LOGINメッセージを送ると、すぐに相手から電話がかかってきた。康平はすぐに電話に出た。「誰が作ったの?」向こうから、すぐに問いが返ってくる。「安江様の弟子、神代凛音です」康平は答えた。「ちょっと見せて」隊長は単刀直入だったが、声にはどこか気だるげで軽い調子が混じっていた。「ちょうど今、暇してるところだから」「電話番号を一つ送りました」康平はメッセージを送り、続けて説明した。「凛音がこの人のために、追跡を回避するシステムを作ったんです。今日中にこの人の居場所を特定できたら、つまり、そのシステムを破ったってことですよ」電話の向こうから、カチャカチャと何かを操作する音が聞こえてきた。しばらくして。隊長が少し驚いたように「あれ?」と声を漏らした。康平は運転しながら、口元に笑みを浮かべた。「思ってたより手強いでしょう?」「安江おばさんの弟子、なかなかやるじゃん」隊長はキーボードを叩きながら、パソコンの画面を食い入るように見ていた。康平「!」「ちょっと試してみる。結果が出たら連絡する」隊長はそう言うと、電話を切った。「安江おばさん?」柚香が不思議そうに聞いた。それなりに親しい間柄でもなければ、母親のことをそんな呼び方はしない。母がこんな人と知り合いだったなんて、柚香は知らなかった。「ゴホン」康平は、まさかこんなに早く関係を知られるとは思っていなかった。バックミラーを一度見てから、ようやく口を開く。「隊長の師匠が、昔安江様と知り合いだったんだ。二人はかなり親しい間柄だったらしいです」柚香は少し記憶をたどったが、母からそんな話を聞いたことはない。「もし隊長でも調べられなかったら、あとは勘で場所を探すしかないですね」康平は前を見ながら言った。柚香は「うん」と答えた。そしてスマホを取り出し、凛音にメッセージを送り、雅人名義の資産や不動産について調べてもらった。五分もしないうちに、凛音から一つの資料が送られてきた。柚香が受け取ると、すぐに凛音から電話がかかってきた。柚香がお礼を言うと、凛音は単刀直入に尋ねる。「これって、遥真の今いる場所を探すため?」「うん」柚香は隠さなかった。「遥真の性格なら、たとえ見つけて会いに行ったところで、素直に喜んだりしないよ。きっと冷たいことを言って、『余計なことするな
「大丈夫だ」修司は少しも焦っていなかった。「途中にも別の人間を配置してある。君はこの道だけしっかり見張っていればいい」「分かりました」部下は電話を切ると、引き続き慎吾の車を追った。慎吾は康平ほど運転がうまいわけではないが、それでも普通の運転手を相手にするなら十分な腕だった。自分が尾行されていることに気づくと、慎吾はスピードを上げた。ただ相手を振り回しているだけとはいえ、いつまでも後をつけられるのは気分がよくない。修司の秘書は、修司が電話を切ったのを見て、少し心配そうに尋ねた。「柚香さんは遥真さんの居場所を見つけられるでしょうか?」「見つけられるかどうかは重要じゃない」修司自身も答えを持っているわけではない。「重要なのは、あの弟に、柚香が自分を探し回っていることを知らせることだ。それと、兄である私が彼女を尾行していることもな」秘書は唇を軽く噛み、結局何も言わなかった。どうにも、修司の計画は危険すぎる気がしてならない。もし自分たちが思っている以上に遥真が手強かったら、取り返しのつかないことになるだろう。「千尋のほうは最近どうだ?」修司が尋ねた。「いつも通りです」秘書はきちんと報告した。「毎日、普通に撮影の連絡を待って、撮影に行っています」修司は「ああ」とだけ返し、それ以上は何も言わなかった。車の窓越しに外を眺めながら、今回の一件について頭の中であらゆる手を打っていた。父親は自分が助け出せる。遥真も、いずれ自分の手の中に落ちてくる。それに、柚香も遥真という後ろ盾を失えば、もう千尋の前で好き勝手なことを言うことはできない。その頃、柚香は康平と一緒に久瀬家の方向へ向かっていた。窓の外に見慣れた道が流れていくのを見て、柚香はどうしても不安になった。「お嬢様」康平は柚香とは対照的に、ずいぶん余裕があった。「遥真さんと恭介さんのスマホには電話つながりますか?」柚香は答えた。「つながるよ」康平はさらりと言った。「じゃあ、家にいる友達に頼んで、位置情報を調べてもらえばいいんじゃないですか?」「!!!」柚香は思わず額を叩いた。どうしてこんな簡単なことを忘れていたんだろう。すぐにスマホを取り出し、凛音に電話をかけた。電話がつながると、柚香は今起きていることを一通り説明し、最後に頼みたいことを伝えた。「悪
「つまり、遥真は久瀬家の本宅にいるってこと?」柚香は、その可能性は低いと思った。それに、本宅には遥真の人間だけでなく、修司や雅人の人間もいる。そんな場所で、いつ大声で騒ぎ出すか分からない雅人を連れて過ごしていたら、見つかる可能性はほぼ百パーセントだ。それに、雅人がいなくなったと分かれば、修司が真っ先に探すのも本宅だろう。「もちろん、本宅そのものじゃないです」康平は言った。「でも、八割くらいの確率で本宅の近くだと思う」柚香は周辺の建物を思い浮かべてみたが、これといった記憶はなかった。本宅へ行くこと自体ほとんどない。遥真に連れて行ってもらったときも、いつもほんの短い時間で帰っていた。遥真自身、柚香をあそこへ連れて行くのをあまり好んでいなかった。「修司の人間に張られないように、二手に分かれたほうがいい」康平は助手席の慎吾を見ながら言った。「このあと、君はこの車で水沢家の旧宅周辺と郊外を回ってみてくれ」慎吾は首を横に振った。「駄目だ。君一人じゃ、お嬢様を守りきれない」康平は車を運転しながら、何度も道を曲がった。「ここは京原市だ。それに、俺たちは急に動いてる。こんな短時間で俺とお嬢様の居場所を突き止めて、何か仕掛けるなんて無理だ」慎吾は迷っていた。「康平の言う通りにして」柚香が口を挟んだ。「俺と代わって」前回のことがまだ頭に残っているのか、慎吾は慎重だった。「康平があっちを回って、俺がお嬢様を連れて遥真さんに会いに行く」「遥真さんがどこにいるか知ってるのか?」康平が核心を突いた。「どうやって見つける?途中で何かあったとき、すぐに状況を判断して対応できるか?」慎吾「……」認めたくはなかったが、確かに康平のほうが頭が切れる。「じゃあ、これで決まり」康平はバックミラーをちらっと見て、スピードを上げた。「一人で動くときは、できるだけ車を飛ばせ。時々あいつらを引き離してやれ」「言われなくても分かってる」慎吾は答えた。それから十分ほど、康平はスピードを上げながら信号の変わるタイミングを見計らって青信号を次々と抜け、さらに何度も道を曲がった。監視カメラがなく、道幅の広い場所まで来ると、黒い普通の乗用車の隣に車を停めた。「お嬢様、降りて、隣の黒い車に乗ってください」柚香はよく分からなかったが、すぐに言われた通
「これは?」執事は、その住所を見て不思議そうにした。「車を一台用意して」柚香はその紙をしまい、そこへ行ってみることにした。「ちょっと出かけてくる」執事は余計なことを聞かず、すぐに車の手配に向かった。時也に言われたことを思い返し、念のため柚香は康平と慎吾にもメッセージを送った。【京原市って楽しい?】もし二人が遊んでいるなら呼び戻すつもりはない。退屈しているなら、戻ってきてもらって一緒に行くつもりだった。康平【楽しくないです】慎吾【そうです】柚香は「?」を送った。康平は真面目に愚痴をこぼした。【お金がかかりすぎます。蒼海市とたいして変わりません】慎吾【俺の地元のほうがまだ楽しいです】康平【確かに】【そんなに楽しくないなら、戻ってきて私と何か所か回って】柚香は遠慮なく二人に頼んだ。何しろ、自分が雇っている人たちなのだ。【用事が終わって戻ったら、休みをあげるから】【休みはいいです】康平は休暇なんてものには、まったく興味がなかった。【その代わり、ボーナスを出してください】慎吾もすぐに同意した。柚香は迷うことなく承諾した。次の瞬間。康平と慎吾が門から入ってきた。一人は門枠にもたれ、もう一人は背筋を伸ばしてまっすぐ立っている。「いつ出発します?」「?」柚香は驚いた顔で二人を見た。時間を確認すると、二人が戻ってくるまで三分も経っていない。もしかして、ずっと柚苑を出ていなかったの?「そんなに驚いた顔で見ないでくださいよ」康平は口に草をくわえ、いかにも気楽そうな様子だった。「俺たちの大事な雇い主なんだから、守るのが俺たちの仕事でしょう。まさか仕事をサボるわけにはいかないですって」隊長からの電話を受けたあと、二人は本来なら遊びに行くつもりだった。だが、観光情報を調べてみると、そこまで興味を引かれる場所でもなかった。ちょうど戻ろうとしていたところへ、修司の車が柚苑に入っていくのが見えた。もし何かあったらまずいと思い、二人はこっそり戻ってきたのだった。「車ならもう用意してあります」康平は笑うと、なかなか愛想のいい顔を見せた。「どうぞ、お嬢様」柚香の目に、ふっと笑みが浮かんだ。肩に掛けていたショールを外し、スマホを手に二人と一緒に出ていく。出発する前に、執事にも一声かけた。柚苑を
「どうぞ」柚香の返事は、たった一言だった。修司は軽く頷いて、そのまま柚苑を後にした。最後まで余裕のある、穏やかで礼儀正しい態度を崩さなかった。時也は門のところに立ち、修司の車が柚苑を出ていくのを見送った。そして、どこか腑に落ちない表情で柚香に言った。「修司の性格からして、こんな大したことのない話をしに来ただけとは思えない」「じゃあ、目的は何だと思う?」柚香も同じように感じていた。修司は何をするにも計算して動くタイプだ。さっきの話では、修司にとって何の有益な情報も利益も得られない。普段の彼のやり方を考えれば、わざわざここまで足を運んでくる理由にはならない。「第一の目的は、遥真だろう」時也は柱にもたれながら、一つずつ考えを整理していく。「君のところに来て、情報を探る以外に残っているのは……」何かに思い当たったらしい。時也はすぐに眉をひそめ、真剣な顔で柚香を見た。「君についてる、あの二人の腕の立つボディーガードは?」「出かけてる。ちょっと用事があるの」柚香は何でもないことのように答え、それ以上詳しくは話さなかった。「修司の狙いは、君である可能性が高い」それが、時也が考えられる唯一の答えだった。「修司は遥真を見つけられなければ、雅人を助け出すことができない。だったら、君を使って遥真を脅すしかない」修司が久瀬グループの経営権を手に入れようとするなら、何としてでも雅人を守らなければならない。だが、自分の力だけで遥真を見つけ出すのは簡単なことではない。だからこそ、柚香を捕まえるのが一番手っ取り早い。柚香はさっきの修司とのやり取りを思い返した。どうしても、あれが修司の本当の目的だとは思えなかった。もし本当に自分が狙いなら、あまりにも分かりやすすぎる。それに、自分がいるのは柚苑だ。ここには至るところに監視カメラがある。修司が手を出せるような状況ではない。「君のボディーガード二人には、できるだけ早く戻ってくるように言った方がいい」時也はすぐに決断した。「僕は遥真を探してみる。何か分かったら連絡する」「もし違っていたら?」柚香が尋ねた。「君さえ無事なら、遥真は他のことには対処できる」時也はそう答えたが、その表情には重いものがあった。「その間、時々でいいから、遥真にも連絡してみてくれ」そう言い残して、時也は出ていった。
「わかった」大輔は頷いた。「ここでしっかり見張っててくれ」健太はそう言いながら上着を羽織った。「俺は上に行って、外を見てくる」健太が上へ上がると、恭介はちょうど遥真に状況を報告していた。「柚香さんは最近、特に問題ありません。二日前に隣の市で二期目の契約を結んで、今は柚苑に滞在しています」「本当に何もない?」遥真は聞いた。「はい、間違いありません」遥真は承輝と神崎家のことを考えながら聞いた。「慎吾と康平は、柚香のそばにいるか?」「いません。柚苑に着いたあと、二人とも離れました。今どこにいるのかは分かっていません」恭介は自分が調べたことをすべて報告した。「それと、30分ほど前に時也さんが柚香さんに会いに行っています」遥真はスマホの画面を点けた。柚香から電話がかかってきたのも、ちょうど30分ほど前だった。「二つのチームを動かして、気づかれないように彼女を守れ」遥真はどうしても安心できなかった。「修司や雅人の人間を、彼女に近づけるな」修司が雅人を見つけられなければ、何としてでも自分に雅人を引き渡させようとするはずだ。そして、一番手っ取り早くて効果的なのは、柚香を人質にして自分を脅すことだ。こんな状況で、絶対に柚香を巻き込ませるわけにはいかない……同じ頃。修司は柚苑にやって来ていた。突然訪ねてきた修司を見た時也は、警戒するような目を向けた。そのせいか、口から出る言葉にも棘があった。「情報が回るのは早いな。柚香がここに来たばかりなのに、もう知ってるのか」修司は眼鏡を押し上げた。「君も同じだろう?」時也「……」「私に何の用ですか?」柚香は世間話や無駄話をする気などなく、単刀直入に聞いた。「君に送ったメッセージは、もう届いているはずだ」修司はソファに腰を下ろした。物腰は相変わらず穏やかで、どこか上品な雰囲気を漂わせている。「遥真が今、少しばかり無茶なことをしている。君に協力してもらって、彼を見つけ出し、行動を止めてほしい」柚香は何も答えず、続きを待った。修司は柚香の目を見た。「君だって、彼に犯罪に手を染めてほしくないだろう?」柚香は落ち着いた声で言った。「修司さんは、自分の弟にありもしない罪を着せるのがお得意なんですね」「父親を連れ去ったのが、あの時の真相を聞き出すためだということは、君も分