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last update Last Updated: 2025-09-05 06:00:21

「蓮司はいつもみんなのことをよく見ていますよね」

「そうか?」

「はい。的確な指示を出しては、鬼のダメ出し攻撃するので」

「なんだ。ひかりは俺のことを褒めているのか、貶しているのかどっちだ」

「ふふ。褒めているんですよ」

 笑って言うと、蓮司が顔を反らした。あれ。褒められ慣れていない感じ?

「蓮司、会社ではすごくえらいですよー(棒読み)すごーい(棒読み)てんさーい(棒読み)」

「思ってもいないことを言うなよ」

「思ってます」

 真剣に言った。「御門家のことを知って、蓮司がいかに窮屈で、大変な思いをして育ってきたのか、よくわかりました。結婚相手さえ自由に選べないのは、辛いですよね」

「…まあな」

「私みたいな奔放な人間だと、後で『合わなかった』と離縁しても『仕方ない』ですみますもんね」

「仕方ないとはならないだろう」

「じゃあ、期間が来たらどうするんですか?」

「そうだな…」蓮司は顎に手を当て、真剣に考えている。「場合によっては延長の申し出をするかもしれない」

「え”」

 偽装の婚約期間を延長するの!?

「困ります。そんなことしたら、私、行き遅れます」

「もう俺に嫁いでいるだろう」

「あ、いや、まあ、そうですけど…蓮司と離婚したら、バツ2になるんですよ。再々婚となればハードル高いですし、婚活は早めの方がいいと思っているんですが…」

 バツ2なんて、超問題あり物件と思われるよね。そこ、考えてなかった!

 考えなしに行動するから後悔しても遅いよね。とほほ…。

「まだ結婚中だぞ。そんな先の話はいいだろう」

 なぜか蓮司が不機嫌になった。

 そこ、不機嫌になるところ!?

 困っていると、ピーンポーン、とインターフォンが鳴った。ドアフォンを見ると、マンションの入り口の所に出前の会社、ウーハーイートの配達員の人が映っている。

『御門さんでしょうか。お待たせしました、ウーハーイートです』

「はい、どうぞ」

 対応し、ドアロックを開けると、配達員のお兄さんが中に入ってくる様子が映っていた。

「よし、来たな。取ってくるから食べよう。飲み物を頼む」

「はい」

 一緒に飲もうということで、ビールを用意した。私はワインやシャンパンよりビール派なのよ。

 おっさんか、とよく言われるけれども気にしない、気にしない!

「届いたぞ」

 玄関から戻ってきた蓮司さんが丁寧に注文品をテーブルに置い
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