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第14話:火種の下にて

ผู้เขียน: めがねあざらし
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-05-21 21:00:51
「結論から言えば、実用に足る──ただし、条件つきだ」

そう告げたのは、カイルだった。

会議室の空気は冷たく、硬い。

中央の円卓を囲むのは、この拠点の上層部。制服の襟に並ぶ勲章の数と比例するように、視線は鋭く、時に冷ややかだった。

リリウスはその場に同席していた。壁際の椅子。発言権はなく、ただ静かにカイルの背を見つめる。

「感応とは、確かな情報ではなく、情緒や断片の共有に過ぎん」

老将が口を開いた。

「そんな曖昧なもので兵を動かせるのか? ましてΩの直感にすぎんものを」

「兵を動かすのは俺だ。情報の価値を判断するのも、俺だ」

カイルの言葉に、室内の空気がわずかに揺れた。

「それに──“使えるか否か”を決めるのは、結果だけだ」

誰も言葉を返さなかった。

会議の後、リリウスは人気のない廊下を歩いていた。

(僕は……本当に、使えるのか)

正式に軍の前線に立つことも、戦場に出ることもない。けれど今、確かに“戦力の一端”として名が挙がった。

そのことに、責任よりも先に、違和感が湧いていた。

(この力は、なんなんだ)

他人の記憶が流れ込む。過去の断片が心を焼く。だがそれは、他人だけのものとは限らない気がしていた。

“誰の祈りか分からない”その感情が、なぜ自分に繋がるのか。

通りかかった際に聞こえた何気ない会話がその疑問にひとつの輪郭を与えた。

「昔、あのΩと似たような“感応持ち”がいたらしいな」

「え……」

「十年以上前。前線に出てた兵の中に、敵の気配を“読む”ってやつがいた」

「それって、どうなったんですか?」

兵士はほんの一瞬だけ、口を噤んだ。

「任務中に失踪した。感情を見過ぎたせいで、自分の心を見失ったって噂だ」

リリウスは何も言えなかった。

言葉にすれば、揺らいでしまいそうだったから。

一つ息を吐いて、その場を足早に立ち去った。

夜、リリウスはまた机に向かっていた。

白紙の上に、鉛筆の線を走らせる。

目的は“報告”ではなかった。

──自分が、何を見たのかを、理解するため。

輪郭、色、光、匂い。

あの場の空気を、記憶から掬い上げるように描いていく。

そのとき、ふと気づいた。

自分がその場に“立っていた”のではなく、“俯瞰していた”ような視点で描いている。

いや──いや、違う。

(この視点……僕じゃない……)

その確信に、手が止まった。

胸の奥に、ひやりとした波が広がって
めがねあざらし

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