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第2話

Author: 喜々(きき)
LINEを送ったとたん、すぐ返ってきた。

【?:ほんとに離婚するの?】

【澪:うん】

【?:……納得してる?】

【澪:「ほどよい」って、温度ならいちばん心地いいのにね。気持ちの話になると、とたんにしんどい】

【?:それな。ったく、凛也ってほんとクズ】

【澪:そもそも政略結婚なのよ。本気にしないで】

澪は最後の一文を送って、スマホを伏せて、そのまま布団にもぐり込んだ。

けれど、眠りは浅かった。

部屋にはまだ、凛也のボディソープの香りが残っている。澪のものとは違う、重たい香り。

いつもなら落ち着くはずなのに、今夜は悪夢みたいにまとわりついてきた。

翌朝。

食卓に降りると、そこに凛也の姿はいない。家政婦の小林京子(こばやし きょうこ)が朝食を並べながら、様子をうかがうように言った。

「神崎さまは、もうお出かけになりました」

ミルクのカップに指先を添え、「ええ」とだけ返す。

「それと……お出かけの際、スーツケースもお持ちになっていました……」

「わかった」

京子は西園寺家からずっと付いてきた人で、澪のことを小さいころから知っている。だから、しばしば「余計」な話も口にする。

「……神崎さまと、けんかでも?」

澪は目を上げ、隠す気もなく淡々と告げた。

「けんかじゃない。離婚よ」

京子が息をのむ。口を開きかけて、踏み込みすぎるのを怖がったのか、最後に、小さく確認するだけにとどめた。

「神崎さまから……?まさか、西園寺家の最近の件の影響……」

「私からよ。西園寺家の件は彼が知らない」

西園寺家のいざこざは、今はまだ本家が押さえ込んでいる。凛也の耳に入る余地はない。

京子は唇を結び、何か言いたそうな様子だが、澪は、そのチャンスを与えなかった。ミルクを飲み干し、短い電話を一本入れて、そのまま玄関へと向かう。

邸宅を出て、車で自分の働いる会社・週刊ルミナスへ。

道中、アシスタントから取材の報告が飛んできた。

「取材前に、相手が炎上しました……

素行が原因で……秘書にたれこまれたみたいです。

模範扱いだったのに、失脚が早すぎて……」

澪はハンドルを握ったまま、短く問う。

「代わりは?」

「……いません」

眉間がわずかに寄る。

「前にも言ったよね。どの号でも、候補は必ず用意してって」

声の温度が下がったのを察して、電話の向こうが静まり返る。

少し置いて、澪は指示を出した。

「あと三十分で着く。今すぐ各社に当たって。近々時間が取れそうな社長を探して」

「了解です」

「ごまかさないで、正直に話して。週刊の締め切りを見れば『代役扱い』だって、向こうもわかるから」

「……はい。わかりました」

通話を切り、澪は眉間を指で押さえた。

踏んだり蹴ったりとは、まさにこのことだ。

社に着くころには、編集部がパニックになっていた。電話を回す者、告知を取り下げる者、原稿データを削る者。

せっかく詰めた取材原稿も、全部やり直し。骨折り損だ。

澪が入るのを見て、みんなが口を揃えて挨拶を。

「おはようございます!」

澪は小さくうなずき、すぐ本題に入った。

「いい候補、押さえられた?」

返事がない。

沈黙だけで、だいたい察する。

バッグを空いたデスクに置き、「続けて」と目で示して、廊下へ出た。

数分後。

澪が編集長室に入った。

編集長の早川浩一(はやかわ こういち)は四十代の男で、部下には「結果」しか求めない厳しいタイプだ。事情を聞くなり、顔が曇る。

「発刊が目前だぞ。このタイミングで、取材相手が飛んだと?」

澪は言い訳をしない。

「私の落ち度です」

「今は落ち度の話じゃない。どう収めるかだ」

澪は来る途中で組んだ案を、そのまま出した。

「次号予定の三浦朔(みうら さく)社長の取材を、前倒しできませんか」

編集長はしばらく黙っていたが、やがて目の前で電話をかけた。

通話の向こうが何を言ったのかは聞こえない。ただ、編集長の表情が一気に晴れる。

「本当ですか?助かります……!では、来週の水曜でよろしいでしょうか」

電話を切ると、机を軽く叩いて澪を見る。

「今号は三浦社長の記事でいく。で、おまえは準備しろ。来週水曜は、神崎社長に取材だ。その取材で、次号の穴を埋める」

「……どの社長ですか」

「神崎グループの神崎凛也社長だ」

「……」

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