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第15話

Auteur: 青い鳥
このごろ調べてみたんだけど、渉って実は業界じゃすごく有名な天才画家なの。絵一枚が、少なくとも数百万円はするらしい。

それにこの間、H市のオークションに出された彼の絵なんて、6000万円の値がついたんだって。

「最近は何を書いてるの?あなたが絵を描いてるところ、私、見たことないけど」

渉は、ちらっと私を見下ろして言った。

「それは秘密だよ」

「教えてくれないならいいわよ。別に知りたいわけじゃないし。ほんと、気取ってるんだから」私は呆れたように言った。

冷たく湿った潮風が、体の芯まで凍えさせる。ここ数年、ずっと南の方で暮らしていたから、もうこんな寒さには慣れなくなったみたいだ。

私は手をこすり合わせて、白い息を吐いた。

渉は意地悪そうに言った。

「だから、もっと厚着しろって言っただろ?おしゃればっかり気にして。寒いんじゃないの?」

私は彼をちらっと睨んだ。「普通の男なら、今すぐ上着を脱いで女の子に着せてあげるもんでしょ。あなたって、それくらいもわからないの?」

本当は、私も普段はこんなキツイ言い方しないんだけど。

友達にいつも、おっとりしているねなんて言われていたの
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