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last update Huling Na-update: 2025-09-25 06:00:32

「けがはないか?」

「あ…はい。蓮司が…あ、いえ、本部長が庇ってくださったおかげで、なんともありません」

 球児が強制退場したからといって、このフロアのざわつきは収まらない。

「みんな、聞いてくれ」

 蓮司は臆することなく、よく通る声で高らかに宣言した。「騒ぎを起こしてすまない。ちょっとした行き違いがあっただけで、俺や中原さんはなにもやましいことをしたわけではない。先ほども宣言したとおり、俺が一方的に中原さんに好意を寄せていて、彼女の離婚当日に結婚を申し込んだ。中原さんを説得して、今、彼女は俺の妻になってくれた。すでに婚姻届けも提出して、戸籍上、正式な夫婦となっている。しかし彼女が伴侶になったとて、業務に支障はない。今まで通りなにも変わらないから、みんなもそのつもりでいてくれ」

 しん、とその場が静まり返った。

「行こう」

 ぐっと手を握られ、私は蓮司に連れられてその場を去った。

 わぁぁどうしよう…。これ、明日みんなから詰め寄られるよぉ……!

 それに、坂下君や亜由美になんて言おう…。

 ※

 会社の騒動は解決しないまま、その日は結局お母さん(蓮司の実家)家に行って、また30分だけ修行した。蓮司も付き合ってくれて、しっかり扱かれた。だいぶできるようになってきたので、自信がついてきた。

 あと、帰り際、約束だったシリウスを預かることになった。数日間のお泊りセットと共に、シリウスと一緒に蓮司のマンションへと帰った。

「ワンっ」

 蓮司は時々シリウスを預かっていたらしく、住まいのことを心配したけれど、ここはペット飼育可の物件のようで、家に連れ帰ることは問題なかった。基本室内で飼いならされているようだし、シリウスはすごく大人しいから

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