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第1032話

Author: 金招き
二人は視線を交わしながら、そっと微笑み合った。

今日は――特別な日。

ふたりにとって、かけがえのない日。

心から喜ぶべき時なのだ。

過去に何があろうと、この瞬間だけは幸せに浸っていい。

次は指輪の交換だ。

「それでは新郎様、新婦様にキスをお願いします」

司会者の声が、二人が互いに指輪をはめた直後に響いた。

憲一は観客席から盛り上げようと、「キス!キス!」と叫んだ。

元々越人は特に恥ずかしがるつもりはなかったが、憲一にそう煽られると、かえって落ち着かなくなった。

彼はチラリと客席に視線を向けた。

大勢の視線が集中している。

あの野郎、後でぶっ飛ばしてやる……

憲一がわざとらしく口笛まで吹いていた。

「どうした新郎!まさか照れてるんじゃないだろうな〜?」

「……」

越人は言葉を失った。

愛美はそんな彼の様子に思わず笑ってしまった。

すぐそばに立つ越人の、耳の先が真っ赤になっているのを見てしまったのだ。

まさか、いつも冷静な越人に、こんな一面があるなんて。

「キスできないなら、俺が代わりにやってやるぞ〜?」

憲一は越人がこの場で反論できないのをいいことに、ますます調子に乗った。

その時、愛美は自ら越人に歩み寄り、彼の首に腕を回すと、反応する間もなくつま先立ちで唇を重ねた。

越人の体は一瞬硬直したが、すぐに彼女の腰を両手で抱き上げ、熱烈に応えた。

双は周りの人を見習って手を叩きながら、香織に言った。

「ママ、ふたりキスしてるよ!全然恥ずかしくないんだね!」

香織は苦笑いしながら、息子の頭をそっと撫でた。

「ママ」

双は真剣な顔で質問した。

「パパとママもキスするの?」

「……」

香織は言葉に詰まった。

彼女は息子を見下ろした。

これはどう答えればいいのか?

圭介は唇に笑みを浮かべ、彼女の困惑した様子を楽しんでいた。

憲一が双を抱き上げ、からかうように言った。

「キスしなかったら、お前は生まれてこなかったんだぞ」

「……」

香織は言葉を失った。

双はぱちぱちと目を瞬かせ、まったく意味がわからない様子で首をかしげた。

「どういうこと?」

「それはな……つまり……」

「黙りなさい」

憲一が口を開こうとした瞬間、香織に遮られた。

「娘ができてから、どうしてこうおしゃべりになったの?」

以前の彼
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