分に会った目的は、謝罪なんかではない。

「お前は感謝すべきなんだよ」父の声は徐々に熱を帯びていく。「俺のおかげで、ああいう家の『奥さん』になれたんだからな」

「……お母さんがどうして昔、目が曇ってあなたみたいな人を選んだのか、本当に理解できない」柚香のなかで、最後の情がすっと消えていく。そう言い捨て、踵を返した。

「もう一回言ってみろ!」怒りに火がついた父が腕を掴み、力任せに引っ張ってソ
この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター
コメント (1)
goodnovel comment avatar
Yuri
あぁ… お父さんもクズだった
すべてのコメントを表示

最新チャプター

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第186話

    「彼、あなたと一緒に原栄ゲームの十周年記念イベントに行ったんでしょ」玲奈の声が続いた。「悪いんだけど、彼を探してきてもらえない?今ちょっと体調が悪くて、しんどくて……」「いくら出すの?」柚香はもう、彼女のこういうやり方にも動じなくなっていた。玲奈は一瞬言葉に詰まる。そんな返しが来るとは思っていなかったのだ。「二十億以下なら話にならないよ」柚香は軽く言った。「そんな小さな案件に付き合ってる暇ないし」「わ、私は……」ツ――柚香はあっさり電話を切った。彩乃たちの視線が一斉に彼女へ向く。誰と話していたのか気になっている様子だ。「柚香、今のって?」「迷惑電話。適当にあしらっただけ」そう言いながら、柚香はドレスに着替え、手際よくナチュラルメイクを仕上げ、髪もさっと整えた。そのスピードに、絵理や彩乃たちは思わず見とれてしまう。本番まで残り三十分もない中、柚香は自分の準備を終えると、続けて彼女たちのメイクやヘア、アクセサリーの調整まで一気に仕上げた。「その腕前、なんでメイクの仕事しないの?」彩乃は出来上がった仕上がりに感心して、思わず口にした。柚香は一瞬手を止める。――たしかに……副業でメイク、ありかも。二十分後、いよいよ柚香たちの出番が回ってきた。演目は「原栄」。原栄ゲームの第一作「原栄」をモチーフにしたもので、柚香がピアノを担当し、残りの四人がゲームのキャラクターを演じる構成になっている。十周年記念のテーマは「初心」。それを見た柚香は原栄について徹底的に調べ、最終的にこの演目を選んだ。「奥さん、なかなか人の心つかむのうまいな」時也はプログラムを見て、素直に感心したように言った。「原栄ゲームの創業メンバーがこれ見たら、満点つけるだろ」遥真は黙って柚香を見つめている。ステージに座る彼女は気品に満ち、白く細い指が鍵盤の上をなめらかに走る。ここ最近では見たことのない、落ち着きと自信に満ちた表情だ。その視線の熱に気づいた時也が何か言おうとしたその時、ポケットのスマホが突然震えた。「もしもし」軽い調子で出る。「時也さん、こんにちは。玲奈だよ」電話口から玲奈の声がした。時也は一瞬固まり、思わず隣に立つ遥真を横目で見る。その視線に気づいた遥真が自然に聞く。「どうした?」「……遥真、い

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第185話

    柚香が二階に戻ると、絵理がすでに部署の休憩室で待っていた。彼女を見るなり、自然に声をかけてくる。「どう?対応できそう?」「大丈夫です」柚香は正直に答えた。桐也なら、対処できる。あの人は昔、真帆に痛い目を見せられているから、本気で何かしてくることはない。「今夜はずっと私のそばにいなさい」絵理は多くを説明せず、彼女を見つめたまま言う。「何かあったら、私が片付けるから」柚香の目に、わずかな思案の色が浮かんだ。絵理は大人っぽくて頼れる雰囲気のまま、「どうしたの?」と聞いた。「もし今夜トラブルがあるなら、相手は桐也より立場が上の人たちだと思います」柚香は誰かに迷惑をかけたくなかった。絵理は頼もしいけれど、それでも。「やっぱり自分で対処したほうがいいですよ」「私のこと、信用してないの?」絵理が聞いた。「信用してますよ」柚香は本音で答える。「だからこそ、自分でやったほうがいいと思います」絵理はかっこよくて、そばにいると安心できる人だ。もし誰かがわざと揉め事を起こしても、彼女ならきっと上手く収められるだろう。でもそうなれば、絵理が目をつけられてしまう。彼女の生活をややこしくしたくないし、この泥沼に巻き込みたくもなかった。「わかった」絵理は無理に押さなかった。「何かあったらすぐ言って」「わかりました」その後の午後の時間は、柚香はずっと会社の指示に従って、出し物のリハーサルをしていた。彼女と絵理、それから彩乃たちの出番は中盤に組まれている。時間はあっという間に過ぎ、気づけば午後六時。十周年記念イベントが予定どおり始まった。司会者が熱のこもった口調で、原栄ゲームのこれまでの歩みを語り、その後は数人の幹部が挨拶をする。社員たちは整然とホテルのホールに座っていて、柚香もその中にいた。幹部のスピーチが終わると、いよいよ出し物が始まる。リストに沿って順番にステージへ上がり、柚香たちの出番が近づくと、彼女たちは先に控室へ移動して準備を始めた。時也と遥真は二階から、その様子をすべて見渡していた。時也は下の人混みに視線を走らせてから口を開く。「あいつら、もうこっちに向かってきてるぞ。本当に柚香さんを狙わせたままにするつもりか?」遥真は黙ったまま、何も答えない。「後悔しないのか?」時也がさらに問いかける。「君、来ないって言っ

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第184話

    「わかってる」と時也が言った。遥真は続ける。「彼女は、誰にも頭下げて謝るような人じゃない」出会った頃からそうだ。見た目はか弱くて甘えた感じなのに、芯は驚くほど強い。彼女に謝らせる?高橋家の坊ちゃんごときに、そんな資格があるか。「ほんと矛盾してるよな」時也は何度目かもわからない呆れ顔で言った。「彼女を放っておいて他人にいじめさせるのは君なのに、いざいじめられるのは見たくないって言うんだから」遥真は無言のまま、モニターの映像をじっと見つめる。「いっそ完全に手を引いて、柚香さんを好きに生きさせればいい。何があっても、たとえ死んだって関わらないってね」時也は続ける。「それが無理なら、最初から最後まで守り抜けよ。誰にも傷つけさせるな」遥真は何も答えない。視線はずっと監視映像に向けられたままで、手元のスマホにはすでにホテル支配人の番号が表示されていた。その様子を見て、時也はそれ以上何も言わなかった。どうせ聞く耳を持たないとわかっている。この時、柚香は自分の様子が遥真に見られていることなど知る由もなく、桐也もまた自分が監視されているとは思っていない。「いいですよ、謝ります」柚香は桐也と視線を合わせた。「さっきは、高橋さんが十八の時のことを持ち出してしまって……」「黙れ!」桐也が勢いよく立ち上がる。柚香は途中で言葉を遮られた。桐也は拳をぎゅっと握る。あの時のことを、うっかり口にされるのが怖かった。「クビだ」桐也は怒りに任せて言い放つ。「こんなやつ、絶対にクビにするべきだ」「それは……少し難しいですね」黒田部長は二人のやり取りから、過去に面識があることを察していた。「うちの部署は久瀬社長の管轄なので、退職も解雇も、すべて久瀬社長の許可が必要なんです」桐也は一瞬言葉に詰まり、最近耳にしていた噂を思い出して、思わず眉をひそめる。まさかあの久瀬家の次男が、柚香のためにこんな上場したばかりの小さな会社まで関わっているのか?黒田部長が探るように口を開く。「よろしければ、今のお話を社長に伝えましょうか?」「いや、いい」桐也は即答で拒否した。そんなことをしたら、どうなるかわからない。遥真は公にはもう柚香を以前のように守らないと言っているが、それでもわざわざこの会社に関わっている以上、何か理由があるはずだ。こんな

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第183話

    「どうぞ」柚香はふいに落ち着いた声で言った。桐也「?」桐也は疑いの目で彼女を見つめた。「俺がやらないとでも思ってるのか?」「バラすつもりなら、どうしてまだ行かないの?」柚香は彼の反応を見て、ますます自分の予想が当たっていると確信した。桐也は奥歯をぎりっと噛みしめた。もし遥真が業界内で「自分の許可なしに、誰も原栄ゲームの人間に自分と柚香の関係を漏らすな」と釘を刺していなかったら、言わないはずがない。――この女。昔と変わらず、ほんとにイラつかせる。「今ここで言ったら、この後、真帆の拳があなたの顔に飛んでくるわよ」柚香はそう口にしながらも、内心では自分と遥真の関係について、あの人が何かしら念押ししているはずだと考えていた。でなければ、桐也のような性格なら、自分を呼ぶとき、昔のように嫌味たっぷりで「久瀬夫人」なんて言ってくるはずだ。「いい加減にしろよ!」さっきまでの余裕は一瞬で消えた。「真帆は今ここにいないんだ。俺が今君に何をしても、助けには来られない」「うん、確かにそうだね」柚香はあっさりと頷いた。桐也はさらに腹が立った。とはいえ、柚香に対してはどうすることもできない。今は遥真が彼女を守っていないとはいえ、背後には真帆と怜人がいる。あの二人も相当厄介だ。「高橋さんがお好きなものが分からなかったので、ひと通りご用意しました」黒田部長がスタッフを連れてやってきた。手には高級酒やコーヒー、ジュースが載ったトレイがある。「ほかに何かご要望があれば、お申し付けください」柚香はわずかに眉をひそめた。桐也は服を整え、苛立ちを押し込めるように息を吐いた。「さっき言ってた、彼女が君の部署の原画担当?」彼は仕返しのやり方を変えることにした。相手が遥真じゃないなら、最悪ぶつかっても構わない。黒田部長は一瞬だけ言葉に詰まった。「はい」――知り合いじゃなかったのか?「彼女、接客のレベル低すぎないか?」桐也は不満をぶつける。「俺は金持ちで世間知らずだとか言うし、見た目や服装までバカにしてきた」柚香「?」桐也は続けた。「謝れって言っても、あからさまに不満そうな顔だし」「新人で至らない点がありまして、代わりにお詫びいたします」黒田部長は笑顔で頭を下げた。「あとでしっかり指導しますので、どうかお気を悪くなさらず」

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第182話

    そんな昔のことまで、まだ根に持ってるのね。「橘川家のお嬢様って、どの橘川家のお嬢様ですか?」黒田部長は少し考え、「あの倒産した橘川グループのお嬢様のことですか?」「もちろん」桐也はためらいもなく柚香を売った。柚香の胸が思わずざわつく。この人たちは、自分が遥真と付き合っていたことまでは知らないにしても、当時の結婚式はかなり盛大だった。関係の近い人や、それなりの立場のある人たちはみんな招かれていた。少し上の人に聞けば、知られてしまう可能性は高い。そうなったら、仕事どころじゃなくなる。「違うよ」桐也がさらに一言付け加えた。黒田部長「???」周囲の人たち「?」――結局どっちなのよ!「橘川グループのお嬢様のほうが、ずっとおとなしいよ」桐也はでたらめを言い始める。「礼儀正しくて、穏やかで上品で、彼女なんか半分も及ばない」柚香はますます彼の意図が読めなくなった。だが、この男がろくでもない考えしか持っていないことだけは分かる。「皆さんは先にどうぞ。私はこの橘川さんと少し話がある」桐也はそう言いながら、視線はずっとからかうように柚香を見ている。「じゃあ何かあったら呼んでください」黒田部長は空気を読んで邪魔せず、柚香に念を押した。「高橋さんをちゃんとおもてなしして、失礼のないようにね」絵理は様子を見て、口を開こうとした。柚香が「大丈夫」と目で合図すると、絵理もそのまま人の流れに従って去っていった。周りにはあっという間に二人だけが残る。桐也は柱にもたれかかりながら言った。「あいつらに知られるのがそんなに怖いのか? 自分が破産して、今はただの会社員になったってことを……」「何しに来たの?」柚香は答えず、逆に聞き返した。「もちろん、原栄ゲームの十周年イベントに出席しに来たんだよ」桐也はごく自然に言う。「ついでに、昔あれだけ偉そうだったお嬢様を見物しにな」柚香は相手にする気もなく、そのまま歩き出す。桐也はゆっくりとその横についてくる。「さっき上司たちに、俺をちゃんとおもてなししてって言われてたよな」彼女が止まる気配もないのを見て、わざとらしく言った。「このあと、君が失礼な態度を取ったって言ったら、どうなると思う?」「好きにすれば」柚香は動じない。「じゃあ、君と久瀬家の次男のことを話したら?」桐也は立

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第181話

    若い男が一人、高級そうなスーツを着て、人に囲まれながら中へ入ってきた。片手をポケットに突っ込み、周りを気ままに見回している。その全身からは、強い自信と余裕がにじみ出ていた。そばにいる連中は、へつらうような笑みを浮かべている。「高橋さん、こちらへどうぞ」「本日の周年イベントにお越しいただけるなんて、原栄ゲームにとってこの上ない光栄です」「藤原社長も間もなく到着いたします」「連絡もせずに来て、迷惑にならないか心配だったけどね」そう言いながらも、その口調にはまったく遠慮が感じられない。周囲の人間は次々と持ち上げ、口々にお世辞を並べた。黒田部長はずっとその様子を見ていたが、男の顔をはっきり確認すると、ふと柚香と絵理に視線を向ける。「なんか見覚えない?あの人、高橋グループの社長の一人息子、高橋桐也にちょっと似てる気がするんだけど」柚香は思わず手に力を込めた。――似ているんじゃない。本人だ。あの男は普段から遊び歩いてばかりで、プライドだけは高いくせに実力が伴わない、典型的なドラ息子だ。原栄ゲームのような会社なんて、同じ規模のものが二つあっても目にも入らないだろう。それなのに、どうしてここに……胸の奥に、嫌な予感がふっと浮かぶ。まるで、自分を狙って来たような気がしてならない。「絵理お姉さん、ちょっと上に行ってきます。夜のステージの準備がありますので」適当な理由をつけて、その場を離れる。あの男とは関わりたくなかった。もし遥真との関係をばらされたら、面倒なことになる。「うん、行ってきて」柚香が去った直後、黒田部長はすぐに高橋桐也(たかはし きりや)の注意を引き寄せた。満面の笑みで近づき、やけに馴れ馴れしく声をかける。「高橋さん!こんなところでお会いできるなんて思いませんでした」声のほうへ目を向けた桐也は、見知らぬ顔だと分かると相手にする気もなかったが、視線を戻しかけた瞬間、黒田部長の後ろで足早に去っていく人影が目に入った。――あの後ろ姿、どこかで見たような?「今の、誰?」顎を軽く上げて黒田部長に尋ねる。黒田部長はその視線を追い、にこやかに答えた。「うちの部署の原画担当、橘川柚香です」桐也はくすっと笑った。――柚香、か。「高橋さんにお会いできて本当に光栄です、以前……」黒田部長は話を

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第43話

    そんなことはもうどうでもいい。今の柚香にとって一番大事なのは、お金を稼ぐことだ。後から提出した履歴書にも返事はなく、遥真が裏で止めているのはわかっていた。だから彼女は仕事探しの目標をアルバイトに切り替え、その日の午後にはマンツーマンのダンスレッスンの面接を取りつけた。結婚してからは専業主婦をしていたとはいえ、幼いころから続けてきたダンスと絵だけは手放したことがなかった。指定された場所に行くと、そこは京原市でも裕福な地域で、住人たちは子どもに付ける家庭教師もマンツーマンが普通だ。だから、今回の依頼主がまた遥真である心配はあまりなかった。けれど、呼んだのは遥真ではなかったが、ほ

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第47話

    「覚悟の上よ。本当に彼の手に落ちても……仕方がないわ」柚香はそう答えた。遥真が火の穴だとしたら、修司は落とし穴だ。どちらも逃げ場はないなら、心地よい方に従ったほうがいい。今、一番大事なのは稼ぐことなのだから。遥真は黒い瞳で彼女をじっと見つめ、冗談で言っているのか確かめようとした。「それに、さっきのはあなたの一方的な言い分でしょ」柚香は視線を合わせながら言った。「私にはお義兄さんに利用されるようなものは何もない。わざわざ私を相手に罠を仕掛ける必要なんてないのよ」遥真の瞳が沈む。この罠が自分に向けられたものだとは、さすがに言えない。「もし利用されるとしたって、他の人を相手にする

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第45話

    ただし。「前からずっと気になってたんだけどさ」時也が隣の椅子に腰を下ろし、目をきらきらさせて言う。「君のお兄さんって、誰かを好きになっても絶対に人に知られないようにするだろ?君がその人を利用して仕返しするんじゃないかって、恐れているんだと思う。でも君は真逆。柚香のこと、みんなに知られたくて仕方ないって感じじゃん」遥真は、外でだんだん暮れていく空を眺めながら、気持ちを隠す様子もなく言った。「誰かを好きになったら、みんなに知ってもらいたいだろ」時也「……」時也はまた尋ねる。「今でも、柚香が好きなのか?」「興味も価値もない相手に、時間なんて使わない」遥真は、別の形でその問いに答え

  • 手遅れの愛、妻と子を失った社長   第39話

    柚香は視線をそらし、もう二人に構う気にもなれなかった。背中に刺さるような視線を必死で振り払って気持ちを整え、高橋先生に母の手術の話を続けようとする。「高橋先生、続きをお願いします」高橋先生はごくりと喉を鳴らした。自分のボスが放つ圧に、どうしても意識がそちらへ引き寄せられてしまう。本当は一度彼女を帰して、あとで改めて話そうと思っていたところだ。そのとき、遥真が口を開く。「高橋先生」「久瀬さん」高橋先生はすぐ返事をする。「今から、橘川さんのお母さんの件は君が担当しなくていい」遥真はそう言いながらも、井戸の底のように深い目だけは柚香を見ていた。「別の医者に任せる」「え……

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status