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第13話:兆しの影

last update آخر تحديث: 2025-05-20 20:36:40
あれから更に数日が経った。

レナルドの行方は依然不明。だが、街の警備態勢は強化され、リリウスの名も徐々に軍の中で広まりつつあった。

「お前の読みは当たっていた。……と、上層部も言ってる」

副官がぼそりと告げたのは、執務室からの帰り道だった。

「……ありがとうございます」

感謝の言葉は自然に出た。けれど、それで胸が晴れることはなかった。

(本当に“当たった”のか。あれは──)

記憶。

映像。

炎。

倒れた誰か。

祈りの声。

(あれは、誰の記憶だったんだ……?)

レナルドのものなのか。それとも、自分自身の記憶が歪んだのか。

分からないまま、それは脳裏に繰り返し焼きついていた。

もとよりこういう方法で力を使ったことはない。

どちらかと言えば、この力は厄介なものでしかなかった。

それが今は“役に立つもの”になりそうなのも不思議だった。

(そうか。この力が──あの人は嫌だったのかもしれないな)

打ち捨てられた日を思い出す。

小さくリリウスが息を吐き出し、窓の外を見つめる。

厚い雲が日差しを遮っており、今の自分とよく似ているな、とリリウスは苦笑を落とした。

「感応で得た内容を、言葉にできるか」

カイルの問いは、唐突だった。

「……今、ですか?」

「覚えているうちにな。時間が経てば、曖昧になる」

静かな執務室。

陽のが」わずかに差す窓辺で、リリウスは机に向かう。

紙とペンが用意されていた。

「言葉でなくてもいい。お前の方法で記録しろ」

副官が無造作にノートと鉛筆を渡す。

「……どんなものでもいいんですか?」

「絵でも図でも構わない。主観でいい」

リリウスは頷き、鉛筆を握った。

白紙を前に、記憶の断片を引きずり出す。

天蓋が崩れた瞬間の影。

炎に包まれた広場。

膝を抱える少女。

──そして、腕輪。

焦げた金属が、誰かの手首に食い込んでいた。

(あれは……)

手が止まった。

心臓が早鐘のように打ち出す。

目の奥が熱い。

「無理するな」

カイルの声が響く。だが、止まらなかった。

リリウスは震える指で線を引き、色を塗るように、思い出を定着させていく。

時間がどれだけ経ったのか分からない。

描き上げた紙を、カイルが無言で手に取った。

その目が、わずかに細まる。

「これは……」

「何か、知ってるんですか」

「この構図。十数年前、国境紛争のさなかに起きた、ある神殿襲撃事件と酷似している」

めがねあざらし

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